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仮想通貨によるICO(イニシャル・コイン・オファリング)の法的論点

本柳 祐介

ICO (Initial Coin Offering)と法律上の論点

弁護士・NY州弁護士
本柳 祐介

1. ICO(Initial Coin Offering)とは

本柳 祐介(もとやなぎ・ゆうすけ)
 2001年早稲田大学法学部卒業。2003年弁護士登録。2010年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2010年~2011年、米ニューヨークのデービス・ポーク・アンド・ウォードウェル法律事務所勤務、2011年~2012年ドイツ証券株式会社出向、2011年ニューヨーク州弁護士登録。現在西村あさひ法律事務所パートナー。
 近時、ICO(Initial Coin Offering)を通じた資金調達が話題となっている。ICOが何であるかについて現時点では必ずしも統一的な見解はないが、最大公約数的に言うと、ICOとは“仮想通貨”(virtual coin又はvirtual currency)や“トークン”(token)などと呼ばれる“財産的価値”を発行して投資家を募集し、資金を得ることをいう。

 どのような“財産的価値”(以下、仮想通貨も含み得るものとして「トークン」という)を発行するものがICOと呼ばれるかについても統一的な見解はないが、少なくとも、トークンに法定通貨と類似の“不特定の場面で物やサービスの対価の支払いに使用可能である”という機能があり、かつ法定通貨と交換可能(又は法定通貨と交換可能な他のトークンと交換可能)であるというのが基本形であると思われる。このようなトークンを発行する場合を「狭義のICO」と呼ぶことができよう。

 上記の基本機能以外の機能を持つトークンを発行する場合もICOと呼ばれることがあり、これらを「広義のICO」と呼ぶことができる。例えば、トークンの発行者に対する債権に裏付けられたトークンについては、法定通貨と類似の機能を果たす面があるとしても、性質としては手形や債券に近いものとなるため、「狭義のICO」とは区別して考えるべきである。さらに、“不特定の場面で物やサービスの対価の支払いに使用可能である”という機能すらないトークンを発行する場合もICOと呼ばれることがあるが、ICOという言葉からはかなり距離があり、ICOと呼ぶのはミスリーディングではないかと思われる。

2. 法律上の考え方

 ICOに対する法規制は、発行するトークンの機能によって異なる。発行されるトークンが使用される場面、投資家の有する権利などに照らして個別に検討する必要がある。トークン自体の魅力を高め、ICOを成功に近づけるためにはトークンの取得者に何かしらの具体的なメリットを付与することが考えられるが、具体的なメリットを与えると法規制の適用可能性が高まるため(詳細は後述)、慎重な検討が不可欠である。

 また、ICOをグローバルで行う場合には、海外の規制が問題となる。ICO自体を日本国内において日本の投資家に限定して行う場合であっても、トークンの機能次第では、トークンが海外投資家に譲渡された場合などには海外の法規制が問題になる可能性がある。

 なお、ICOについては、規制法の適用を避けることに対する期待が語られることもあるが、これは誤った姿勢であると言わざるを得ない。仮に現行の規制法の適用対象とならないとしても、規制法回避のためのICOが法改正等により規制対象とされることは容易に予想されるところである。したがって、ICOの実施に際しては、今後の規制法の改正可能性も考慮した上での検討を行う必要がある。

