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議決権行使結果の公表など日本版スチュワードシップ・コードの改訂

有吉 尚哉

日本版スチュワードシップ・コードの改訂

西村あさひ法律事務所
弁護士 有吉 尚哉

■ はじめに

有吉 尚哉(ありよし・なおや)
 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。
 日本版スチュワードシップ・コード(以下「日本版SSC」)は、平成26年2月26日に、金融庁が設置した「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」によって策定されたものであり、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすに当たり有用と考えられる7つの原則とそれらを補足する指針を定めるものである。この「スチュワードシップ責任」とは、日本版SSCの冒頭で「機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」(最終受益者を含む。)の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任」と定義されている。

 日本版SSCには、おおむね3年ごとを目処として定期的な見直しが期待される旨が明記されており(改訂前の前文15項)、平成29年の前半が最初の見直し時期に当たる。そして、金融庁・東京証券取引所が設置した「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」)より、平成28年11月30日に「機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方」と題する意見書が公表され、日本版SSCの改訂が提言された。これを受けて、金融庁が設置した「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(以下「有識者検討会」)において日本版SSCの改訂に向けた審議がなされ、平成29年3月28日には日本版SSCの改訂案が公表された。その後、改訂案についてパブリックコメントの手続を実施した上で、最終的に5月29日に日本版SSCの改訂版が公表された(あわせて、改訂案及びその英訳版に対するパブリックコメントへの回答(以下「パブコメ回答」)も公表されている)。

 日本版SSCは、その趣旨に賛同する機関投資家に受け入れることを期待する諸原則であり、法的拘束力を有する法規範ではないが、主要な機関投資家の多くが日本版SSCを受け入れており、事実上、日本版SSCの改訂により、年金基金等のアセットオーナーと、投資運用会社等の運用機関の双方を含む機関投資家の実務に影響を与えることが見込まれる。また、その反射的な効果として機関投資家から投資を受ける企業にとって株主・投資家対応の実務に影響が生じることが予想される。

 以下では、今回の日本版SSCの改訂により変更された内容について解説を行う。

■ 立場に応じた規律の明確化

 改訂前より日本版SSCの対象となる「機関投資家」には、資金の出し手である「資産保有者としての機関投資家」と資金の運用等を受託し自ら企業への投資を担う「資産運用者としての機関投資家」とが含まれるとされており、さらに、機関投資家から業務の委託を受ける議決権行使助言会社等に対しても、日本版SSCが当てはまるものとされている。実際に日本版SSCの受入れを表明し、金融庁が公表するリストに掲載されている者の中には、「資産保有者としての機関投資家」と「資産運用者としての機関投資家」(両方の属性を有する機関投資家を含む)のほか、議決権行使助言会社等も含まれている。

 この点、日本版SSCの一般的な趣旨・精神は、「資産保有者としての機関投資家」と「資産運用者としての機関投資家」の双方に当てはまるものであり、議決権行使助言会社等の業務にも当てはまり得るものである。もっとも、スチュワードシップ責任を果たすために求められる役割は、それぞれの立場に応じて異なることから、改訂版では「資産保有者としての機関投資家」を「アセットオーナー」、「資産運用者としての機関投資家」を「運用機関」とそれぞれ定義した上で(前文7項)、アセットオーナー、運用機関それぞれ特有の留意事項が各原則の指針の中に定められている。なお、機関投資家の中には、アセットオーナーと運用機関のいずれに該当するか明確に区別するのが困難な業態もあると思われるが、パブコメ回答では、「各機関投資家が『運用機関』と『アセットオーナー』のいずれに該当するのかは、それぞれの機関投資家において自ら適切に判断されるべきもの」と述べられている(その上で、例えば、生命保険会社について、フォローアップ会議や有識者検討会では、「「運用機関」として捉えられる側面が多いとの前提で議論が行われた」と説明されている)。加えて、議決権行使助言会社に対しても、個別的な指針を追加している。

