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日米ビール事情

米田 裕美子

米国産ビールへの偏見から尊敬へ、日本産ビールへの愛着

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 米田 裕美子

 夏だ。ビールのおいしい季節の到来である。

 私が事務所に入所して、気づけば8回目の夏だ。私は、3年前の夏、アメリカ合衆国カリフォルニア州のバークレーへ留学し、その後ロサンゼルスの法律事務所での研修を経て、昨年末事務所に復帰した。事務所を離れている間に、かわいい子供二人にも恵まれた。そんな私に本稿の執筆依頼をした事務所としては、私がアメリカ留学・研修生活の話や、育児と仕事の両立の話をすると予想しているのではないかと思う。私も本稿を実際に書き始めるまでは、そのような心積もりでいて、アメリカにて子連れで働く友人の女性弁護士から育児情報を収集したり、アメリカ時代の写真を見返して懐かしんだりしていた。
 しかし、何件か案件がひと段落し、外は暑く、空は青い。急にビールが飲みたくなってしまった。そこで、少しだけアメリカ生活や子育てに絡めつつも、主にビールについて語ってみたいと思う。

 私は、大学時代から一番好きな飲み物はビールで、おいしくビールを飲むために運動系のサークルに入っていた。大学卒業後もそれは変わらず、修習時代はクラス仲間との懇親と称して夜な夜な和光市駅前の居酒屋に繰り出し、弁護士となった後も、案件の打上げや歓送迎会等々、理由は後付けで、よく同僚とビールを飲んでいた(弁護士はワイン好きが多いというイメージであるが、私の同僚にはビール好きも多いように思う。)。

 そんな私も2012年の夏からバークレーのロースクールに留学することとなった(幸運なことに夫も一緒である。)。私も夫もアメリカ西海岸に憧れを抱いており、またシリコンバレーにも近いバークレーで法律の勉強することは非常に楽しみであったが、唯一、アメリカでのビール生活には不安を抱いていた。私たちは、アメリカのビールといえば、ビール名のロゴが入った服を着ているお姉さんのイメージと、日本のビールと比べて色も味もすっきり(悪く言えば、薄い。)という偏見を持っていた(私たちのように、アメリカのビールにそれほど良い印象を持っていない日本人は少なくないのではないかと思う。)。それゆえ、「絶対日本のビールが恋しくなるな・・・でも輸入ビールだし、アメリカでは高くて日本のビールは飲めないだろうな・・・これを機にワイン派に鞍替えしようか。」などと話していた。

 しかし、私たちは間違っていた。まず、「色も味もすっきり薄め・・・」と偏見を抱いていたビールが、西海岸で飲んでみると非常においしい。西海岸は、日本に比べて雨が大変少なく、カラっと乾いているので、すぐ喉が乾く。そのためか、このすっきりしたビールが一杯目に非常に良い。また、アメリカでは、定番ビールを更に軽くしたと思われる、「~ライト」シリーズ(BUD LIGHT、Coors Light、Miller Liteなど)も多々あったが、これがまたおいしい。ついコストコで箱買いしてしまった。
 (なお、不思議なことに、一度おいしいと感じてしまうと、別に西海岸でなくても(日本でも)おいしく感じるもので、先週末もバドワイザーを飲んでいた。)

 次に驚いたのが、アメリカの地ビールの数である。どのレストランに行っても、だいたい聞いたことのないビールがある。しかも生ビールである。これは楽しくて仕方ない。どうやら私たちが渡米した頃、アメリカでは地ビールブームが到来したところだったらしい。ビールの醸造所数も多かった。私たちがバークレーで住んでいたアパートの近くには、Trumer Pilsというこれまたおいしいビールの醸造所があって、こんな近所でおいしいビールを作っているなんて!と感動したものである。
 ただこの多種多様な地ビールのブームには問題もあった。やはり、当たり外れが大きい。アルコール度数の異様に高い、味の濃いビールで外してしまったときなど、本当に辛かった。また、レストランも次々ビールを入れ替えるので、せっかく気に入ったビールを見つけても、次回同じレストランに行くとなくなっていることも多かった。

 このように、私たちは思いがけずアメリカビール生活を楽しんでいたのであるが、当たり外れを繰り返して半年も経つと、やっぱり絶対的に安心な日本の定番ビールが飲みたくなる。そこで、日系スーパーに行くのであるが、ここで更に驚きなのが、日本の定番ビールが日本よりはるかに安く(1本1ドル位)で買えることである。どうやら酒税が日本よりはるかに安いらしい(注)。またしても、ついつい箱で買ってしまう。渡米前に抱いていたアメリカビール生活への不安は全て杞憂であった。むしろ、ビールが充実しすぎていて、カリフォルニア名物のワインをいつ飲めば良いのかが悩みの種であった。
 (注:ただし、アメリカで注意しなければならないのが、州によっては商品の代金や消費税とは別に、缶・瓶・ペットボトルにCRVという料金が加算されることである(カリフォルニアでは1本につき5セントか10セント加算された記憶である。)。このCRVを回収するためには、リサイクルセンターに空き缶等を持ち込み、買い取ってもらう必要があり、なかなか手間である。)

 以上のように、アメリカでは、色々なビールを格安で楽しみつつ、勉強・研修・子育てに勤しんでいたので、帰国にあたり、今度は日本でのビール生活が不安になった。しかし、日本に戻ってきて、またしても驚いた。日本も地ビールブームが再到来中ではないか。色々なお店で、色々なビールが、しかも生で飲める。加えて、大手ビールメーカーも、地ビール(クラフトビール)事業に続々参戦中である。やはり日本のものづくりはすごい。

 私と夫が特に気に入っているのは、大手ビールメーカーがコンビニ限定で販売しているクラフトビールである。定番ブランドの安定感はありつつ、ちょっとした変化が楽しめて飽きない。しかもコンビニなので買いに行きやすい。普段は割と仕事が忙しく、子供も二人いるとなると、なかなか外に飲みに行けないので、毎回コンビニに行っては、違う種類のビールを買うのが最近の夫婦の楽しみである。

 ちなみに、余談であるが、私のアメリカ生活の約半分は、妊娠・授乳期と重なっていたため、その間は、ノンアルコールビールに大変お世話になった。普段ビールを飲めるときには、ノンアルコールビールにはさほど目がいかないのが正直なところであるが、ビールを飲めないときにはこれほどありがたい飲み物はない。ただ、アメリカでノンアルコールビールを買うときには、年齢確認を求められた。よく見ると、微量のアルコールが含まれているようである。結局ノンアルコールビールは日本のものを飲んでいた。この辺の(ゼロへの)徹底ぶりはやはり日本だな、と思ったりもする。

 このように、アメリカ生活を経て、アメリカのビールへの偏見は尊敬に変わり、日本のビールへの愛着も増した。これを教訓に、広い視野を持った弁護士になりたいと思う。そして、何より、依頼者にビールのような清涼感を与える仕事をしていきたいものである。