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「一般財団法人」が利用可能になって10年、設立者の地位は?

大野 憲太郎

一般財団法人における設立者の地位

西村あさひ法律事務所
弁護士 大野 憲太郎

■ はじめに

大野 憲太郎(おおの・けんたろう)
 2003年東京大学法学部第3類(政治コース)卒業。2004年東京大学法学部第2類(公法コース)卒業。2006年東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻(法科大学院)修了。2008年弁護士登録。公益法人関係の案件にも多数従事。
 コーポレートガバナンス・コードの適用を受け、不透明な株の持ち合いの解消のため、財団法人を設立して自社株を割り当てる上場企業が増えている、との指摘がある[1]。財団法人とはいったいどのようなものであり、また、簡単に設立できるものなのだろうか。

 財団法人とは、一定の目的に沿って管理される財産の集合体に法人格が認められたものである。2008121日、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法人法」という。)など公益法人関連3[2]が施行され、社団法人[3]だけでなく財団法人についても容易に設立できることとなった[4]。公益法人関連3法が施行される以前においては、「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益に関する」ものでなければ財団法人とすることはできなかった[5]が、公益法人関連3法の施行により、必ずしもこれら公益活動を目的とするものでなくても、主務官庁の許認可も必要なく、財団法人を設立することができるようになった[6]。財団法人の典型例は、その所有する財産の運用益などを原資として、研究助成や奨学金付与を行う助成財団や、美術館のように、その所有する財産を直接用いて事業を行っている事業型の財団である[7]

 社団法人については、結社の自由の保障という観点からも、容易に設立できることの必要性は基礎づけられるものと考えられる[8]。これに対し、財団法人については、社団法人と比べ、基本的人権とのつながりは稀薄であり、設立を容易にすべきとの憲法上の要請は特にないものと考えられる。実際、諸外国では、社団法人の設立は広く認めるのに対し、財団法人については比較的抑制的な政策をとっているところが多いとのことである[9]。法人法は、財団法人を、公益活動を目的とするものだけに限定せず、広く利用させることを意図していると評価できる。

 201712月末日現在、一般財団法人[10]12,251法人存在し、うち公益財団法人が5,345法人である[11]2008121日から2013121日までの移行期間[12]に移行申請を行った財団法人は9,471法人であることからすると[13]、法人法に基づき新たに設立された一般財団法人もかなり多い。法人数から見れば、上記政策意図は達成できているように思われる。仮に、実際に上場企業が自社株を拠出して財団法人を設立する例が増えているのであれば、一般財団法人の数はますます増えることになろう。

 では、公益活動に限定せず広く利用されるようになった一般財団法人は、当該一般財団法人を設立した設立者の意図したとおりの活動をしているのだろうか。例えば、設立者の意図しなかった事業に手を広げたり、あるいは設立者の意図した活動を早々に取りやめたりしていないだろうか。本稿は、法的な観点から、(1)法人法は設立者にいかなる地位を付与しているか、(2)法人法は設立者の意思を尊重するためにいかなる仕組みを設けているか、について検討し、(3)一般財団法人を設立者の意図どおりに活動させるためにはどのような工夫がありうるかについて検討する。

■ 設立者の地位

(1) 設立者の役割

 「設立者」とは、財産の拠出をして一般財団法人を設立しようとする者をいう。自然人だけでなく、法人が設立者となることも可能である。また、権利能力なき社団も設立者になることが可能であり、権利能力なき社団を一般財団法人化する際に、権利能力なき社団が設立者となる例や、一般財団法人設立に先立って準備委員会を権利能力なき社団として立ち上げ、設立者とする例もある。設立者は1人でも、2人以上でもよい。