■ アセットオーナーによる実効的なチェック

 アセットオーナーについては、スチュワードシップ責任をより積極的に果たすことが求められている。具体的には、可能な限り、アセットオーナーが自らスチュワードシップ活動に取り組むべきことを前提に、直接的にスチュワードシップ活動を行わない場合には、運用機関に実効的なスチュワードシップ活動を行うよう求めるべきものとされている(指針1-3)。その上で、アセットオーナーが運用機関を通じてスチュワードシップ活動を行う場合には、運用機関による実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう、運用機関の選定や運用委託契約の締結に際して、スチュワードシップ活動に関して求める事項や原則を運用機関に対して明確に示すべきとしている(指針1-4。なお、パブコメ回答では、これらの事項の示し方は、必ずしも契約書を含む文書の形態による必要はないとされている)。ちなみに、パブコメ回答の中では、アセットオーナーが運用機関にスチュワードシップ活動を求める際には、「本コードの各原則・指針の文言を表面的に捉え、過度に機械的にその実施を求めるのではなく、そうした活動が実効的なものとなるよう、運用機関に対して求める事項・原則を示し、運用機関との間で適切にコミュニケーションを行うことが重要である」と述べられており、アセットオーナーと運用機関のコミュニケーションの重要性が指摘されている。

 また、改訂後の日本版SSCでは、アセットオーナーによる運用機関に対するモニタリングの重要性も強調されており、アセットオーナーは、運用機関のスチュワードシップ活動と自らの方針との整合性について、運用機関の自己評価(後述の指針7-4参照)なども活用しながら、実効的に運用機関に対するモニタリングを行うべきとされている(指針1-5)。なお、パブコメ回答の中では、モニタリングに際して、「各アセットオーナーの工夫・判断により、実効的なスチュワードシップ活動の実現に資するような指標に基づく定量的な評価を行うことも、評価方法としては必ずしも排除されない」とされているが、一方で「形式的な細部にわたる事項の確認よりも、対話の『質』に重点を置くべきである」と述べられていることに注意が必要である。

■ 運用機関のガバナンス・利益相反管理

 運用機関については、ガバナンスの強化や利益相反管理の取組みを推進すべきことが強調されている。具体的には、①運用機関は、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じ得る場面を具体的に特定し、それぞれの利益相反を回避し、その影響を実効的に排除するなど、顧客・受益者の利益を確保するための措置について具体的な方針を策定・公表すべきこと(指針2-2第二文)、②顧客・受益者の利益の確保や利益相反防止のため、独立した取締役会(パブコメ回答において、親会社等から派遣されてきた経営陣からの独立性も含めた親会社等からの独立性を想定したものと説明されている)や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などのガバナンス体制を整備すべきこと(指針2-3)、③運用機関の経営陣は、運用機関のガバナンス強化・利益相反管理に関して重要な役割・責務を担っていることを認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進すべきこと(指針2-4)が、それぞれ機関投資家に利益相反管理についての指針の策定・公表を求める原則2に関する指針として追記されている。指針2-3に関して、パブコメ回答では、「『独立した取締役会』を設置する際には、単に形式的に設置するだけではなく、実際に親会社等の干渉を受けることなくスチュワードシップ活動を行うことができるような工夫も併せて行うなど、独立性が実効的に担保されること」、「『第三者委員会』についても…顧客・受益者の利益の確保や利益相反防止の観点から適切な独立性を有することが必要であり、例えば、委員の人選に際しても、こうした目的を踏まえた選定プロセスとするなど、各運用機関において、本指針の趣旨を踏まえた対応がなされること」が重要である旨が指摘されており、形式面だけではなく実質的な独立性を確保することが求められている。また、独立した取締役会や第三者委員会はあくまでも例示であり、ガバナンス体制の詳細な内容については、各運用機関における工夫・判断に委ねるものであることが明示されている。

