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『野村證券 第2事業法人部』著者「特捜検察も野村もブラック企業体質」

奥山 俊宏

 オリンパスの粉飾決算事件をめぐって金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載)、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)、詐欺の罪に問われている横尾宣政さん(62)がこの2月21日、講談社から初めての著書『野村證券 第2事業法人部』を出版した。横尾さんは一貫して無罪を主張しているが、2015年7月の一審・東京地裁判決、昨年9月の控訴審・東京高裁判決ではいずれも懲役4年、罰金1千万円の実刑を宣告された。本の前半では、「バブル期の野村證券でいちばん稼いだ男」だったという横尾さんやその「強烈な先輩たち」の辣腕(らつわん)ぶりが描かれ、後半では、オリンパス事件の複雑な経過が関係者の実名とともに記されている。その横尾さんにインタビューした。

横尾宣政氏の著書『野村證券 第2事業法人部』の表紙
 ――ご著書は書店でも平積みにされていますが、売れ行きはいかがですか?

 初版3万で、売り出した翌日に3万の重版が決まり、それから5日後に2万冊の重版が決まり、いまは8万部となっています。

 ――どういうところが支持されていると見ていますか?

 私より年上のかたで、バブルのころに財務や金融とか株をやっていた人が多いのかなという気がするんですが。
 戦後、会社のために必死に戦ってきた団塊世代の人達が、人知れず定年を迎え、この本で過去の自分を思い出しておられるのかもしれません。私も、野村証券のために、精一杯頑張ったつもりですが、何も報われてはいません。まさに、NHKの番組で流れていた、中島みゆきの「地上の星」や、「ヘッドライト・テールライト」の歌詞そのものではないでしょうか。私も、この歌を聴くと、頑張った戦後の(各業界の)先輩達を想像して、自然と涙が出てきます。戦後、頑張ってきた人たちの思い出を呼び起こしているのかもしれません。
 また、今の若者にとっては、初めて聞く、目新しい話なのでしょうね。彼らの先輩や上司は、このようにひどい環境を経験していない人達ですから。

 ――書店では國重惇史さんの『住友銀行秘史』とか、日経新聞OBの永野健二さんの『バブル:日本迷走の原点』とか、そういう本と並べて置かれています。出版界は昨年、田中角栄ブームでしたが、今はバブルのブームがあるのかなと感じているんですが。

 確かに本の表題は「バブル」という言葉が多いですね。
 バブル崩壊ということで済ましてきた事柄について、ようやく真相を話せる時期がきたのではないでしょうか。
 これらの本をきっかけにして、本質を見極めることが重要です。
 日本の株価が最高値を付けた当時と比べると、米国は約10倍になっていますし、欧州の株価も、軒並み約3倍近くになっています。ところが、日本だけはやっと半分という状況です。この現状を、単にバブルの後遺症として済ましてきたことが、日本の悲劇につながっています。
 いったい、何が原因で、20年におよぶ株価の低迷が起こっているのか。
 バブル期からの真実を掘り起こし、真摯なスタンスで考えていく必要に、ようやく気が付きかけたのではないでしょうか。
 ただ、どちらかというと、私が訴えたかったのは裁判のひどさです。
 オリンパス事件(の摘発)から5年以上がたっていますから、皆さん、その裁判にはご興味がないだろう、こちらから本を出させていただいて訴えかけるしかないだろう、と考えました。田中周紀さん(フリージャーナリスト)と知り合って、裁判も全部来ていただいて、よく分かっていただいていたので、お願いして(本のための原稿を)書いていただいた。
 私自身も、裁判所向けに200ページ、300ページの書面を数百回書き換えたのですが、いくら書いても分かりやすくならない。そのへんのところをきちっと分かりやすく書いてくれるかた、田中さんに出会えたのはラッキーだったと思います。

 ――とはいえ、本の前半の野村証券時代の部分は分かりやすく、すいすい読めたのですが、本の後半のオリンパス事件の部分はとても難しく、読むのが大変でした。なぜ、あんなに複雑になってしまったのでしょうか。

