メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

35歳からのやり直し英語~ヤメ検国際弁護士の楽らく英語トレーニング法~

木川 和広

35歳からのやり直し英語
 ~ヤメ検国際弁護士の楽らく英語トレーニング法~

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 木川 和広

 1.語学習得に年齢の壁はない

木川 和広(きかわ・かずひろ)
 1998年、京都大学法学部卒業。2000年、司法修習(52期)を経て検事任官。東京地検、高松地検、那覇地検、法務省刑事局、横浜地検、岡山地検を経て、2007年、法務省入国管理局。2010年、東京地検(医事係検事)。2012年、弁護士登録(第一東京弁護士会)。2014年、米国University of California, Berkeley, School of Law (LL.M.)修了。
 私は、いわゆる「ヤメ検弁護士」である。検事に任官してからしばらくの間は、海外留学組の同期達の華やかな活躍を横目に見ながら、地検の現場でヤクザや詐欺師の取り調べに明け暮れていた。世間を賑わす有名企業の事件や暴力団抗争の捜査なども担当し、自分はこのままドメスティックな捜査検事として職業人生を終えるのだろうと思っていた。それが、何の因果か、法務省入国管理局という少しだけ国際的な響きのある部署に配属になり、カウンターパートとして知り合った国連職員のレバノン系アメリカ人の影響を受けて、35歳にして本格的に英語をやり直した。その結果、1年ほどでTOEICスコアが535点から965点にアップし、英検1級にも合格した。その2年後、38歳で検察庁を辞めて弁護士に転身し、40歳で米国の大学の法学修士号を取得した。

 私も、ご多分に漏れず、英語に対する秘めた憧れを抱きながら、どうしたら英語が上達するのかわからず、ちょっと英語の教材をかじっては三日坊主を繰り返してきた。しかし、試行錯誤の末に辿り着いた無理なく楽しく続けられる英語トレーニング法で、今では、多くの海外クライアントから案件の依頼をいただけるまでになった。

 幼い頃に海外暮らしをしなければ本当の英語は身につかないとか、20歳を過ぎたらネイティブの英語を聴き取れるようになるのは無理だとか、巷には様々な俗説がまかり通っていて、ミドルエイジの英語学習者の意欲を下げているが、全くの嘘である。

 35歳を過ぎても(おそらく60歳を過ぎても)、飽きることなく英語に触れ続けることができれば、間違いなく英語は上達する。その方法は人それぞれだろうが、私の場合は、アメリカの小学生向け副読本の音読と海外ドラマの視聴だった。

 2.音読の勧め

 考古学者のハインリッヒ・シュリーマンは、独学で18か国語を習得したことで知られているが、その基本となった勉強法は音読だったという。シュリーマンは、音読する際に翻訳しないことを心がけていたそうだが、この「翻訳しない」というのは英語の習得に非常に重要である。なぜなら、頭の中で英語を日本語に置きかえて理解していたのでは、英語のスピードに付いていけないからである。

 英語を英語のまま理解するためには、一つの単語の意味にこだわらず文章の大意をつかむことに主眼を置くことと、わからない単語の意味を前後の文脈から推測する力を養うことが重要である。そのためには、できるだけひっかからずに前に前に英文を読んでいくトレーニングをすることが有効だが、1ページにいくつも知らない単語が出てきたり、実力以上の難しい構文が出てきたりすると、そのような読み方ができない。

 私がお勧めするのは、アメリカの小学生向け副読本の音読である。見開きの2ページで知らない単語が2~3個しかなく、辞書なしで物語を理解できる本が良い。「見開きで知らない単語が2~3個しかない本」を見つけられるサイトとして私がよく利用したのが、「多聴多読ステーション」(http://www.kikuyomu.com)である。このサイトでは、朗読CD付きの副読本が、読みやすさ、聴き取りやすさ別に並べられていて、4ページ分ほど試読試聴ができるようになっている。気に入った本があれば、オンライン書店で購入できるので、地方在住の方であっても大丈夫である。

 3. 音読のやり方

 自分に合ったレベルの本を見つけたら、音読しながら分からない単語に鉛筆でチェックを入れ、1回通読した後に単語を調べて、もう1回通読すると良い。できれば全部で3回通読したいところだが、3回読むのが苦痛だったら無理はしなくて良い。

