2016年02月22日
スラム化した「限界マンション」が近い将来、社会問題となるのではないかと心配されている。老朽化が進むと同時に居住者の高齢化、空室化が進んで管理が不良になっていく。この連載「限界マンション:次に来る空き家問題」では、分譲マンションの建て替え、改修、取り壊しなどで直面する法律上、経済上の課題と、分譲マンションに代わる新たな共同住宅の仕組みがあるかを考える。第1回の本稿ではマンション老朽化の進展の実情を紹介する。
富士通総研 経済研究所
上席主任研究員 米山 秀隆
立地条件が良く、建て替えることができたり、再開発が行われたりすれば、老朽化した建物が放置されることはない。しかし、それ以外の物件は、解体費用も捻出できないため、そのまま放置される可能性が高くなる。この問題は将来的には、タワーマンションにも波及することになる。
マンションの二つの老い
まず、マンションの現状についてみておこう。分譲マンションのストックは全国で613万戸(2014年末)ある。かつてマンションは全国で毎年20万戸のペースで新規供給が行われることもあったが、現在は8~12万戸程度で推移している。マンションの居住人口は、1世帯当たりの平均人員2.46(2010年国勢調査)をもとに算出すると1,510万人に達する。特に都市部においてはマンション住まいの人は多い。
613万戸のうち1981年6月以前に旧耐震基準の下で建設された旧耐震マンションは106万戸(全体の17%)、さらに古い耐震基準の下で1971年4月以前に建設された旧・旧耐震マンションは18万戸(全体の3%)ある。
マンションが最初に登場したのは1950年代半ばである。東京都住宅協会が1953年に供給した「宮益坂アパート」が最初で、民間では1956年に供給された「四谷コーポラス」が初めてであった。これ以降、共同住宅を区分所有して持つという形式が普及していった。
東京都についてみると、2013年末のマンションストック165万戸のうち、旧耐震は36万戸(全体の22%)、旧・旧耐震は7万戸(全体の4%)となっている。東京都では、旧耐震、旧・旧耐震の割合が全国よりやや高くなっている。旧耐震のマンションが多く分布しているのは、区部では城西・城南地区、市町村部では多摩ニュータウンなど大規模団地を抱える多摩市や、八王子市、町田市。旧・旧耐震については、町田市や東久留米市が高い比率となっている。築40年超のマンションは、10年後(2023年)には42.8万戸(2013年の3.4倍)に達する。東京都では全国よりも老朽化のペースが速い。
マンションは時間の経過とともに、建物の老朽化に加えて、区分所有者の高齢化も進んでいく。いわゆるマンションが直面する二つの老いである。総務省「住宅・土地統計調査」(2013年)によれば、住んでいる人が60歳以上のみのマンションの割合は、1970年以前の完成では52%、1971~80年の完成では48%に達する。また、国土交通省「マンション総合調査」によれば、1980年度には世帯主が60歳代以上の割合は8%に過ぎなかったが、2013年度では50%に達している。マンションの流動性が高く、住民の新陳代謝が進めば、高齢化の進展は食い止められるが、いったん購入したマンションは永住する場合が多く、区分所有者の高齢化が進展していくことは避けられない。
進む空室化、賃貸化
マンションはまた、時間の経過とともに、空室化、賃貸化が進んでいく。総務省「住宅・土地統計調査」(2013年)によれば、マンションの空室率は古い物件ほど高く、1971~80年の完成では9.2%、1970年以前の完成では11.1%に達する。国土交通省「マンション総合調査」によれば、マンションの空室率は全体では2.4%に過ぎないが、1974年以前完成のマンションでは空室戸数の割合が10%超の物件が増え、1969年以前になると空室戸数の割合が15%超の物件が増えていく。いずれの統計でも、築40年を超えると、マンションの空室率が高まっていくことがわかる。今後、築40年超のマンションが増えていくことを指摘したが、これらのマンションは、その時には空室率も高くなっていることになる。
