2016年06月29日
バード&バード 北京オフィス パートナー弁護士
道下 理恵子
今回アップルを訴えたのは、2012年に資本金2,000万元で設立され、携帯電話の製造販売を主要事業とするメーカー「深圳市佰利営銷服務有限公司」(以下、「佰利」とする)である。2014年1月13日に出願され、同年7月9日に授権公告されたスマートフォン「100C」の意匠特許(特許番号:ZL 201430009113.9)を佰利が有している。
佰利は、北京市知識産権局に、iPhone 6とiPhone 6 Plusは上記意匠を侵害するとして行政措置申請を提出した。北京市知識産権局は、国務院により設立され発明特許、実用新案、意匠に関する事務を行う国家知識産権局の北京支局である。地方支局は、当地の権利侵害案件を管轄する。
2016年5月10日、北京市知識産権局は、「被訴製品は本件特許といくつかの相違点はあるが、いずれも一般の消費者には識別しにくい微小な差異であり、顕著な区別がないので、本件特許の保護範囲に入る」として、アップルとその代理店にiPhone 6とiPhone 6 Plusの販売停止を命じた。地方支局の決定であっても、その効果は原則中国全土で有効である。したがって、仮にこの決定が確定すれば、アップルは中国全土で販売できなくなる。
アップルは、北京市知識産権局の決定を不服として、北京市知識産権法院(知的財産権案件を専門に審理する裁判所)に訴訟提起したようだ。また、これとは別の手続きとして、2015年3月30日に、国家知識産権局に設置された特許復審委員会に当該意匠の無効宣告請求を提出した。アップルは25の先行意匠を引用したが、特許復審委員会は、2015年12月2日に意匠権の有効性を維持する決定を下した。
現在、iPhone 6とiPhone 6 Plusは販売されている。
意匠侵害認定及び意匠の有効性の判断が適正であったかは、十分な情報が公開となっていないので、ここで論評することはできないが、手続き上、明らかに不公平なところはみられない。そのため、現時点では、中国のアメリカ企業に対する報復措置である、または中国では公平な審理を受けることはできないと結論を下すことは時期尚早であると考える。
この事例から学べる点は、アップルの訴訟戦略である。あくまでも弊所の憶測ではあるが、アップルは、iPhone 6とiPhone 6 Plusの販売期間を伸ばすために、侵害訴訟と意匠無効宣告請求の双方について最高人民法院(最高裁判所に相当)まで戦い続け、長期戦に持ち込むであろう。いずれも最終判決が出るのは恐らく数年後のことであり、その頃にはiPhone 6とiPhone 6 Plusは新しい世代にかわっているので、アップルにとっては販売できなくなっても大きな損失とはならないからである。アップルの逆の立場であれば、行政措置の救済措置には損賠賠償がないので、商品価値の寿命が短い商品の侵害案件では、民事訴訟を提起することを考える必要があることを意味する。
また、この事例から、中国企業は意匠制度を活発に利用するようになっている傾向が如実に表れている。外国企業は、今後は中国でも意匠権を取得することを積極的に考える必要がある。中国企業の意匠に対する戦略も検討する必要もある。中国の意匠は無審査であるので、公開された意匠を常にモニターし、無効宣告請求を仕掛けるなどのプロアクティブ(能動的)な対策が重要となってくるであろう。
▽注1:中国知
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