 設立者は、定款を作成し、定款に署名又は記名押印しなければならない[14](法人法1521項)。なお、法人法施行後においては、設立者の氏名又は名称及び住所は定款の絶対的記載事項であり(法人法15314号)、これらの記載を定款から削除することはできないと考えられている[15]。そのため、法人法施行後に設立された一般財団法人については、主たる事務所及び従たる事務所に備え置かれた定款をみれば[16]、設立者が誰であるかを確認することが可能である[17]。これに対し、公益法人関連3法施行前に旧民法に基づき設立された財団法人の場合、設立者の氏名又は名称及び住所は定款の絶対的記載事項ではなかったため[18]、これらの記載はないことが多く[19]、定款をみても設立者が誰であるかを確認することはできないことが多い。

 また、設立者は、定款に記載した拠出財産を給付する義務がある(法人法1571項)。さらに、一般財団法人の設立についてその任務を怠ったときは、当該一般財団法人に対して、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(法人法1661項)。加えて、設立者が、その職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う(法人法1662項)。なお、設立者は、一般財団法人が成立しなかったときは、一般財団法人の設立に関してした行為についてその責任を負い、一般財団法人の設立に関して支出した費用を負担する(法人法169条)。

 このように、一般財団法人の設立者は、設立者としての役割を果たすに当たり、一定の義務を負う。しかしながら、設立者は一般財団法人の機関として位置づけられておらず、一般財団法人の意思決定に関与する立場にもなければ、一般財団法人の各機関を監視監督する立場にもない。法人法は、設立者に対して、一般財団法人に対する何らの権限も認めていない。

 さらに、一般財団法人においては、設立者に剰余金又は残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定款の定めは効力を有さないため(法人法15332号)、設立した一般財団法人が事業に成功したとしても、そこから剰余金の分配を受けることもできないのである。

(2) 一般社団法人との対比

 一般社団法人において、定款を作成し、定款に署名又は記名押印し、設立について上記(1)で述べた一般財団法人における設立者と同様の義務を負う立場にあるのは、設立時社員である。設立時社員については、一般社団法人の構成員である「社員」としての地位が認められている。そのため、設立時社員は、一般社団法人の最高意思決定機関である社員総会の構成員として一般社団法人の意思決定に関与することができ、また、一般社団法人のために理事等の責任を追及する代表訴訟の仕組みも用意されている(法人法278条参照)[20]

 これに対して、一般財団法人では、設立者に評議員会や理事会に参加する権限はなく、また、一般財団法人のために評議員、理事等の責任を追及する代表訴訟のような仕組みもない。

 このように、一般財団法人における設立者と、一般社団法人における設立時社員は、設立において同様の役割を果たしているにもかかわらず、法人に対して与えられた権限には大きな違いがある。この違いは、一般社団法人は人の集合体に法人格を付与したものであるため、人である設立時社員はその集合体を構成する要素の一つとなるのに対し、一般財団法人は財産の集合体に法人格を付与したものであるため、人である設立者はその集合体を構成する要素になり得ないことから生じたものであると考えられる。比喩的にいえば、設立時社員は一般社団法人の設立により一般社団法人に組み込まれるが、設立者は一般財団法人の設立により一般財団法人から切り離されるのである。

 なお、公益法人制度改革を進めるに当たって行政改革担当大臣の下に参集された「公益法人制度改革に関する有識者会議」では、理事の責任について、寄附者や国民一般も広く受益者と捉え、寄附者及び国民一般に対して責任・義務を負うべきであるとの考えから、寄附者及び国民一般に代表訴訟類似の制度の訴権を認めるべきとの意見も検討されていた[21]。しかしながら、法人法では、寄附者及び国民一般に対する責任・義務に関する規定は設けられず、設立者、寄附者や国民が、一般財団法人の理事の責任を追及することができる制度も設けられなかった。

■ 設立者の意思の尊重

(1) 評議員及び評議員会の役割

 上記のとおり、法人法は、設立者に対して、一般財団法人に対する何らの権限も認めておらず、理事等に選任されない限り、一般財団法人の意思決定に関与することはできず、また、一般財団法人のために評議員、理事等の責任を追及する代表訴訟のような仕組みもない。いったん一般財団法人を設立してしまえば、一般財団法人は設立者とは別の法人格を有し、設立者のコントロール下から離れてしまう。