 さらに、後述のとおり、今回の改訂により、機関投資家の経営陣の役割・責務に関する指針が追加されているが、その中で、機関投資家の経営陣が系列の金融グループ内部の論理などに基づいて構成されるべきではないことも言及されている(指針7-2)。この点は、人事体系の観点から、機関投資家の属する金融グループと顧客・受益者との間の利益相反による弊害を防ぐことを求めるものともいえる。また、機関投資家の経営陣がスチュワードシップ活動の実行のための組織構築・人材育成に関して重要な役割・責務を担っていることを認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進すべきことも言及されているが(指針7-2)、この点は、機関投資家の経営陣にガバナンスの強化についての責務がある旨を述べたものとも評価できよう。

■ 議決権行使助言会社の体制整備

 改訂前の日本版SSCにおいても、コードが議決権行使助言会社にも当てはまることは明記されていたが、改訂後の日本版SSCでは、議決権行使助言会社特有の指針が設けられている。具体的には、①議決権行使助言会社は、企業の状況の的確な把握等のために十分な経営資源を投入し、日本版SSCの各原則が自らに当てはまることに留意して、適切にサービスを提供すべきこと、また、②業務の体制や利益相反管理、助言の策定プロセス等に関し、自らの取組みを公表すべきことが指針5-5として追記されている。

 近年、欧米では議決権行使助言会社に対して利益相反管理や業務体制整備などを要求する規制を導入する動きも見られるが、我が国では日本版SSCの改訂によって議決権行使助言会社に対する規律を強化したものと評価することができる。

 なお、議決権行使助言会社にも日本版SSCが当てはまるとしても、スチュワードシップ責任を直接的に負うのは機関投資家である。従って、議決権行使助言会社に対する規律が強化されたからといって、機関投資家が議決権行使助言会社を利用する場合に、その助言に機械的に依拠するのではなく、機関投資家自身の責任と判断の下で議決権を行使すべきであることに変わりはない(指針5-4)のであって、議決権行使助言会社の利用によって機関投資家の責務が免除・軽減されるものではないことに留意すべきである。

■ ESG要素による収益機会を踏まえた状況把握

 一般に、機関投資家が投資を行う際の考慮事項として、ESG要素(環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance))が挙げられることがある。改訂前の日本版SSCでも、機関投資家が投資先企業の状況を的確に把握することを求める原則3に関して、把握する内容の例として投資先企業のガバナンス、社会・環境問題に関連する「リスク」が示されていたが(指針3-3)、投資先企業の状況を踏まえて重要と考えられるものは、事業におけるリスク・収益機会の両面で、中長期的な企業価値に影響を及ぼすのではないかとの考えに基づき指針3-3が修正され、機関投資家は、投資先企業のESG要素に関連する「リスク」だけでなく「収益機会」についても、的確に把握すべきであることが明確にされている。

■ パッシブ運用における対話・議決権行使の重要性

 改訂前の日本版SSCでも、機関投資家の運用方針によって日本版SSCの履行の態様は異なり得ることが明記されており、そのような差異が生じる運用方針の例として、アクティブ運用であるかパッシブ運用であるかが挙げられていたが、アクティブ運用・パッシブ運用それぞれの場合における取組みの具体的な考え方については、特に言及されていなかった。これに対して、今回の改訂では、特にパッシブ運用について、投資先企業の株式を売却する選択肢が限られ、中長期的な企業価値の向上を促す必要性が高いことから、機関投資家は、より積極的に中長期的視点に立った対話(エンゲージメント)や議決権行使に取り組むべきであることが明記されている(指針4-2)。この点、パッシブ運用においては、コストを抑制する観点からエンゲージメント等のスチュワードシップ活動を限定的なものとしたいという要請が特に強いという面もあるが、日本版SSCでは、このような主張があることも踏まえた上で、前述の理由から、パッシブ運用における対話・議決権行使の重要性が明記されている。パブコメ回答でも、「スチュワードシップ活動の実施に伴う適正なコストは、投資に必要なコストであるという意識を、機関投資家と顧客・受益者の双方において共有すべき」であり、パッシブ運用におけるエンゲージメントの具体的な手法やコスト負担のあり方などについて、関係者間での検討が進められることが期待される旨が述べられている。