横尾 宣政(よこお・のぶまさ)
 1954年、兵庫県生まれ。78年、京都大学経済学部卒、野村証券入社。金沢支店、第2事業法人部、浜松支店次長、営業業務部運用企画課長、高崎支店長、新宿野村ビル支店長などを歴任。98年、野村証券を退社。コンサルティング会社「グローバル・カンパニー」を設立し、社長となった。2011年に発覚したオリンパス事件で、粉飾決算の「指南役」として連座させられ、一審、二審で実刑の有罪判決を受けた。現在、最高裁に上告中。
 私自身は、オリンパスがやっていること、それをやっている当時は、その内容を知りませんでした。取り調べが始まって、第三者委員会の報告書が出て、実際に捕まって、そこで徐々に証拠とかを見せていただけるようになって。でも、はじめはさっぱり分からなかった。なぜこんなスキームにしたのか分からない。一見、ものすごく馬鹿げた子供だましみたいなスキームです。かといって、なんでそんなことをやったんだろう、ということが分からない。それをある程度、私自身としてスキームを解明したというところに至るのに3~4年かかりました。
 そこで分かったことは、オリンパスが(損失を)ごまかしていく過程で、たとえば証券取引法の改正だとか金融ビッグバンによる時価会計の導入だとかいろんな問題点が彼らに降って湧いたように出てくる。それに対して、付け焼き刃的に場面場面でそこだけを逃げる策を考えたんだな、と。そう考えると、つじつまが合ってくる。ものすごく複雑といわれますが、逆から考えると、複雑ではなく、ものすごく馬鹿げた単純なことを彼らはやっている。それがよけいに複雑に見えてしまうんでしょうね。

 ――オリンパスによる損失隠しの過程で、横尾さんも、はたから見ると不自然な取引にいろいろと関わっておられて、一審、二審の裁判所は「横尾さんが損失隠しを知らなかったはずがない」と推認しているんですが、そこはご自分で客観的に見たときに、どうですか。

 確かに疑わしく思えるかもしれませんね。でも全てが、推論だけです。(損失隠しを知っていて関与したことを直接示す)証拠が(山田秀雄・元オリンパス副社長の供述のほかには)一個もないんです。森氏・中塚氏・京相氏の3人は、我々と「損失」の話をしたことがないと証言していますし、我々の前で「損」という言葉を使うこと自体が御法度だったとも証言しています。「損」という言葉を使わずに、「損失維持」や「損失解消」の相談ができるのでしょうか。法の原点は、「疑わしきは罰せず」ですよね。
 逆に、「無実である」「(損失隠しを)知らなかった」と示す証拠はいっぱいあるんです。それが全部無視されている。一つひとつ検証していけば、ぼくらが損失隠しを知らなかったという根拠はたくさんあるのです。
 我々が疑われる最大の理由は、検察が、ストーリーを作り上げたことにあります。当然、我々がオリンパスに協力したと思えるストーリーです。そして、そのストーリーを否定する全ての証拠を隠蔽したのですから、疑われるのは当たり前です。

 ――具体的にはどういうことですか。

 たとえば、平成4年に山田氏から浜松支店の私に掛かってきた電話です。その内容を書きとったメモが、浜松支店の書類と一緒に出てきたのですが、そのメモには、オリンパスの評価損400億円が記載されていました。その時にオリンパスの簿外損失(粉飾)を認識したと判断されたのですが、この時の会計基準では、合法的な評価損であって、粉飾ではありません。その上、そのメモには、損失の全ては監査法人に説明して、彼らの承認をもらうし、過去もそうしてきたと書いてあるのです。その後、損失が解消されたと聞いていないことが、簿外損失が存続していたことを認識していた証拠と言われていますが、 逆に言えば、その後、損失について何も聞かされていないことが、簿外損失を知らなかった証になるはずです。何故ならば、損失が解消されていなければ、監査法人が問題にしていて、私の耳にも入っているはずだからです。

 ――新事業3社株の売買はどうなんですか。極端に高い株価で売買され、その資金がオリンパスの損失隠しに使われたことが明らかになっています。横尾さんは全く疑わなかったのですか?

 皆さんが一番疑問に思っていらっしゃるのは、新事業3社を、すごい価格で買い取ったことだと思いますが、これにも隠された事実があるのです。
 「昔から親しくしている中国系投資家が3社に興味を持ち、3社株を購入したいと言ってきているので、ファンド(横尾氏らが管理していた事業投資ファンドのNeoとITV)の持ち株を売ってやってほしい」と、突然、オリンパスから電話があり、DDⅡとGTという2つの中国系ファンドから、入金があったのです。売却価格と株数は、オリンパスから聞かされました。第三者が、このような高価格で買ってくれるのですから、それを拒否したら、「期待利益の喪失」で訴えられてしまい、賠償請求されることは目に見えています。当然、従うしかありません。

 ――価格についての説明はありましたか。

 ありませんでしたが、3社の事業内容は、当時の中国が必要としていたものばかりでしたから、中国国内での営業権の意味もあるのだろうと思いました。

 ――その後

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