3. 日本法上の論点

 (1) 仮想通貨交換業

 ICOにおいて発行されるトークンについては、まず、資金決済法の「仮想通貨」該当性が問題となるが、インターネットを通じて電子的に取引されるトークンが、①物品の購入、レンタル又はサービスの代価弁済のために不特定多数の者に対して使用することができ、②不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができ、かつ③法定通貨又は通貨建資産でない場合には、同法上の「仮想通貨」(1号仮想通貨)に該当する(資金決済法2条1項5号)。また、不特定の者を相手方として1号仮想通貨と相互に交換を行うことができるトークンも法定通貨又は通貨建資産でない場合は「仮想通貨」(2号仮想通貨)に該当する(同法2条5項2号)。
 トークンが「仮想通貨」に該当する場合、その売買や他の仮想通貨との交換などを業として行うことは仮想通貨交換業に該当するため、「仮想通貨」の取引所の運営者や「仮想通貨」の売買等の取引の媒介、取次ぎ又は代理を業として行う者には、仮想通貨交換業者としての登録が必要とされるほか、一定の規制遵守が求められる(資金決済法2条7項、63条の2以下)。また、犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認(いわゆる本人確認)も必要となる(犯罪収益移転防止法2条2項31号、同施行令6条14号、7条1項1号ヨ~レ)。

 (2) 前払式支払手段への該当性

 トークンについては、「前払式支払手段」該当性も問題となる。トークンが、対価を得て発行されるものであり、発行者又は発行者の指定する者から物品の購入又はサービス提供を受ける際の代価の弁済に使用できる場合、基本的には前払式決済手段に該当することとなる(資金決済法3条1項)。仮想通貨に該当するトークンが、前払式支払手段にも該当する可能性があるか問題となるが、2号仮想通貨については不特定多数の者に対して使用することができることは要件とされていないため、前払式支払手段に該当する可能性があると考えられる。
 前払式支払手段に該当する場合、その発行者には届出又は登録(資金決済法5条、7条)が必要とされるほか、発行保証金の預託又はそれに代わる手当て(同法14条)など資金決済法を遵守することが求められる。
 ICOを成功させるためにトークンの保有者に対して確実な使い途を提供することが考えられるが、上述の通り、発行者又は発行者の指定する者に対してのみ使用できるトークンは前払式支払手段となり、資金決済法の遵守が必要となる。形式的に不特定の場面で物やサービスの対価の支払いに使用可能であるとしても、その使用可能性が乏しい場合には、実質的には特定の者に対してのみ使用できるものとして前払式支払手段と判定される可能性があるため、設計に際しては慎重な検討が必要となる。

 (3) 金融商品取引法上の有価証券への該当性

 トークンの発行者がトークンの保有者に対して利益の分配を行う場合には、金融商品取引法上の有価証券該当性が問題となる。一定のプロジェクトを前提にトークンを発行し、調達した資金を用いて事業を行い、その事業からの収益をトークンの保有者に分配するのであれば、集団投資スキームに係る有価証券(金融商品取引法2条2項5号)として金融商品取引法の適用を受ける可能性がある。集団投資スキームに係る有価証券は組合形態で組成されたファンドに関する規制であるが、上記の実態が認められれば、実質的には組合形態のファンドが存在するとみられる可能性がある。また、集団投資スキームに係る有価証券には「出資又は拠出をした金銭を・・・充てて」という要件もあるが、トークンと金銭の交換が容易なものであれば、実質的には金銭を出資しているとみられる可能性がある。
 有価証券に該当する場合、出資者を募る行為について第二種金融商品取引業が問題となり、かかる行為を行う者には金融商品取引業者としての登録が必要とされる(金融商品取引法28条2項、2条8項7号ヘ、29条)。また、当該トークンの取引を行う市場は金融商品市場に該当し、その開設者には免許が必要とされる(同法80条)。
 また、有価証券は「金融商品」であるため、トークンが有価証券に該当する場合にはその販売に対して金融商品販売法も適用される(金融商品販売法2条1項、同施行令5条)。さらに、犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認(いわゆる本人確認)も必要となる(犯罪収益移転防止法2条2項21号、同施行令6条1号、7条1項1号リ等)。
 トークンの保有者に対してリターンを提供することは、ICOを成功させるためには魅力的な選択肢である一方、法規制の観点からは金融商品取引法等の厳格な規制の適用対象となる可能性があるため、慎重な検討が必要となる。

