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オリンパス、内部通報社員と和解、1100万円支払いへ

奥山 俊宏

 会社の内部通報制度を利用したことを動機とする制裁的な配置転換(配転)を無効とする判決が最高裁で確定したのに配転前の元の職場に戻れないなどとして、オリンパスの社員・浜田正晴さん(55)が会社を相手取って起こしていた訴訟は、2月18日、東京地裁(清水響裁判長)で和解が成立した。会社が浜田さんに対して今後は不当な取り扱いをしないと約束し、また、解決金として1100万円を支払う。一方、浜田さんは、元の営業職場への復帰をあきらめ、現在の品質教育の職場で働き続ける。浜田さんは記者会見で「会社と仲直りできて本当によかった」と語った。

拡大記者会見する浜田正晴さん=18日午後零時28分、東京・霞が関で
 浜田さんは長年、オリンパスで営業マンとして働き、チームリーダーの役職に就いていた。2007年、顧客先企業からの相次ぐ社員引き抜きに疑問を抱き、会社の「コンプライアンスヘルプライン」制度を利用して、コンプライアンス室に内部通報した。ところが、直後に畑違いの部署への異動を命じられ、チームリーダーの役職も外され、部下もいなくなった。このため、翌2008年2月18日、会社と上司を相手取って提訴した。

 2011年の東京高裁判決は、

 原告の立場上やむを得ずされた正当な内部通報につき、会社がコンプライアンスヘルプライン運用規定に違反し、原告に対し、業務上の必要性とは無関係に、いわば制裁的に配置転換を命令したものと推認できる

 と事実を認定し、

 当時47歳だった原告を、全く未経験の異なる職種に異動させることは、従来のキャリアの蓄積をゼロにして、事実上、昇格及び昇給の機会を失わせる可能性が大きい

 などと指摘し、配置転換を無効とした。

 東京高裁判決はまた、複数の上司によるパワーハラスメントがあったとの事実も認定し、損害賠償として220万円を浜田さんに払うよう会社と上司に命じた。

 この判決は翌2012年6月、最高裁の決定で確定した。ところが、浜田さんは元の営業職場に戻されず、希望の職場も退けられ、人事部からは子会社への転籍や出向を提案された。浜田さんはオリンパスに残ることを希望し、これらを断ったところ、12月1日付で新設の品質教育チームのリーダーとなる異動を命じられた。しかし、当時、浜田さんのほかに同チームへの異動を発令された人はおらず、浜田さん側はこれを「『リーダー』といっても名前だけ。内部通報に対する報復を続けている」と批判し、会社を提訴した。

 18日に東京地裁民事19部で成立した和解の条項によれば、会社は「解決

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筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。2013年から朝日新聞編集委員。2022年から上智大学教授(文学部新聞学科)。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。近刊の著書に『内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実 改正公益通報者保護法で何が変わるのか』(朝日新聞出版、2022年4月)。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。 「後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道」でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞を受賞。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)、『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
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※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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