■ 集団的エンゲージメント

 日本版SSCの策定に際して参考とされた英国のスチュワードシップ・コードでは、原則の一つとして、「機関投資家は、適切な場合には進んで他の投資家と共同して行動すべきである」という項目が掲げられていることもあり、日本版SSCの策定時から他の機関投資家と協働して対話を行うこと(集団的エンゲージメント)の必要性が論点となっていたが、改訂前の日本版SSCでは、集団的エンゲージメントについての言及は特になされていなかった。今回の改訂でも、集団的エンゲージメントの具体的態様が様々であることなどを踏まえ、集団的エンゲージメントを推奨するような原則・指針は追加されていない。もっとも、集団的エンゲージメントについて、上場企業との間で対話を行う際の選択肢として考えられることを日本版SSCにも盛り込むべきではないか、という考え方から、集団的エンゲージメントを個別の原則にまではしないものの、エンゲージメントについての原則4に関する指針の中で集団的エンゲージメントが有益な場合もあり得ることが追記され(指針4-4)、集団的エンゲージメントが対話手法の選択肢の一つとなることが明確にされている。

 この点、集団的エンゲージメントを実施することについては、機関投資家同士が共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意しているものとして、公開買付規制における「特別関係者」や大量保有報告規制における「共同保有者」に該当すると評価される可能性があり、機関投資家が集団的エンゲージメントを行うことを忌避させる要因になっているとの指摘がある。この論点については、日本版SSCの策定段階でも議論となっており、既に、当初の日本版SSCの公表と同時に、金融庁から解釈の明確化を図るための「日本版スチュワードシップ・コードの策定を踏まえた法的論点に係る考え方の整理」が公表され、一定の解釈指針が示されている。この解釈指針に加えて、今回の改訂で集団的エンゲージメントに言及する指針が日本版SSCに追加され、日本法の下で、欧米と同様の集団的エンゲージメントを行うことができないわけではない旨が確認されたことも踏まえて、今後は、適正な範囲で実効的な集団的エンゲージメントが実施されるようになることが期待される。

■ 議決権行使結果の公表の充実(個別開示の推奨)

 機関投資家による議決権行使結果の開示方法、特に投資先企業・議案ごとの個別開示の要否については、今回の日本版SSCの改訂の議論の中で中心的な論点となった。この点、フォローアップ会議では、個別の議決権行使結果の公表により、賛否の結果のみに過度に関心が集まり、運用機関による形式的な行使を助長したり、上場企業と運用機関の対決色が強調されるなど、円滑な対話が阻害されるのではないかとの懸念なども指摘されていた。しかしながら、最終的なフォローアップ会議の意見書では、運用機関等が真に最終受益者のために議決権を行使することを担保する上でも、個別の議決権行使結果を公表することは有効な方法と考えられること、運用機関等が議決権行使の理由を対外的に明確に説明することも、透明性の向上に資するものと考えられること等の観点から、個別企業・議案ごとに議決権行使結果を公表することが重要である旨提言されていた。

 その後の有識者検討会での議論も踏まえて、改訂後の日本版SSCでは、議決権行使結果の個別開示を原則的なものと位置付ける内容となっている。すなわち、機関投資家による議決権行使結果の開示について、①少なくとも議案の主な種類ごと(パブコメ回答では、機関投資家によって行われている議決権行使結果の集計公表の例として、剰余金処分案等、取締役選任、役員報酬額改定などといった議案の種類ごとに整理がなされていることが紹介されている)の集計開示を行うべきであること、②議決権行使の可視性をさらに高める観点から、投資先企業・議案ごと(パブコメ回答では、取締役選任議案については、それぞれの候補者についての議案が個別の議案に当たるという考え方が示されていることに注意が必要である)の個別開示を行うべきであること、③それぞれの機関投資家の置かれた状況により、個別開示が必ずしも適切でないと考えられる場合には、その理由を積極的に説明すべきであることが、それぞれ議決権行使に関する原則5の指針として明記されている(指針5-3第一文・第二文)。