 (4) 特定商取引法

 トークンの発行者がトークンの保有者に対して商品又はサービスを提供する場合、インターネット経由の申込みを受けて商品を販売し又はサービスの提供を行うものと評価され、特定商取引法が適用される可能性がある(特定商取引法2条2項、同施行規則2条2号)。特定商取引法が適用されると、広告規制等の遵守が必要とされるほか(特定商取引法11条以下)、クーリングオフも原則として認められることとなる(同法15条の2)。
 ICOを成功させるためにトークンの発行者がトークンの購入者に対して商品又はサービスを提供することについては、当該商品又はサービスの提供はトークン販売の“おまけ”であり、投資家が払い込む金銭はあくまでもトークンの対価であるという整理もあり得るが、トークンの価値は必ずしも客観的なものではないため、投資家が払い込む金銭は商品又はサービスの対価であると見られる可能性もある。そのため、設計に際しては慎重な検討が必要となる。

 (5) 民法及び刑法

 ICOは、トークンの発行者と購入者との間の契約である。そのため、詐欺があったと評価される場合には契約の取消しが可能となるほか(民法96条)、説明不十分により損害が生じたと判断されれば、トークンの購入者から発行者に対する損害賠償請求が認められる(同法415条、709条)。
 また、刑法の適用可能性も考える必要がある。トークンの価値は必ずしも客観的なものではないため、詐欺罪(刑法246条)への該当可能性には十分に注意する必要がある。例えば、トークンの使い途を確保できていないにもかかわらず、それが確保できているかのように虚偽の説明をしてICOを実施した場合には、詐欺罪に該当し得る。

 (6) その他の法律

 トークンの発行者がトークンの購入者に対して商品又はサービスを提供する場合、それが発行者の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する景品として位置づけられるのであれば、景品表示法の適用対象となる。購入者に対してもれなく提供する場合や先着順により提供する場合には総付景品として限度額の制限を遵守する必要がある。
 トークンの発行相手が個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く)である場合、トークンの発行者と購入者である個人との契約は消費者契約法の適用対象となる。その結果、重要な事実を告げなかった場合等に契約が取消しの対象となるほか(消費者契約法4条参照)、合意内容について一定の制限が課されることとなる。
 このほかにも、トークンの購入者が発行者に対して貸付けをすると評価される場合には購入者において貸金業法が適用され、登録が必要となるのではないかとの問題が生じるなど、トークン保有者の権利の性質に応じた規制法上の問題の検討が必要となる。

4. 海外の法規制

 法規制は国ごとに異なるものの、上記の日本法上と同様の論点が各国において問題となり得る。また、規制の枠組みが同じであっても、国によって具体的な規制の内容が異なることから、日本法上は問題ない行為が、外国において問題になる可能性がある。例えば、有価証券該当性について、米国では、①投資家による金銭の出資と事業利益の投資家への分配、②複数の投資家からの出資に基づく共同事業の存在、③投資家と事業者との分離という要件を満たす場合には「投資契約」として有価証券該当性が認められることとされており(Howey判決)、日本法よりも証券法の適用対象が広くなっている。また、日本の外資規制はかなり緩和されているため、外国においてICOを行う等の場合には、日本よりも広い範囲での規制が及ぶ可能性が高い。

 したがって、ICOにおいて海外の投資家からの投資も受け入れる場合、当該国の規制法の検討が欠かせない。加えて、ICOにおいては海外の投資家からの投資を受け入れないとしても、トークンの保有者が当該国に所在する場合には、トークンの発行者がサービス提供者として何らかの規制を受ける可能性もあるため、トークンの流通先についても規制法上の問題の検討が必要となる。

5. 国内外の規制当局の動向

 ICOの実施例が増えるにつれ、規制当局の間でもICOの問題点に関する問題意識が高まっている。

 例えば、ICOにおいて発行されるトークンがシステムの脆弱性その他により“仮想通貨”としての適切な機能を持たない場合には、購入者はトークンを適切に利用(又は他のトークンと交換)することができず、損失を被ることとなる。また、狭義のICOにおいて発行されるトークンについては、投資家は発行者又は第三者に対して具体的な権利を有することはないが、投資家に適切な理解がないと、リターンに対する根拠のない期待をもって投資してしまうこととなる。

