2016年03月22日
スラム化した「限界マンション」が近い将来、社会問題となるのではないかと心配されている。老朽化が進むと同時に居住者の高齢化、空室化が進んで管理が不良になっていく。この連載「限界マンション:次に来る空き家問題」では、分譲マンションの建て替え、改修、取り壊しなどで直面する法律上、経済上の課題と、分譲マンションに代わる新たな共同住宅の仕組みがあるかを考える。前回はマンション建て替えの実情を見たが、第3回の本稿ではマンション解体の問題点を紹介する。
富士通総研 経済研究所
上席主任研究員 米山 秀隆
マンション建て替えには限界があるため、他の方策も必要になる。マンションの区分所有権を解消し、敷地を売却して終止符を打つ方法がその一つであるが、この場合、区分所有権解消には全員一致が必要という条件がネックになる。この問題は阪神大震災での被災マンションで、全壊判定されたマンションでも解体できない問題として浮上した。これを受け、法改正により、被災マンションについては5分の4の賛成で区分所有権解消が可能とされ(被災マンション法改正)、次いで、耐震不足のマンションについても同様の法改正がなされることになった(マンション建替え円滑化法改正)。
ただし、これはいずれも被災マンション、耐震不足のマンションという特殊な物件を除却をすることを目的としたものであり、マンション一般に適用されるものではない。いずれは、マンション一般に適用できるような立法措置が必要になると考えられる。
しかし、問題はこれで終わりではない。区分所有権を解消しようとしても、解体費用が捻出できない場合には、老朽化物件が放置される恐れがある。この解決策としては、あらかじめ解体費用を積み立てておくことが考えられる。最近では、修繕積立金の一部が、最後に解体費用として残るよう長期修繕計画を立てる物件も出てきた。
ただし、現在、解体費用を捻出する計画を立てている物件は、立地が良く、敷地が相応の価格で売却できる見通しが立っているケースと考えられる。つまり、一時的に解体費用を負担しても、敷地売却で回収できるケースである。そのような見込みがなければ、解体費用を全額自己負担せざるを得ないが、そこまでの合意ができるとは到底思えない。
解体費用の自主的積み立てが難しいとすれば、次善の策として、固定資産税による解体費用の事前徴収もあり得る。今、危険な空き家でも自分で撤去してくれないという問題が戸建て、共同住宅を問わず問題になっているが、そうであるならば、住宅を建てた時点から毎年、解体費用を徴収していったらどうかという発想である。具体的には、毎年、固定資産税に将来必要になる解体費用を少しずつ上乗せして徴収していくというのが一案である。この場合、すべての住宅はいずれ公費解体されることになる。
この考え方は、一見、荒唐無稽なように思えるが、福井県越前町の空き家利活用検討委員会がまとめた報告書(「『総合的な空き家対策』に関する提言書」2014年3月)では、これに類似した考え方が入っている。報告書は、解体費用を補助する原資として、固定資産税の一部を積立てる仕組みを検討すべきと提言している。すべての住宅から、解体費用を事前徴収するというものではないが、現に徴収している固定資産税の中から、解体費補助を出そうという考え方である。
越前町に限らず、自治体にとってはこれから先、空き家の解体費用がかさむとしたら、その原資をどこに求めるべきかについて検討する必要性が高まっている。空家対策特措法に基づき市町村が「空家等対策計画」を立てれば、対象地域の空き家の解体や利活用について、国から支援を受けられる仕組みができたが、それも無限に受けられるわけではない。
固定資産税の活用案は、あながち荒唐無稽とばかり片付けられるものでもなく、これは、戸建てよりは分譲マンションの解体費用の捻出に使える仕組みと考えられるかもしれない。今後、老朽化マンションが建て替えもできず、また、敷地に価値もない場合は、放置される可能性が高まるが、それを解体するのに莫大な費用がかかることを考慮すれば、最初からその費用を所有者から固定資産税として徴収しておく方が合理的という考え方である。ただし、所有者の負担が高まることになり、実現は相当難しいとは考えられる。
