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ドイツ的弁護士生活 ~肉とじゃがいもとビールと規範~

新城 友哉

ドイツ的弁護士生活
 ~肉とじゃがいもとビールと規範~

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
新城 友哉

 1.はじめに

新城 友哉(しんじょう・ともや)
 2007年3月、東京大学法学部卒業。2008年9月、司法修習(61期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2014年5月、米国New York University School of Law (LL.M.)修了。2014年9月~2015年8月、ドイツ・デュッセルドルフのHengeler Mueller法律事務所勤務。2015年5月、ニューヨーク州弁護士登録。2015年9月、当事務所復帰。
 2014年9月から2015年8月までの1年間、ドイツの大手法律事務所で出向弁護士として勤務し、ドイツ西部のデュッセルドルフで生活した。
 デュッセルドルフは日本企業も多く進出する国際的な町であり、勤務先も国際的な企業法務案件を無数に手がける事務所であるが、そこでの仕事・生活は、私にとって多分に「ドイツ的」なものであった。

 ドイツのビジネス弁護士の働きぶりや業務内容は国際標準で、英語を話さない弁護士は存在しないが、ディティールの部分ではしばしば「ドイツ的」な要素が顔を出す。また、ひとたび業務を離れれば彼ら・彼女らは弁護士の衣を脱ぎ、「ドイツ人」に戻るのである。

 以下では、そんなドイツで1年間勤務・生活して感じた「ドイツ人とは何者か」について語るとともに、そんなドイツ人と仕事をする上でのコツをいくつか紹介したいと思う。

 2.ドイツ人のQ&A

8万人超満員のサッカースタジアム(ドルトムント)
 一言で「ドイツ人」と言っても様々な地域や人種の方がおり、性格もさまざまである。しかも主観によるフィルターを通しているため、以下は到底鵜呑みにしてよい内容ではないものの、ドイツで暮らした方であれば概ね「あるある」と頷けるものではないかと思う。

 (Q) ドイツ人は真面目?
 (A) 概して真面目。早起きで、仕事中は黙々と働き、ランチ中は社会や政治の話題が多い。会議中に常時スマイルしていたアメリカ人がドイツ人上司に怒られたという逸話もあり、会議には真顔で臨むことを推奨。

 (Q) ドイツ人は人見知り?
 (A) 確かにそうだが、魔法の黄金色の液体(ビール)が全てを解決してくれる。

 (Q) ドイツ人はユーモアを言わない?
 (A) そんなことはない。ビールが入れば陽気に冗談の1つや2つは出る。ただ、彼らの笑いのポイントは外国人には理解が難しい。

 (Q) ドイツ人は空気が読めない?
 (A) 慣れないうちはそう感じるかもしれない。しかし決して悪気があるわけではないので、こちらの意思をしっかり言葉にして伝えれば大丈夫。

 (Q) ドイツ人は背が高い?
 (A) 本当に高い。私のような標準身長の日本人には、雑踏で前を見通すことは不可能。

 (Q) ドイツ人はプライドが高い?
 (A) 決してお高くとまってはおらず素朴な人々である。ただ、心の底ではみな「ドイツが正しい」と思っているので、そこのところを尊重するのが大事。

 (Q) ドイツ人はイタリアに憧れている?
 (A) 地中海の日差しと料理はドイツ人の永遠の憧れ。でもドイツ式の生き方が正しいと信じている。

 (Q) ドイツ人はケチ?
 (A) ドイツ人は、倹約をこよなく愛する民である。同輩との外食時は基本割り勘ですらない(各自払い)。借金が嫌いで皆デビットカードを使うので、クレジットカード払いができない(嫌がられる)ことも多い。

 (Q) ドイツ人はルールを守る?
 (A) 規範を守り正しく生きること、それが彼らのアイデンティティー。信号無視など言語道断であり、ごみ捨てや洗濯機を回す時間など、ご近所ルールも遵守必須。環境保護にも非常に熱心で、エコバッグに大量のじゃがいもを詰めて擦り切れるまで使い倒すのが美徳である。

