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知っておけば温泉をより楽しめる温泉の情報開示・表示規制

牛之濱 将太

温泉めぐり

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
牛之濱 将太

 1 温泉との出会いと魅力

牛之濱 将太(うしのはま・しょうた)
 2009年3月、慶應義塾大学法学部卒。2011年3月、慶應義塾大学法科大学院(法務博士(専門職))修了。2012年12月、司法修習(65期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)。2013年1月、当事務所入所。
 本格的な温泉との出会いは、司法試験の受験後、車で日本一周の旅に出た時であった。あちこちの温泉を訪れるうちに、いつのまにか温泉の魅力に取りつかれ、北は北海道の稚内から南は鹿児島県の硫黄島まで、数々の温泉を巡った。最初は眺めのいい温泉や、湯の花が舞う白濁の硫黄泉といった特徴的な温泉が好きであったが、最近は共同浴場めぐりが特に好きであり、温泉地を訪れた際は必ず立ち寄ることにしている。地元の方々や旅人と交流し、温泉談義に花を咲かせるのもまたいいものである。

七色に変化するという世界遺産のつぼ湯。実際に入浴可能である。
 温泉を訪れると色々な方と話す機会があるが、とりわけ印象深かったのが、晩秋の和歌山県・湯の峰温泉で出会った旅人である。湯の峰温泉は、世界遺産に登録されている「つぼ湯」を中心とする、熊野詣の湯垢離場として栄えた歴史ある温泉である。夕暮れどき、湯の峰温泉のとある旅館の立ち寄り湯を訪れたところ、天井をじっと見つめ、1人静かに湯船につかる先客が1名。何を見ているのかと不思議に思い声をかけたところ、天井の建築を眺めているとのことであった。話を聞くにこの旅人は芸術家であり、建築の魅力について語ってくれた。偶然宿も一緒であったため、夕食を共にし、翌朝も共に温泉に繰り出し、温泉と建築を堪能した。多くの温泉に訪れたものの、浴場を意識的に鑑賞した経験はなかったため、新鮮な発見であった。温泉の楽しみ方がまた一つ増えたという点で、印象深い出会いであった。

 温泉に行く度に新たな発見があり、次の温泉ではどのような発見があるのかと、毎回楽しみにしている。

 2 温泉とは

 さて、田山花袋の「温泉めぐり」のような紀行文を書くのが一つの夢ではあるものの、紀行文を書けるほどの文才も温泉経験もないため、今回は、温泉の表示等をめぐる身近な疑問について、法的な側面から若干の考察をしてみたいと思う。

 環境省の「平成26年度温泉利用状況」によれば、平成27年3月末現在、日本全国に実に3,088か所の温泉地があり、13,278軒の宿泊施設があるとのことである。また、温泉利用の公衆浴場数も7,883軒に上るという。街角に置いてある国内旅行のパンフレットを開くと、多数の温泉が紹介されており、温泉は間違いなくメジャーな余暇の過ごし方の一つである。家族や友人との旅行、修学旅行や社員旅行などで訪れることも多いと思われ、一度は温泉に行ったことがあるという方も多いのではないだろうか。

 しかし、そもそも温泉とは何だろうか。言葉の響きからは、地中から湧くお湯が温泉といったイメージであろうか。実は、温泉については「温泉法」という法律で、以下のとおり定義されている。

 この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。(温泉法第2条第1項)

 温泉の要件を満たすためには、第一に、地中から湧く温水や鉱水などである必要がある。もっとも、地中から湧いた時点で必ずしも液体の状態である必要はなく、水蒸気等でも要件を満たす。例えば、箱根町では、一部の地区において水蒸気を利用した蒸気造成泉を提供している。

 第二に、地中から湧出した温水等が「別表に掲げる温度又は物質」を有する必要がある。別表の掲載は割愛するが、別表に掲げる「温度」とは25℃以上(温泉源からの採取時)であり、「物質」とは、溶存物質(ガス性のものを除く)の含有量が1kg中総量1,000mg以上である場合か、又は遊離炭酸(CO2)やメタけい酸(H2SiO3)など所定の18種類の物質を規定量以上含んでいる場合に要件を満たす。

 ここでのポイントは「温度又は物質」という点にある。まず、地中から湧出した際の温度が25℃以上であれば常に温泉の要件を満たす。次に、湧出時の温度が25℃未満であったとしても、温泉法上で定められた物質等を規定量以上含んでいれば温泉である。温度が低いものは少し温泉らしくなく聞こえるかもしれないが、温泉法上は「温泉」である。