区分所有者が解体の責任を果たさないとすれば、最終的には、行政が買い取って取り壊すという選択肢が必要になる。これは、フランスにおいて、スラム化したマンションで実際に行われた事例がある。もちろん、国土交通省も最終的にマンションがこのような事態に至る可能性に気づいていないはずはなく、関係者の中には、強制収用の仕組みを導入することが将来的に必要との認識を示す人もいる。この場合、すべての物件の強制収用、解体は難しいため、放置しておくことが危険な状態になったものについて、実施するということになるだろう。つまり、現状のままではマンションの最終的な出口は、公費解体ということになる。
区分所有者の中には、ここまで述べてきたことによって、マンションに住み続けること、あるいはマンションを購入したことについて少なからず不安や後悔の念を抱かれた方もいるかもしれない。しかし、現実には本来は所有者が果たすべき責任、つまり寿命が尽きた時の解体の責任は必ずしも厳しく問われるわけではなく、公費解体が最終的な答えになるとすれば、そう心配はしなくてもいいことになる。ただし、そう思われることは、区分所有者のモラルハザードを引き起こすことになるため、今後も国土交通省は管理の重要性を強調していくことには変わりがないだろう。
実際、自分の所有するマンションがスラム化に至るような事態は、できるだけ避けるに越したことはない。そのためには、管理組合を機能させ、必要な修繕を行って資産価値を維持し、中古としても魅力的な物件であるように努力していくことが必要になる。新たな購入希望者が出てくる限り、スラム化に至る可能性は低くなる。ただ、中古としても魅力的な物件であるためには、建物自体に問題がないことはもちろんであるが、立地条件によって大きく左右される。今後は世帯数が減少し、住宅需要は減る一方なので、立地条件の悪い物件はそれだけで不利になる。
また、マンションが建設されある程度の時間が経っていくと、収入に余裕のある層はより条件の良い物件に住み替えたり、一戸建てに移ったりする場合も出てくる。条件の悪いマンションほど、新たな購入者が現れず、新たな購入者が現れたとしても、場合によっては、フランスでスラム化に至ったマンションのように、低所得者層が集まる物件が出てきてもおかしくはない。こうしたところまでは、まだ日本では起こっていないと考えられがちであるが、リゾート物件にはすでにそれに近い現象が起きている。バブル期に大量供給された物件が大幅に値崩れして、数万~数十万円程度で買えるようになり、低所得者層が流入しているケースである。
要するにここまで述べてきたことは、立地条件が良く、敷地に価値がある場合は、老朽化した場合でも建て替えや再利用はもちろん、敷地の買い手も出てくるため、あまり心配はいらない。ところがそうではない大半の物件は、解体費用すら捻出できず、放置される危険性が高いということである。そしてその処理は、現状のままでは最終的には、公費に頼るしかなくなる。公費解体は、区分所有者以外の人々も費用を負担しなければならなくなるため、公平性を欠く。区分所有者が、解体費用を確実に負担する仕組みを確立しておくことが望ましい。
空き家問題との関わりで言えば、今は一戸建ての問題が中心であるが、やがてマンションの問題が深刻化し、そしてその次にはタワーマンションの問題が浮上してくると考えられる。タワーマンションについては、当面は、大規模修繕の方式を確立することが課題であるが、やがて来る建て替えや解体の問題は、区分所有者数が多い上、巨額の解体費用を要することから、通常のマンション以上に深刻になる。
通常のマンションにしろ、タワーマンションにしろ、問題が最終的に行き着く先は、解体費用の手当てに集約されると考えられるため、繰り返しになるが、区分所有者が解体費用を負担する仕組みを確立する必要性を強調しておきたい。その場合、現にマンションを保有する人、今後、購入する人の負担は増すことになるが、これまで最終責任について明確に自覚することなく、購入してきたこと自体がおかしかったといえる。マンションを購入する場合は、老朽化した場合のリスクについて、購入時の重要事項説明の中で義務付けることが必要である。(次回につづく)
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