 加えて、機関投資家が議決権行使の賛否の理由について対外的に明確に説明することも、可視性を高めることに資するという考え方が明記されている(指針5-3第三文)。なお、パブコメ回答では、議決権行使結果の個別開示をすべきとする理由として、スチュワードシップ責任を果たすための方針に沿って適切に議決権を行使しているか否かに関する可視性を高めるという観点に加えて、議決権行使をめぐる利益相反の懸念を払拭するとの観点も挙げられている。

 この指針5-3の改訂により、本年の6月定時株主総会シーズンから、日系の機関投資家も含め、機関投資家による議決権行使結果の個別開示の取組みが進んでいる。機関投資家から投資を受ける上場企業の側も、今後は、個々の機関投資家の自社に対する議決権行使結果が公表される可能性が高まることを踏まえて、IR活動・SR活動に取り組むことが求められよう。

■ 経営陣の役割・責務

 今回の改訂により、機関投資家の経営陣の役割・責務に関する指針が追加されている。具体的には、機関投資家の経営陣は、①スチュワードシップ責任を実効的に果たすための適切な能力・経験を備えているべきであり、系列の金融グループ内部の論理などに基づいて構成されるべきではないこと、②自らが対話の充実等のスチュワードシップ活動の実行とそのための組織構築・人材育成に関して重要な役割・責務を担っていることを認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進すべきことの2点が、明記されている(指針7-2)。

■ 運用機関の自己評価

 改訂前の日本版SSCでも、原則7やそれに関する指針の中で、機関投資家が策定したスチュワードシップ活動に関する方針の改善など、将来のスチュワードシップ活動をより適切なものとするための努力義務が掲げられていたが、今回の改訂により、機関投資家のうち特に運用機関は、ガバナンス体制・利益相反管理、スチュワードシップ活動等の改善に向けて、日本版SSCの各原則の実施状況を定期的に自己評価し、結果を公表すべきことが指針として明記されている(指針7-4)。

■ 機関投資家に求められる対応

 日本版SSCは法的拘束力を有する法規範ではなく、コードを受け入れた機関投資家がコードを遵守することを期待することを通じたソフト・ローとしての規律である。そのような日本版SSCの性質上、機関投資家が今回の改訂に合わせた対応を行わなければならない期限が特に存在するものではない。もっとも、金融庁は、日本版SSCを受け入れている機関投資家が、遅くとも日本版SSCの改訂版の公表の6か月後である平成29年11月末までに、改訂内容に対応した公表項目の更新及び更新を行った旨の公表と金融庁への通知を行うことを期待するとしており、機関投資家にとっては、事実上、平成29年11月末が、対応を行うタイミングとして意識すべき期限となっている。

 従って、日本版SSCを受け入れている機関投資家は、改訂後の日本版SSCを踏まえて、策定済みのスチュワードシップ責任を果たすための方針(原則1)、利益相反管理方針(原則2。特に運用機関については、指針2-2第二文が追加されたことを踏まえた方針の見直しが求められる)、議決権行使結果の公表方針(原則5。指針5-3の改訂により、議決権行使結果の個別開示が原則的なものと位置付けられたことや議決権行使の賛否の理由について対外的に説明することが推奨されたことを踏まえた方針の見直しが求められる)を見直した上で、新たな方針の下でスチュワードシップ活動を実施していくことが求められることになる。また、特に運用機関については、日本版SSCの各原則の実施状況を定期的に自己評価し、結果を公表

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