2017年03月13日
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
伊東 成海
1. 国際弁護士って何ですか?
企業法務を扱う弁護士は、世間一般の弁護士のイメージとは少し違っているように思う。また、一言で「企業法務」といってもその内容は様々で、具体的なイメージを持つことが難しいように思われる。私の業務の中心はいわゆる「ファイナンス」と呼ばれる分野で、銀行や証券会社などの金融機関に対するサポートやアドバイスなどが中心であるが、そんな私も事務所に入る前は、そもそも「ファイナンスって何?」という感じだった。ただ、「企業法務=仕事で英語を使う」というイメージは当時から何となくあった。そして、小さい頃から全く海外に縁がなかった自分にとって、「英語を使って外国人と話せるようになりたい」という素朴な憧れは、企業法務の道に進む1つの大きなきっかけになった。
2. 留学までの道のり
事務所に入所した直後から、事務所ホームページの自分のプロフィールの「使用言語」の欄には「日本語・英語」と記載された。入所前に英語を使用したのは受験勉強のときぐらいで、まして英語で会話をした経験などほとんどなかったので、虚偽広告ではないかと心配になったことをよく覚えている。でも、上司や先輩からは「みんな事務所に入ってから頑張るから大丈夫」と言われた。実際に、事務所の多くの先輩方は4~5年ほど働いてから留学に行っている(もちろん、あえて留学に行かないという選択をする人もいる)ので、事務所で頑張っていれば、英語も自然と上達するだろうと少し楽観的に考えていた。
ただ、留学までの道のりは思っていたほど甘くはなかった。特に、出願の際に必要となるTOEFLのスコアが当初全く伸びなかった。先輩から「TOEFLは苦手だったので10回ぐらい受けてしまった」といった話をたまに聞くことはあったが、私の場合、受験回数だけで言えばのべ40回を優に超えていたと思う。TOEFL受験のために休日を半日潰さなければならず、受験料も1回200ドル超と決して安くはないので、今考えると、相当な時間とお金をTOEFLに費やしていたと思う(ただ、留学にはそれだけの価値があると今は思っている。)。
それでも、受験回数を重ねるうちに最後の方は少しずつスコアが上がってきて、最終的にはいくつかの大学から合格をもらうことができた。留学先を選ぶに際には様々な考慮要素があると思うが、私の場合、生まれて初めての海外生活だったので、せっかくだから自分が一番行ってみたいと思うロサンゼルス(UCLA)に行くことにした。
3. ロサンゼルスでの生活
結果として、ロサンゼルスを留学先に選んだことは大正解だった。ロサンゼルスの魅力はとても文章で表現できるようなものではないが、私なりに感じたことを書いてみたいと思う。
次に、想像に難くないと思われるが、ロサンゼルスでの生活は、勉強以外の余暇が非常に充実していた。最先端の流行が集まるハリウッドやビバリーヒルズは言うまでもないが、ヤシの木に囲まれたサンタモニカやベニスなどのベイエリアも含め、魅力的な数多くの都市が集まっている。ちなみに、ロサンゼルスに留学する人の多くが、中古車を購入して車で生活をする。私自身も、日本ではほとんどペーパードライバーだったが、ロサンゼルスでは車移動の生活をしていた。休日に海岸沿いをドライブしたり、長い休みにアメリカの国立公園巡りをしたりするのは、ロサンゼルス留学の醍醐味と言えるだろう。
さらに、ロサンゼルスの食生活はとても豊かである。アメリカの食事といえばステーキやハンバーガーがまず思い浮かぶが、牡蠣やロブスターなどのシーフードや、Whole Foodsに代表されるオーガニックフードも魅力である。また、「人種のるつぼ」という言葉に象徴されるように、ロサンゼルスには多くの民族の人が生活している。そのため、チャイナタウン、コリアタウン、タイタウンなど各民族の集落のような場所が街の各地に点在していて、そこでは、その国の本場の料理を味わうことができる。さらに、Little TokyoやLittle Osakaと呼ばれる場所もあって、日本食のレストランやスーパーも充実している。日本でも有名なラーメン店「つじ田」はロサンゼルス屈指の人気店で、日本人に限らず様々な国の人が行列を作っていた。
4. 法律事務所での研修
私は、ロースクールを卒業後、ロサンゼルスの法律事務所(Pillsbury Winthrop Shaw Pittman法律事務所)で研修する機会に恵まれ、幸運にもさらにもう1年ロサンゼルスに滞在することができた。研修先では、カリフォルニア州の弁護士資格を持つ日本人弁護士の指導を受けながら、ロサンゼルスに進出する日本企業をサポートする仕事をした。ロサンゼルスに進出する日本企業は多く、ロサンゼルスでは、カリフォルニア州の資格を持って日本企業をサポートする日本人弁護士も少なくなかった。彼らはまさに自分のイメージする「国際弁護士」を体現していた。彼らに刺激を受け、少しでも彼らに近づきたいという思いから、研修期間中にはカリフォルニア州の司法試験を受験した。
5. 海外生活を経験して思うこと
ロサンゼルスで過ごした2年間はとても充実していた。この間に自分の英語力が飛躍的に上達したかと言うとそうでもないが、曲がりなりにも海外で2年間生活し、外国人とのコミュニケーションに対して前ほど抵抗がなくなったということは、自分にとって大きな進歩ではないかと思う。
ただ、海外留学・研修で得たものはそれだけではない。日本の法律事務所で携わってきた海外案件は、日本に進出する外国企業に対し、日本法のアドバイスをするというものが中心であったが、ロサンゼルスでは、これとは逆に、米国に進出する日本企業に対し、米国法のアドバイスをするという案件に多く携わることができた。こうした双方向の経験を通じて、日本と外国では法律だけでなく様々なバックグラウンドが異なっていること、そのため、複数の国の当事者が関与する案件では、こうした違いを踏まえ、関係者の立場を十分に理解した上でアドバイスをすることが重要だということを改めて実感した。外国人を相手にすると、言語の壁もあってどうしてもコミュニケーションを最小限に留めようとしがちになるが、バックグラウンドの違う当事者の立場を理解するためには、むしろいつもよりも密にコミュニケーションを取らなければいけないということを実感した(そして当然のことながら、それがいかに難しいかということも実感した。)。その意味では、必ずしも「仕事で英語を使うから国際弁護士」というわけではなく、「海外の案件を扱うから国際弁護士」という言い方も少し違うように思われる。2年間の海外生活を経験した今、冒頭の「国際弁護士とは何か?」という疑問について、改めて考えてみることにしたい。
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