次に、マンション賃貸化の状況であるが、相続しても住まずに貸す、また最初から貸す目的で取得するマンションも少なくない。区分所有者が住まず賃貸物件の割合が高くなると、これもまた、管理機能を弱める要因となる。総務省統計によれば、賃貸戸数の割合は古い物件ほど高く、1970年以前の完成では、賃貸戸数の割合が20~50%のマンションが19%、50%以上のマンションが5%に上る。区分所有者が高齢化して高齢者向け施設などに移る場合や、亡くなった後に相続人が住まず、貸すケースが増えていくことが考えられる。国土交通省統計によれば、1969年以前完成の物件では、賃貸戸数の割合は22.3%となっている。
以上から、古い物件ほど空室化、賃貸化が進んでいることがわかる。管理機能が著しく低下した場合、マンションがスラム化する危険が生ずる。
マンションを維持管理していくためには、管理費、修繕積立金をきちんと徴収していくことが必要である。それらを滞納する住戸があるマンションの割合は、古いマンションほど高くなっている。規模別でみると、滞納住戸のあるマンションの割合は、総戸数300戸超のマンションで多くなっている。大規模で互いの顔の見えないマンションほど、無責任になりがちだということを示す一つの証左である。
また、建築年代が古いマンションほど、また、小規模なマンションほど長期修繕計画を作成していないマンションの割合が高くなっている。小規模マンションでは管理費の滞納は少ないものの、長期修繕計画を策定していない場合が多いという問題があることを示している。
まだ管理組合があればいいが、古いマンションでは管理組合がないケースもある。東京都のアンケート調査(2011年)によれば、マンションの6.5%が「管理組合なし」と回答した。また、組合はあるが、高齢化などで「役員のなり手がいない」と回答したマンションは32%に達した。
高齢化比率が50%以上の集落は限界集落と呼ばれる。マンションの場合も、二つの老いが進展し、空室化、賃貸化が著しくなり、マンションの維持管理や建て替えなどの終末期問題に取り組んでいくべき管理組合も機能不全状態になっているとすれば、もはやそうしたマンションは「限界マンション」と呼んでいいかもしれない。
急増するタワーマンション
次に、超高層マンション(タワーマンション)についてみておこう。超高層マンションとは一般に高さ60メートル以上、20階建て以上のマンションを指す。52メートル、19階とその定義からははずれるが、超高層マンションの草分けともいえる存在が、1971年完成の「三田網町パークマンション」(東京都港区)である。霞が関ビル完成の3年後に建てられた。すべて100㎡超と富裕層向けに供給された。60メートル以上というくくりでは、76年完成の与野ハウス(埼玉県さいたま市)が最初の超高層マンションであった。
その後、供給はあまり増えなかったが、2000年前後から、都心回帰や都市再生の動きが活発化し、急速に供給が増えた。1998年に55階建てのエルザタワーが埼玉県川口市に完成し、2000年には超高層マンションとして初めて免震構造を採用したパークシティ杉並(東京都杉並区)が完成した。
超高層マンションは、デベロッパーにとっては造れば売れるという点で大きなメリットがあり、消費者にとってはその豪華さや高層階における眺望、中古物件として値崩れしにくいなどの点が人気を呼んだ。規制緩和により各地で駅前の再開発が活発化したことに伴い、超高層マンションの建設は地方都市にまで広がっていった。リーマンショック後は、供給が絞り込まれたが、2012年以降再び増加に転じ、アベノミクス以降は、湾岸部を中心に供給が増えた。これまでの供給は約1,000棟、30万戸近くに達する。大規模開発に後押しされる形で、今後も供給は増える見通しである。2015年以降の供給予定は10万戸超となっている(不動産経済研究所調べ)。
これらタワーマンションでは将来、大規模修繕や将来の解体処理などでより大きな困難に直面すると予想される。(次回につづく)
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