 そのため、規制当局はICO自体を制限するか、又は投資家に対する注意喚起を促すかのいずれか(又は両方)の対応をとっている。金融庁も「仮想通貨に関するトラブルに御注意ください!」という文書を公表するなど、投資家に対する注意喚起を行っている。

 海外主要国の規制当局における対応は以下の通りである。

  •  中国では、中国人民銀行等により、仮想通貨取引所の活動や金融機関等によるトークン関連のビジネスを禁止する通知が出されている(2017年9月8日付通知)。
  •  アメリカでは、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)により、投資家に対する注意喚起のリリースが複数出されており、ICOにおいて発行されるトークンが有価証券に該当する可能性が示されている(2017年7月25日付Investor Bulletin2017年8月28日付Investor Alert)。また、実際に、証券取引委員会はDAO Tokenというトークンについて有価証券該当性を認め、その販売は、1933年連邦証券法・1934年連邦証券取引所法の適用対象となるとの判断を示している(2017年7月25日付リリース)。
  •  イギリスでは、Financial Conduct Authorityにより、ICOに対する注意喚起のリリースが公表されている(2017年9月17日付リリース)。
  •  香港では、Securities and Futures Commissionにより、トークンは有価証券に該当し、Securities and Futures Ordinance等の規制を受ける可能性があるとの見解が公表されている(2017年9月5日付リリース)。
  •  シンガポールでは、Monetary Authority of Singaporeにより、トークンは有価証券に該当し、Securities and Futures Act等の規制を受ける可能性があるとの見解が公表されている(2017年8月1日付リリース)。

6. 投資家としての検討の視点

 投資家としてICOに参加する場合、自らの取得するトークンにどのような機能があるか正確に理解しなければならない。狭義のICOにおけるトークンは、上述の通り、支払いのために使うことができるのみであり、発行者や第三者に対する具体的な権利を得ることはできない。トークン自体が値上がりすれば売却益を得ることができるものの、株式などと異なり裏付けとなる資産がない(利益の分配や清算時の残余財産の分配はない)ため、トークンのトレーディングは、基本的に取引参加者間におけるゼロサムゲームとなる。これに対して、広義のICOにおいては、トークンの設計次第では投資家は具体的な権利を得ることができる。

 また、トークンの仕組み自体が適切なものであることを確認しなければならない。想定通りの使用ができるかどうかについて、発行者の説明を鵜呑みにすることはできない。セキュリティが強固なものであるか、安定的な運用がなされるか、使用場面又は取引機会が想定された規模となるかといった点を確認する必要がある。

 さらに、規制法の適用可能性も無視することはできない。トークンの発行が規制法に違反する場合、当局からトークンの取引等が止められる可能性があるが、トークンの取引等が止められてトークンの使用ができなくなると、投資家は大きな損失を被ることになる。

 これらの点について、トークンの発行者からトークンの概要を説明するホワイトペーパーが示される例が多いが、トークンの発行者にはICOを成功させるために投資家に対して耳障りの良いことのみを伝えるインセンティブがある点には注意が必要である。ホワイトペーパーの作成は法規制に基づくものではなく、有価証券に関して、目論見書等の法定の書面では義務的な記載事項が定められているのとは異なる。投資家としては、不都合な事実が隠されていないかなど注意深く検討する必要がある。

 加えて、トークンの取引市場での取引に対しては有価証券市場における取引のような厳格な法規制は存在しないことから、インサイダー取引や相場操縦など市場の信頼を損なうような取引が行われる可能性が相対的に高い点にも留意が必要である。

7. おわりに

 ICOの歴史は始まったばかりである。ブロックチェーンという新しい技術に裏付けられた新しい資金調達手段としての期待も大きい。今後の法改正

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