 國弘正雄さんという有名な同時通訳者が、その著書「國弘流英語の話しかた」の中で、只管朗読(しかんろうどく)という訓練法を勧めている。ただひたすら朗読を続ければ、いつの間にか英語脳が頭の中にできあがるということで、國弘さんは、中学1年生の教科書から1冊500回朗読することを勧めている。しかし、これは國弘さんのような驚異的な精神力を持つ人だけが可能なことであって、一般人には土台無理な話である。そこで私は、3回だけ読むことにした。しかも、気分が乗らない時には2回で止めて別の本を読むようにした。長く続けるためには、英語のトレーニングを辛くしないことを優先すべきである。

 小学生向け副読本と言っても、有名な小説の要約版や伝記の要約版もあるので、物語として十分に楽しめる。私のお気に入りは、「Who was シリーズ」という伝記の要約版である。リンカーンからエルヴィス・プレスリー、スティーブ・ジョブズまで、様々な分野の有名人の伝記がそろっている。物語に引き込まれて本を読み進めるうちに、気付いたら一冊読み終わっていたという状態になればしめたものである。楽しく続けるうちに、英語を英語のまま理解する時間が積み上がっていく。

 スポーツや楽器に打ち込んだ経験のある方ならばご理解いただけると思うが、しばらく上達を実感できない状態のままでも音読を続けていると、ある時突然に上達を実感する瞬間が訪れる。トレーニングしたことが脳の中で整理されてうまく繋がるためには少々時間がかかるのである。私の場合、音読を続けることでTOEICテストのリーディングよりも先にリスニングの点数が急激にアップし、音読の意外な効果を実感した。

 4.海外ドラマの勧め

 英語を聴き取れるようになるには、長い時間英語を聴いて英語のリズムに慣れることが必要である。私は試したことがないが、最近流行りの聞き流し教材も、こうしたコンセプトで作られたものだろう。

 しかし、英語を音だけで聴き続けるのは相当な集中力が必要だろうし、いったん購入した教材が面白くなくても、高いお金を払った後では、簡単に教材を変えるわけにもいかない。その点、海外のヒットドラマは、たいがい物語も面白く、映像があるので飽きにくい。面白くなければ、興味のある別のドラマに移ればいい。

 初級の段階でいきなり英語だけでドラマを視聴してもチンプンカンプンなので、最初は吹替えか日本語字幕で見てストーリーを理解し、その次に英語字幕、慣れてきたら英語だけというように、同じストーリーを何度も見るのが良い。英語字幕無しで難しければ、無理に字幕を消す必要はない。TOEICの点数で900点を超えてくるまでは、おそらく大人向けのドラマは難し過ぎるので、最初は子供向けのアニメから始めるのが良い。

 5. 海外ドラマの効用

 小さな子供が毎朝同じ内容のNHK教育テレビを見たり、録画した「ドラえもん」を繰り返し見たりするように、同じドラマを何度も見返していると、最初は全く聴き取れなかった英語が聴き取れるようになったり、ドラマの中のフレーズが自然と口をついて出るようになってきたりする。

 ドラマの視聴を始めた当初はなかなか英語力の向上を実感できないが、それでも飽きずに見続けていると、そのうちコップに溜まった水があふれ出すように、英語力の向上を実感できる瞬間が訪れる。このタイミングはおかしなもので、トレーニングに疲れてしばらく英語から離れたところ、1か月後に久しぶりに見たドラマの英語が驚くほどクリアに聴き取れるようになっていたりするのである。私は、留学から帰った後に、一時期、「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」(邦題)というリアリティーショーにはまって、7シーズンも見続けたことがあった。さすがにおバカなアメリカンセレブの日常生活のドタバタを見続けて疲れてしまい、その後ひと月ほど仕事以外では英語に触れずにいた。そうしたところ、しばらくぶりに別のドラマを見た時に、どうしたわけか驚くほど楽に英語を理解でき、スムーズに英語が口から出てくるのを実感できた。

 ネット通販サイトでドラマのレビューを見て、興味をひかれたものをまずはシーズン1だけ購入してみると良い。ドラマの面白さにハマって次のシーズンも見たいとなったら、後は、日本のテレビを見る代わりに海外ドラマを見続けるだけでいい。