 (Q) ドイツ人は肉とじゃがいもとビールで生きている?
 (A) 100%真実である。ただし、ザワークラウト(キャベツの漬物。これなくしてドイツ料理は消化できない。)も忘れてはいけない。実はアイスなど甘いものも大好きで、ランチタイムの街角には食後のアイスを食べ歩く巨体の紳士が多数出現する。
 なお、近くにフランス・イタリアがあるためか、とかく「ドイツ料理はまずい」というイメージを持たれがちであるが、決してそんなことはないと声を大にして言いたい。確かにフレンチのような繊細さや華やかさ、レパートリーはないものの、伝統料理のシュバイネハクセ(豚脚の丸焼き)などは絶品であるし、しばしばまずいと敬遠されるザワークラウトも、本場のものは甘みがあり、肉料理には欠かせない付け合わせである。もちろんビールは町ごと、いやレストランごとの銘柄を楽しめ、ビアハウスめぐりの楽しみは尽きることがない。また、ドイツと言えば白ワイン(特にリースリング)も素晴らしく、ワイン好きの方も大いに楽しめると思う。

 3.ドイツ人との仕事

デュッセルドルフ市内
 日本とドイツは遠い国であり、人々は互いの国のことをあまり知らないのが実情である。とはいえ、ともに世界有数の経済大国・技術大国としてビジネス上のつながりは強く、多くの日系企業がドイツに拠点を有し、ドイツ企業を対象とする国際企業買収(M&A)も数多く行われている。

 私個人も、日本での所属事務所及びドイツでの勤務先の両方で、日本・ドイツ間のM&Aに関与してきており、M&Aという文脈に限っても、日本・ドイツ間の取引には相当のニーズがあると感じている。

 日本・ドイツ間で、M&Aその他の取引を進める中では、両国の文化的な違いが障害となることもありうる。もちろんドイツは先進国であり驚くような問題が生じることは考えにくいものの、細かな行き違いということは往々にして生じる。そのような事態を少しでも回避するため、以下のような知識が多少役に立つかもしれない。

  1.  残業・休日出勤はしない:
     彼らは朝早く出勤し、夕方は定時で早く帰り、家族と時間を過ごすことを大事にしている。週末も家族と過ごす時間が大切である。したがって、ドイツ企業の担当者とは、基本的に定時以外に連絡は取りにくく、やむを得ない場合は事前に理由を説明して依頼する必要があろう。
  2.  「飲みニケーション」は日常ではない:
     もちろんドイツ人はビールが大好きであり、街中のビアハウスなどでは人々が集ってビールを飲む姿がいつも見られる。しかし、彼らの多くは家族や友人との時間を楽しんでいるのであり、取引先や同僚と日常的に飲みに行くわけではない。特に金曜日は、日本では「花金」として同僚らと飲みに繰り出すのが定番であるが、ドイツ人は金曜日こそ早く家に帰り、家族との週末を過ごすものである。そのため、ドイツ人との付き合いにおいては、家族との時間を尊重することが大事になってくる。
  3.  夏休みをたっぷり取る:
     これは大陸ヨーロッパ共通であるが、7月から8月はバカンスのシーズンであり、3週間~4週間の長期休暇を取り、地中海等のリゾート地で過ごすのが一般的である。そのため、特に夏場のドイツ人とのやり取りには注意が必要である。
  4.  細かい確認はあまりしない:
     ドイツ人はもちろん真面目だが、実はあまりマメではなく、細かい気配りが得意というわけではない。そのため、予定の確認や合意事項の確認などをマメにメール等で連絡しないことも多い。もちろん忘れているわけではないが、気になる場合はこちら主導で細かな確認のやり取りをするつもりでいた方がよい。
  5.  肩書きは重要:
     ドイツには、相手の肩書きで敬意を表する文化がある。この点は日本も似たところがあるが、例えば、博士号所持者には「Dr.」の敬称を欠かしてはいけないなどが特徴的である。

 4.おわりに

 以上、私がドイツでの1年間で感じたことを取り留めもなく語ってきた。まだまだ書きたいことは山ほどあるが、紙幅の限界につきここで筆を止めることにする。
 ここまで書き綴ってみて改めて自覚したのは、ドイツ人は素朴で愛すべき人々であること、そして私はドイツが大好きになっていることである。

 多分に私的な体験に基づく感想ではあるが、日本とドイツには様々な違いこそあれ、経済的・文化的な親和性は高く、今後も多くのビジネスの機会が生まれ、両国間の取引・交流の活性化によりさらなるシナジーが生まれる可能性を秘めていると感じる。

 私も一弁護士という小さな立場ではあるが、両国の関係の発展に少しでも寄与できるよう日々精進するとともに、身につけたドイツ的感覚を忘れぬようにしていきたい。ついては、東京でドイツ料理店に同行してくれる奇特な人を随時募集している。