2016年11月27日
人気漫画「キャンディ・キャンディ」で知られる漫画家のいがらしゆみこさんの名前が、カリブ海のタックスヘイブン(租税回避地)にある会社の役員として「パナマ文書」に載っていることがわかった。事務所によると、いがらしさんは「まったく身に覚えがない」と話しているという。このほか、音楽プロデューサーの小室哲哉さんや、元レバノン大使でイラク戦争に反対して外務省を辞めた天木直人さんの名前があった。
パナマ文書に含まれる登記関係の書類によると、いがらしさんは「リッチ・シー投資」(Rich Sea Investment Ltd.)という名前の会社の役員に1998年12月2日付で就任し、2002年3月22日まで務めた、ということになっている。住所がいがらしさんと一致しており、後任の役員には娘の名前が記されていた。
パナマ文書には、2002年3月22日付で同社の株式がいがらしさんから娘に譲渡されたことを示す書類があり、そこには同じ筆跡で漢字の署名がある。しかし、いがらしさん側の説明によると、それはいがらしさん親子の本物の署名とは異なるという。会社は2003年4月30日に登記を閉鎖されている(注2)。
いがらしさんの事務所「ユミコミックス」(東京)の後藤満社長によると、いがらしさんは「びっくり。なんじゃらほいっていう感じ」と困惑。後藤社長は「第三者が勝手に名前を使ったのではないか」と話している。
「キャンディ・キャンディ」は1970年代に講談社の少女誌で連載され、そのアニメが「そばかすなんて……」で始まるテーマソングとともにテレビ朝日系列で放映され、人気を集めた。その後も、キャラクターグッズが人気を博し、後藤社長によると、最盛期には年間80億円もの売上があり、億円単位のお金がいがらしさんの側に入っていた。
「キャンディ・キャンディ」のキャラクター商品の作製をめぐって、いがらしさんらと原作者の間で1997年から東京で訴訟が続いていた。 1999年2月25日の一審・東京地裁判決(注3)、2000年3月30日の控訴審・東京高裁判決(注4)で相次いで、いがらしさん側が敗訴。2001年10月25日、原作者の許可を得ずに作画したり商品化したりすることを禁止する判決が最高裁で確定した(注5)。
いがらしさんの事務所の後藤社長によると、この判決によって、いがらしさんは練馬の自宅兼作業場などの財産を失い、「キャンディ・キャンディ」のキャラクター商品の利権も消滅した。したがって、租税回避地に隠すような財産は当時も今も一切ないという。
いがらしさんが租税回避地の法人の役員に名を連ねたことになっていた1998~2002年はこの訴訟と時期が重なっている。
パナマ文書に登場する人物の名前として「IGARASHI YUMIKO」の名前は現在、ICIJの「オフショア・リークス・データベース」で公開されている(注6)。いがらしさんの側としては、租税回避地との関わりであらぬ誤解が広がるのを避けるため、取材に応じて説明することにしたという。
いがらしさんのほかに、パナマ文書の中から、音楽プロデューサーの小室哲哉さんや元外交官の天木直人さんの名前が新たに見つかった。
パナマ文書の中に「ロジャム・インベストメント」(ROJAM INVESTMENT LIMITED)という英領バージン諸島の会社の書類があった(注7)。小室さんがかつて会長を務め、香港証券取引所に株式を上場した「ロジャム・エンターテイメント・ホールディングス」(ケイマン諸島)の年次報告書(注8)に子会社として「ロジャム・インベストメント」(英領バージン諸島)の名前はある。会社の業務内容は「中国と香港での投資」と記載されている。パナマ文書に含まれていたのは、このロジャム・インベストメント社の資料で、小室さんは2001年2月6日付で同社の役員に就任し、2002年8月16日まで務めた、とされている。2012年4月末に同社の登記は閉鎖されている。
エイベックス・グループ・ホールディングスを通じて小室さんに経緯などに関する質問の手紙を送ったところ、エイベックスの広報担当者が取材に答えた。それによると、小室さんはマネージャーに対し、「会社があったことは覚えているが、中身には関与していない。詳細についてはわかりかねる」「会社のことについて左右していたのは別の人間なんで、そこは全然分からないんだ」と話した。その会社の役員だったことについては、小室さんは「何となくの認識」だという。小室さんがロジャム・インベストメントの役員だったことに間違いはないかとの重ねての質問に対して、エイベックスの広報担当者は「(本人は)それは認識している、と」と答えた。
天木直人さんは、バージン諸島の「アマキ・アンド・パン・ホールディング社」(AMAKI AND PAN HOLDINGS COMPANY LIMITED)という会社の資料に、2005年2月4日に役員に就任したとの記載があった。天木さんが外務省を辞めて1年半余後にあたる。天木さんは同社の二人の株主のうちの一人だとも記載されている。2006年10月に同社の登記は閉鎖された(注9)。
取材に対する天木さんの説明によると、退官後に各地で講演する中で知り合った人から、「中国のビル・ゲイツ」と呼ばれる人物を紹介された。その人物に持ちかけられ、中国で携帯電話にゲームなどを配信する事業のために1400万円を出資した。「これがうまくいったら上場して、大きな利益が見込まれるから、会社をタックスヘイブンにつくる」という話があり、任せたという。しかし、そのうち相手の人物と連絡が取れなくなった。一部は返金されたが、約1千万円が戻ってきていないという。
タックスヘイブンに会社が設立された理由について、天木さんは取材に対して次のように語った。
当時まだ外貨が中国では規制されてたんですよ。お金の自由がきかない。そして、株式上場という話をしてましたから、もちろん、私は聞かなかったけど、タックスヘイブンというのは知ってましたから、租税上の優遇措置を狙うというのは当然あったと思う。
「租税上の優遇措置を狙うというのは当然あったと思う」という話やタックスヘイブンの問題性の認識について記者が改めて問うたところ、天木さんは次のように答えた。
少なくとも、タックスヘイブンというのは違法じゃなくてグレーエリア。当然、税はどっかで払わなければならないわけだから、利益を儲ければ日本の所得税を払うわけですから、そこは何の問題もないという意識はありましたね。(中略)そこは、いま言ったとおり話せばいい、と思ってるし、パナマ文書については、私のように名前を出して登録しているのはほとんど例がないと思っている。
結果として天木さんが出資した形となっているバージン諸島法人は社名に「アマキ」と冠されており、たしかに、ほかにはほとんど例がない。
天木さんはまた次のように付け加えて述べた。
利益が出れば日本で納税するつもりだった。税逃れの意図はまったくない。
11月26日夜、天木さんは自身のブログに「パナマ文書に私の名前が見つかった件について」と題して次のようにつづった(注10)。
私の名前を冠した会社がパナマ文書に見つかったからといって、私が不正行為を行ったという事にはまったく当たらず、実際のところ私にはその意図も認識もなかったが、図らずも10年たって、いま渦中のパナマ文書に名前が出てきた事は残念至極である。しかし事実は事実として受けとめるしかない。
天木さんは、2005年の衆院選、2007年の参院選に立候補したことがある。次の衆院選にも「新党憲法9条」から立候補する予定だという。
▽注1:http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20161127
▽注2:https://offshoreleaks.icij.org/nodes/10079328
▽注3:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=13225
▽注4:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=13172
▽注5:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62471
▽注6:https://offshoreleaks.icij.org/nodes/12015414
▽注7:https://offshoreleaks.icij.org/nodes/10091767
▽注8:http://www.mediaasia.com/en/about/Financial-Reports
▽注9:https://offshoreleaks.icij.org/nodes/10118799
▽注10:http://kenpo9.com/archives/680
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