 最近私が使っているのは、動画配信サイトの「hulu」(http://www.hulu.jp/)である。月額1000円ほどの定額制で海外ドラマが見放題、携帯でも見られるので、満員電車の中でもベッドに寝転がっていてもドラマを見ることができる。私がhuluの機能で気に入っているのは、10秒巻戻しボタンである。「あれっ、今なんて言ったのだろう。」と思ったときに、ちょうどワンシーンだけ巻き戻すことができてとても便利である。

 6.音読と海外ドラマの組み合わせで効果倍増

 音読と海外ドラマの視聴をそれぞれバラバラにやっても良いのだが、両方を組み合わせたら更に効率的ではないかと考えて始めたのが、海外ドラマのスクリプト(台本)を音読するという方法である。例えば、「ハウス・オブ・カード」であれば「House of Cards」「Script」という検索ワードで調べると、ドラマのセリフが掲載されたサイトが見つかる。

 英語字幕でドラマを見た後にスクリプトを音読し、また改めてドラマを見てみると、音読せずに2回ドラマを見るよりも登場人物のセリフがクリアに理解できる。英語の上達には、この理解しながら読んだり聴いたりすることが重要で、理解できない英語をただ流していても、BGMのようなもので頭には残らない。スクリプトの音読は、物語のストーリーをつかむことに偏りがちなドラマ試聴の弱点を補って、新しい単語や構文を映像とストーリーの中で覚えることができるという点で、とても有効である。

 7.Skype 英会話活用法

 外国人講師の英会話レッスンが25分当たり200円以下という破格の安さで、Skype英会話が人気を集めている。私も8年前からSkype 英会話を利用しているが、辿り着いた方法は少々特殊で、外国人講師にただひたすら英語の音読を聞いてもらうというものである。

 Skype英会話を始めた当初、スクールが準備した日々のニュース記事を読んでディスカッションするレッスンを続けていたが、このディスカッションの部分が面倒くさくてレッスンを受けるのが苦痛になってしまった。例えば、アメリカ軍が従来の方針を変更して女性兵士を前線に送ることにしたというニュース記事を読んだ後に、この記事についてどう思うか聞かれるのだが、正直言って何の感想もなく、日本語でも全く意見が思いつかなかった。そもそも、あるテーマについて意見を形成するという作業は英語力の向上とは無関係なので、ディスカッションは完全に省略することにして、ひたすら音読するのを聞いてもらうだけにした。レベル別に分かれた教材を準備しているスクールがあるので、自分のレベルにあった教材を選んで音読すると良い。

 音読を一人で続けるのは少々モチベーションの維持が大変だが、他人に聞いてもらうとやる気がでる。子供が母親に見てもらえるときだけ勉強するのと同じである。最近、パーソナルトレーナーを付けて筋トレをするのが流行っているが、それと同じ感覚で英語の音読トレーニングにパーソナルトレーナーを付けるのである。これが1回当たり2000円も3000円もするような英会話学校であれば、ただ音読を聞いてもらうのはもったいないから、文法なども教えてほしいという気持ちが湧いてしまうところだが、1レッスン200円以下であればあまり気にならない。25分間英語の文法を教えてもらうよりも、25分間自発的に音読トレーニングする方が、英語力の向上には何倍も効果的なので、この「ただひたすら音読を聞いてもらう」方法をぜひ試してみていただきたい。

 8.省エネ発音攻略法

 日本人が海外ドラマを見る上で最も苦戦するのが、英語の日常会話に出てくる省エネ発音である。「Want to」が「ワナ」になったり「going to」が「ガナ」になったりするように、単語同士がつながって一つの単語のようになる発音を聞かれたことがあるだろう。「アリー・マイ・ラブ」(邦題)というドラマを見ていた時に、登場人物が「ワダ マイ ガナ ドゥ」と言ったので、英語字幕を確認すると、「What am I going to do」と言っていた。これは「am」が2つに分かれて前と後ろの単語にくっつき、「going to」が「ガナ」になったのである。

