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事業再生と倒産に向き合った18年と弁護士の仕事

関端 広輝

事業再生・倒産とは

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
関端 広輝

関端 広輝(せきばた・ひろき)
 1994年3月、上智大学法学部卒。1998年4月、司法修習(50期)を経て弁護士登録(東京弁護士会)。前 新東京法律事務所(ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業))勤務。2006年、同事務所パートナー。2015年4月、統合により当事務所に参画。
 ●「ご専門は?」

 「弁護士されているんですか。何がご専門ですか?」

 プライベートで会った人に、職業は弁護士だと伝えたときに、最近よく聞かれる言葉である。

 そんなときは、「そうですねえ、事業再生やM&Aなんかをメインにやってますね」と答えるようにしている。

 もっとも、相手が年配の経営者だと、「へー、『事業再生』ですか、最近は後継者難に困っている中小企業も多いですもんね。うちも息子が会社勤めで、跡継ぎに困っているんですよ」と言われることも多い。

 心の中で「うん、それは『事業承継』だね」と突っ込みながら、「そうですね、後継者問題は、頭を悩ませますよね。最近は、M&Aの手法を使って、事業承継を考える経営者の方も増えてますよね」とそつなく答えるようにしている。

 そのような訳で、私の「主な業務」は、事業再生・倒産案件とM&A案件である。

 事務所のホームページを見ると、そう書いてある。

 この記事を読む人の中には、なぜ、事業再生・倒産やM&Aが「専門」であると書かないのか、という疑問もあろうかと思う。それは、日本弁護士連合会の「弁護士及び弁護士法人並びに外国特別会員の業務広告に関する運用指針」というものがあり、「専門」と書くのに、いろいろ差し障りがあるからだが、本稿の主題では無いので割愛する。

 ●「事業再生」、「倒産」とは

 「事業再生」とは、過大な債務を負っている事業者が、債権者の協力を得て、債務のリスケジュールや免除を受けること等により財務体質の改善を図り、事業自体の再生を図ることを指す。

 ようするに、借金で首が回らなくなった会社や事業者について、過大な借金という足かせを取り除いて、その会社等が行う事業が持っている本来の良さを取り戻してあげる、ということだ。

 「倒産」とは、法律用語ではない。一般には、企業が債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になったりする状態のことを指している。

 倒産手続には、裁判所が関与する法的倒産手続として、再建型の会社更生手続、民事再生手続と、清算型の破産手続、特別清算手続がある。この他に、裁判所が関与しない私的整理(任意整理)手続があり、事業再生ADRや中小企業再生支援協議会等が利用されることもある。

 ●事業再生・倒産との関わりの始まり

 大学時代、私は、破産法を勉強したことがない。司法試験を受験したときも、破産法は選択しなかった。そのため、弁護士になったとき、私は、倒産の「と」の字も、事業再生の「じ」の字も知らなかった。

 そんな私が、今なぜ事業再生・倒産案件に扱っているかと言えば、最初に入った法律事務所が、そのような案件を扱っていたからである。

 私が弁護士になる前年の1997年は、それまでの常識を超えた大型倒産や経営破綻が相次ぎ、倒産事件が激増していた。

 私の入った法律事務所でも、最近「しんがり~山一証券 最後の聖戦」としてドラマ化された山一証券の自主廃業を扱っていた。

 当時、ほとんど事務所総出で山一証券の案件を行っていたため、人手不足に陥っていた。

 そのため、破産法を勉強したことのない新人の私も、山一証券以外の倒産事件、旅行会社の破産管財事件やレーダー探知機メーカーの和議事件等に、否応なく関与することとなった。

 昔は、今ほど事業再生・倒産に関する本が出版されておらず、事業再生や倒産について学ぶには、実際の事件に携わり、オンザジョブトレーニングで身につけていくしか、ほとんど方法がなかった。