 なお、温度が低い温泉は通常加温の上で浴用に供されているが、温泉施設の中には加温前の温泉と加温後の温泉を併設して提供している施設もある。温泉施設側の温泉へのこだわりを感じることができ、個人的には割と好きである。

 3 天然温泉とは

 温泉といえば、広告などで「天然温泉」といった表示を見かけることも多いが、そもそもどのような温泉を指すのであろうか。普通の温泉とは何か異なるのであろうか。少なくとも温泉法には天然温泉の定義はない。天然温泉に対義語があるのかもよくわからないが、対義語が人工温泉であるとすれば、あらゆる温泉は自然由来という意味でそもそも天然温泉なのではないかとも思える。

 この点に関して、公正取引委員会は、景品表示法(注1)との関係ではあるが、平成15年7月31日付「温泉表示に関する実態調査について」において、「天然温泉」の表示に関する考え方の整理を示している。まず、源泉に加水、加温、循環ろ過等を行っているにもかかわらず、パンフレット等において「源泉100%」、「天然温泉100%」など、源泉をそのまま利用しているような強調表示を行うことは、消費者の誤認を招くおそれがあると指摘している。次に、「天然温泉」との表示を行う場合には、併せて、源泉への加水、加温、循環ろ過装置の使用の有無に関する情報も提供される必要があると指摘している。

鹿児島港から2~3日に一便のフェリーに揺られること約4時間。鹿児島市の南西約100kmに位置する硫黄島にある野湯。雄大な東シナ海に臨むこの温泉は間違いなく天然温泉100%
 そのため、「天然温泉」の定義はともかくとして、加水等を行っているにもかかわらず、「天然温泉100%」であると謳った場合や、単に「天然温泉」である旨のみを表示して、加水等の事実を示さなかった場合、景品表示法違反(優良誤認表示、同法第5条第1号)のおそれがあると考えられる。なお、景品表示法の改正により、優良誤認表示行為は課徴金の対象となっている(同法第8条)。

 「天然温泉」の表示については、事業者団体等を通じた適正化も図られている。例えば、旅行業者等で構成される旅行業公正取引協議会が策定する「募集型企画旅行の表示に関する公正競争規約」は、上記の公正取引委員会の整理に沿う形で、一般消費者に誤認されるおそれのある不当な表示を、事業者が募集型企画旅行の説明書面又は募集広告等において行うことを禁止している。なお、公正競争規約は、景品表示法第31条に基づき、消費者庁及び公正取引委員会の認定を受けたものであるため、規約の参加事業者が規約の内容を遵守している限り、景品表示法等の問題は生じないとされている。

 世の中の天然温泉に関する表示全てが、上記の公正取引委員会の整理に沿ったものではないと思われるが、一つの参考となる。

 4 温泉の情報開示

 (1)温泉の成分等の掲示義務

 自分が入ろうとしている温泉がどのような温泉であるかは、温泉施設内にある掲示で一定程度確認できる。温泉法第18条第1項・同法施行規則第10条は、温泉施設に対して、施設内の見やすい場所(一般的には脱衣所や浴室の壁面)に、温泉の成分や禁忌症などのほか、加水・加温・循環等を行っている場合はその旨及び実施の理由を掲示することを義務付けている。そのため、例えば、自分の入っている温泉がいわゆる源泉かけ流しであるかといったことも、掲示により確認可能である(多くの温泉施設は、現地まで赴かずとも、電話で回答してくれると思われる。)。

 上記の掲示については、分析機関の行う温泉成分分析の結果に基づき掲示をする必要があり、また、掲示をする前に都道府県知事に掲示内容を届け出る必要がある。さらに、都道府県知事は、健康を保護するために必要があると認めるときは、掲示内容の変更を命じることができるとされている(温泉法第18条第2項・第4項・第5項)。そのため、温泉施設で見かける温泉の成分等に関する掲示は、温泉施設側が自由に内容を決めているわけではなく、専門的な分析等を通じ、掲示内容の適正性が確保されている。なお、掲示を行っていない温泉施設もたまに見かけるが、温泉法違反であり、罰則も用意されている(同法第41条第2号により30万円以下の罰金。)。

 (2)禁忌症

 環境省の通達によれば、禁忌症とは、「1回の温泉入浴又は飲用でも有害事象を生ずる危険性がある病気・病態」である。上記のとおり、禁忌症については、温泉施設内の見やすい場所への掲示義務が定められている。禁忌症の内容(掲示基準)は環境省の通達により定められており、これに沿った掲示が温泉施設で行われているようである(本来的には、通達は都道府県知事等に対する技術的助言である。)。