What am I going to do

Whada mi gonna do
ワダ マイ ガナ ドゥ

 日本語でも「おはようございます」が「おざーす」になったりするが、英語の場合は、こういう省エネ発音が頻出するため、TOEICのリスニングが満点でも海外ドラマは全く歯が立たないという事態が起こる。

 私も留学中、この省エネ発音をされて、「?」となってしまうことが度々あった。例えば、しゃべるのも億劫だという雰囲気を全身から出したスーパーのレジ係に面倒くさそうに「ニダバ?」と聞かれ、しばらくしてようやく「Do you need a bag?(袋はいるか?)」と聞かれたと分かるという具合であった。なんとかこの省エネ発音を克服する方法はないものかとネットを叩いていたところ、「モゴモゴバスター」(http://www.mogomogobuster.com)という教材を発見した。実は、その1年ほど前にもこの教材をネットで見かけたことはあったのだが、ネーミングの怪しさから内容を良く確認せずにスルーしてしまっていた。ところが、改めてこの教材の説明を読んでみると冒頭に次のように書かれていた。

 「映画や海外ドラマ、簡単なセリフほど聞きにくい。ネイティブ同士が話し出すと突然分からなくなる。留学や駐在、日常会話だけがいつまでも聴きとれない。その理由は・・・」

 これを読んだ時、「探していた教材はこれだ!」と直感し、サンプルを試聴して求めていたものであることを確認し購入した。この教材は、アメリカ英語の省エネ発音を類型化して解説を加え、ネイティブスピーカーに省エネ発音を再現させた音源で聴き取り訓練をするというものである。私の場合、この教材を全て通しで3回ほど繰り返したところ、省エネ発音の引き出しが頭の中にできて、その後、海外ドラマの聴き取りが格段に楽になった。値段は59ドルと、とてもリーズナブルなので、だまされたと思って一度試してみていただきたい。

 9. ジャパニーズ・アクセント矯正法

 日本人にとっての難関は英語の発音だが、 海外ドラマを見続けながら、登場人物の真似をしてスクリプトを音読していれば、自然とネイティブにも通じる発音を身につけることができる。Skype英会話で出会う非ネイティブ講師の中でアメリカ人のような発音をする人に、どうやって英語の発音を身に付けたのか尋ねると、ほぼ例外なく、アメリカのドラマや映画が好きで大量に見たという答えが返ってきた。副読本の音読をする場合には、音源付きのものもあるので、少々値段は高くなるがそれを購入して、音源の真似をしながら音読するのも良い。

 英語のセリフの真似をする際に大切なのは、個々の文字の発音よりもシラブル(音節)である。例えば、「Good morning」は日本語だと「グッ・ド・モー・ニ・ン・グ」という6つのシラブルになるが、英語では「good・morn・ning」と3つのシラブルである。このように、日本語のシラブルは「子音+母音」で構成されているが、英語のシラブルは「子音+母音+子音」で構成されている。英語を外国人に理解してもらうためには、英語のシラブルで話すことが重要である。

 このことについては、「機関銃英語が聴き取れる!」(三修社:上川一秋著)という本に詳しく解説されているので、更に深く知りたい方はぜひ一度読んでみていただきたい。英語のシラブルの仕組みを理解した上で、ハウス・オブ・カードの主人公を演じるケビン・スペイシーの歌うような話し方を聞いてみれば、英語と日本語の話し方の違いを明確に理解できると思う。

 10.終わりに

 私は遅まきながら35歳で英語の勉強をやり直し、試行錯誤の末に最も自分にあったトレーニング法に辿り着いて、40歳にしてアメリカの学位を取得した。日本人は中学高校で6年も英語を勉強しているのになぜ英語ができないのかというのは、外国人によくある疑問だが、実質的に英語に触れている時間が短すぎることが最大の理由ではないかと思う。1時間を週に3~4回だけ、大部分を日本語で行うような授業では、英語の回路を頭の中に作り上げるためには圧倒的に時間が足りない。

 英語力を向上させるためには、英語を英語として使う時間を積み上げていく必要がある。そのためには、無理なく楽しく英語に触れ続けることが重要である。その方法の1つとして、本稿でご紹介した副読本の音読と海外ドラマの視聴を、ぜひ皆さんにもお勧めしたい。