 最初は、パートナー弁護士の指導のもと、破産管財事件で債権調査や売掛金の回収を行ったり、会社更生事件の申立案件では助っ人として、先輩弁護士とともに大雪の札幌に出張し、支店の幹部社員に会社更生手続について説明し工事現場の保全や債権者に対する説明会を開催したりするなど、経験を積ませてもらった。

 また、和議事件(当時あった再建型法的倒産手続。民事再生法の施行により、廃止された)では、マレーシアの製造子会社が赤字を垂れ流しているので、工場を閉鎖して子会社を清算してこいと、パートナー弁護士から命じられ、わずか10ページに満たないマレーシア倒産法に関する文献(当時はこれしか情報がなかった)を渡されてマレーシアに飛んだこともある。このときは、幸い、現地の法律事務所で紹介してもらった大手監査法人のベテラン公認会計士に依頼して、債権者による任意清算(Creditors’ Voluntary Winding-up)という会社清算手続をとることができた。まだ弁護士1年目のことだった。

 ●その後

 弁護士2年目以降も、訴訟案件、顧問会社からの相談業務、契約書の作成・レビュー、M&Aなど雑多な事件を扱わせてもらい経験を積みながら、毎年、なんらかの事業再生・倒産案件に関与してきた。

 靴メーカーの会社更生事件、金融会社の会社更生事件、電炉メーカーの民事再生事件、工作機械メーカーの民事再生事件、出版社の私的整理事件・民事再生事件、ゴルフ場の民事再生事件・特別清算事件、アパレルの民事再生事件、ゼネコンの民事再生事件、スーパーの民事再生事件、第三セクターの事業再生ADR等々、多種多様な業種の様々な事業再生・倒産手続で、債務者代理人として、あるいはスポンサー代理人として、ときには債権者代理人として。

 いろいろな事件に携わりながら、簿記や、決算書の読み方、資金繰り表の作り方といった事業再生・倒産事件を扱う上で必要な知識を学んでいった。

 もちろん、弁護士なので、法律の勉強もするわけだが、幸いにして、と言うとおかしいかもしれないが、私が弁護士になった後に、事業再生・倒産に関する法律が新しく制定されたり、大規模な改正が行われたりした。

 平成12年には和議法が廃止され、代わりに民事再生法が制定され、平成14年には会社更生法が全面的に改正され、平成16年には破産法も全面的に改正された。また、平成17年に特別清算について定めた商法が改正され会社法が制定された。

 これで、大学時代に破産法について勉強しなかったビハインドがなくなったわけである。

 ●事業再生・倒産事件を扱うことの意義

 倒産という現象は、経済社会における病理現象の一つであり、それに巻き込まれた者にとっては悲劇である。素朴に考えれば、倒産というものがこの世からなくなれば良いと思う。しかし、資本主義のもとでは、事業が成功することもあれば失敗することもあるのは当然である。その備えはしないといけない。それも、秩序だった形で。

 破産のことを英語で"bankrupt"という。

 直接の語源はイタリア語の“banca rotta”である。すなわち、”bank”はイタリア語の”banco”に由来し、ベンチのことを意味し、さらには商品などの陳列台や金貸しの記帳台を意味し、”rupt”は壊すという意味のラテン語の”rumpere”からイタリア語の”rotta”に転じたとのことである。一説によれば、両者を合わせれば、「壊された机」となり、破産した会社に債権者が押し寄せて、机を壊して返済を迫るという状況を表しているとのことだ。

 このような無秩序な倒産状態を回避するために、様々な倒産関連法が制定されたと言えないだろうか。

 会社には、従業員がいて、その家族がいる。秩序だった形で、事業再生・倒産を行えば、その生活を守ることができる。事業を続けることにより、顧客が、その事業が提供するサービスを受け続けることができる。債権者も、全額の弁済を受けることは不可能だが、少しでも多くのお金を回収することができる。

 弁護士として、その一助になることに、私はやりがいを感じている。