 禁忌症については、平成26年7月1日付で掲示基準が変更されており、例えば、「妊娠中(とくに初期と末期)」という記載が禁忌症の対象から削除されている。

 (3)適応症

 適応症については、環境省の「鉱泉分析法指針」に基づく一定の基準を満たした温泉である「療養泉」に関して、環境省の通達において掲示基準が定められている。例えば、塩化物泉(海沿いの温泉に多いイメージである)であれば「きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症」が浴用の泉質別適応症として掲げられている。

 もっとも、「適応症」が何を指すのかは判然としない面がある。上記のとおり、環境省の通達において適応症の掲示基準が定められているものの、そもそも適応症が何を指すかについては通達上定義がない。また、適応症については温泉法上の掲示義務の対象外であると同時に、届出や変更命令の対象外である。そのため、①適応症とは何を指すのか、②温泉法の枠外である適応症について、独自の判断で内容を決めることは許されるのかという点が気になるところである。

 明快な説明が難しいところであるが、①については、少なくとも「この温泉に入ればここに書いてある病気が治る」といった説明をした場合、薬事法(現在は医薬品医療機器等法(注2))上の問題が生じ得るため、「温泉療養に適していると見込まれる症状」程度の説明が無難であると思われる。環境省の通達も、温泉療養の効用について、「総合作用による心理反応などを含む生体反応によるもので、温泉の成分のみによって各温泉の効用を確定することは困難である」と説明しており、適応症として掲げられている症状等について、温泉療養により治療の効果があるとお墨付きを与えているわけではないことは明らかであろう。②については、①同様に薬事法上の問題があるほか、景品表示法上の問題が生じ得ると考える。実際の事例として、環境省の鉱泉分析法指針で定められた炭酸泉(二酸化炭素泉)の基準を満たしていないにもかかわらず、「炭酸泉は神経痛、リューマチ、心臓病に効果のある温泉です」などと表示した温泉施設に対して、消費者庁が、景品表示法違反(優良誤認表示)であると認定し、措置命令を行った例がある。そのため、独自の判断で適応症の掲示を行うことには慎重となるべきであろう。

 (4)今後の情報開示

 情報開示の点では、温泉法上の義務ではないが、毎分どの程度の源泉が各浴槽に注がれ、また、どの程度の加水がされているのかといった情報も重要であると思われる。少なくとも温泉法上、加水の限度量に関する明確な規制はないが、源泉の湧出量の不足を補うために温泉を大量の水で薄めても、それを温泉と呼べるのかという点については議論もあり得るところであり、温泉施設側の自主的な情報開示が期待される。

 5 おわりに

 ことあるごとに温泉が好きだと言っているとよく聞かれるのが「おすすめの温泉はどこですか?」という質問であるが、これが一番困る質問である。自分が温泉に行くとなると、アクセスは悪く、周りには何もないが、お湯は素晴らしいという温泉が多くなってしまうため、意外と人に薦められる温泉が思いつかないのである。

 例えば、少し前にオーストラリア人の同僚を、新宿から片道3時間半ほどかけて、長野のとある温泉(足元から勢いよくぶくぶくと温泉が湧く、結構珍しい天然ジャグジーの硫黄泉)に連れて行ったところ、日本に来てから一番の経験だと喜んでくれ、非常に嬉しかったのを覚えている。しかし、この浴室にはシャワーが設置されていなかったため、硫黄成分をたっぷり体に染み込ませたまま温泉から出ることとなり、服からにおいが取れなくなってしまったことを思い出す。足元から温泉が湧く、非常に新鮮な温泉を堪能できたということで、二人ともかなり満足したが、明らかに万人受けはしないだろう。

赤褐色のお湯が豪快にあふれる三瓶温泉・湯元旅館
 おすすめの温泉を挙げるのは好みの問題もあるのでなかなか難しいが、かなり温泉が好きだという方がいれば、島根の温泉を推したいと思う。かつて訪れた玉造、温泉津、出雲湯村、三瓶、千原、小屋原、頓原、有福、美又といった島根の温泉はいずれも素晴らしく、温泉好きであればぜひ訪れて欲しい温泉ばかりである。この中でも世界遺産の石見銀山からも近い、三瓶山周辺の温泉は格別で、赤褐色のお湯がどばどばあふれる温泉、足元からぷくぷくとお湯が湧くぬるめの温泉、全身が気泡で包まれる炭酸泉と、個性豊かな温泉が点在しており、温泉好きにはたまらないと思われる。

 そのほかにもおすすめしたい温泉は色々とあるが、別の機会にご紹介することとしたい。普段とは少し違った温泉に足を運ぶのも趣があっていいものである。その際には、脱衣所等にある掲示を読んでみると、何か発見があるかもしれない。

 ▽注1:正式には不当景品類及び不当表示防止法
 ▽注2:正式には医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律