2015年07月31日
検察審査会が判断の根拠として重視したのは、昨年の議決の際と同様、政府の地震調査研究推進本部(推本)が2002年7月31日に公表した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」。推本はその中で、マグニチュード8クラスの津波地震が福島県沖を含む日本海溝近辺で今後30年以内に発生する可能性が20%程度あると予測していた。これに従えば、東電は、福島第一原発でその時点で想定していた津波の水位を大幅に上回る高さの津波への対策を迫られ、原子力設備管理部内では「最悪の場合、福島第一原発の運転を停止せざるを得ない事態に至り、そのことが東京電力の収支をさらに悪化させる」と危惧されていたという(議決要旨10ページ)。
昨年の議決では、「推本は、地震予測に関し、日本で権威を有する機関であり、その予測は科学的な根拠に基づくものと考えられ、当然、推本の長期評価は最新の知見として取り込むべきものである」と断定したが、今回の議決ではこの断定を避けた。代わりに今回の議決は推本の長期評価について次のように指摘した。
信頼度等が必ずしも高いとはいえず、その取扱いについては意見が分かれていたことは否定できない。(同13~14ページ)
専門家の間では意見が分かれていたことも事実である。(同14ページ13行目)
こうした否定的な見解にも触れつつ、今回の議決は次のように結論づけた。
しかしながら、推本の長期評価は権威ある国の機関によって公表されたものであり、科学的根拠に基づくものであることは否定できない。加えて、これまでの我が国の地震による災害の歴史、殊に、平成7年(1995年)1月に発生した阪神・淡路大震災の際は、かかる知見が十分に生かされなかったことが地震による被害を大きくしてしまったとされており、その反省に鑑みると、大規模地震の発生について推本の長期評価は一定程度の可能性を示していることは極めて重く、決して無視することができないと考える。(同14ページ)
こうしたことから、今回の議決は、10メートルを大きく超える高さの巨大な津波が発生し、放射性物質の大量放出を招く事故につながることについて、具体的な予見可能性があった、と判断した(同17ページ)。
そのうえで、議決は、「原子力発電所の安全対策に関わる者一般」について次のような義務があるとした。
重大事故を発生させる可能性のある津波が「万が一」にも、「まれではあるが」発生する場合があるということまで考慮して、備えておかなければならない高度な注意義務を負っていたというべきである。当時の東京電力は、原子力発電所の安全対策よりもコストを優先する判断を行っていた感が否めないが(中略)当時の東京電力の考え方自体を一般化するべきではない。(議決要旨18ページ)
また、東京電力が2008年に推本の長期評価を当面は対策に採り入れず、代わりに、土木学会の検討に委ねる方針を決めたことについて、昨年の議決は「時間稼ぎであったといわざるを得ない」と断罪した。が、これについても、今回の議決は断罪を避け
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