 法人法の立案担当者によれば、設立者の意思を一般財団法人の運営に反映する役割は評議員会が担っているとのことである。すなわち、法人法は、「設立者の意思を代替する機関」として評議員会を設置し[22]、その構成員である評議員には、「設立者の意思を尊重し、一般財団法人の目的達成のために一般財団法人のために行動すること」が求められているとのことである[23]。しかしながら、法人法には、評議員に設立者の意思を尊重する旨の義務を課した明文規定があるわけではない。法人法の規定上は、評議員は設立者に対して善管注意義務を負うのではなく、一般財団法人に対して善管注意義務を負うものであり(法人法1721項、民法644条)、立案担当者の説明も、評議員が一般財団法人に対して負う善管注意義務の内容として、解釈上、設立者の意思の尊重が導かれるというものに過ぎないと考えられる。

(2) 「設立者の意思」の特定

 また、評議員には設立者の意思を尊重する義務が認められたとしても、「設立者の意思」を特定するのは困難である。法人法上、設立者の意思が反映されていると考えられる書類は、定款のみであるが、設立者の意思を尊重することと、定款の規定を遵守することとは、同義ではあり得ない。なぜなら、法人法上、評議員会は、「目的」並びに「評議員の選任及び解任の方法」以外の規定については、定款に定款変更の手続が定められているか否かにかかわらず[24]、定款を変更する権限を有しており[25](法人法2001項)、設立者の意思を尊重することと、定款を遵守することは両立すると考えられているからである[26]。さらに、「目的」及び「評議員の選任及び解任の方法」について、評議員会の決議によって変更することができる旨の定款の定めがなくても、定款の定めを変更しなければその運営の継続が不可能又は著しく困難となるに至ったときは、裁判所の許可を得て、評議員会の決議によって変更できることとされているところ(法人法2003項)、立案担当者はこの点について、このような状況においては、「むしろ定款の変更を認めることが設立者の合理的意思にも合致する」と説明しており[27]、設立者の意思は、設立者が作成した定款の規定を変更する根拠にすらなっている。

 なお、実務上、一般財団法人設立時に、設立に至る経緯、設立の目的、設立される法人の将来像等を記載した設立者名義の「設立趣意書」が作られることが多く、このような書面がある場合には、設立者の意思を特定する手がかりになり得る。しかしながら、定款同様、「設立趣意書」を墨守することは、場合によっては設立者の意思を尊重することにならないと解釈される可能性もあり得るものと考えられる。

 では、設立者が法人であるか、又は自然人で存命中である場合、設立者が具体的な問題について意見を表明すれば、評議員は設立者の表明する意見に従わなければならないのだろうか。例えば、設立者が自然人3名であり、3名全員が理事に選任され、この3名の他に理事はいない場合に、理事会が全会一致で可決して評議員会に提案した議案はすべて設立者の意思が反映されているものとして可決しなければならないとすれば、評議員会は機能していないといわざるを得ない。法人法は、設立者を一般財団法人の機関としていない以上、「設立者の意思」を尊重するといっても、設立者が意思決定することを意味するものではない。「設立者の意思」とは、定款や「設立趣意書」等から導かれる合理的意思であり、設立者の具体的意見を指すものではないと考えられる。

■ 設立者による定款の作成

 上記のとおり、設立者は、理事等に選任されない限り、設立後の一般財団法人に直接影響力を行使することはできない。また、評議員が「設立者の意思」を尊重する役割を担っているとはいえ、設立者が評議員の行動を拘束できるものでもない。しかし、設立時には設立者が評議員、理事、監事等を選ぶのが通常であり、設立者がその意図どおりに運営してくれると考える人を人選することになるため、設立してすぐに設立者の意図どおりに運営されなくなる事態は、通常考えがたい。多くの場合、設立者の意図と現実の一般財団法人との乖離が生じてくるのは、設立してから一定の年月が経過し、評議員、理事、監事等も代替わりしてからであると考えられる。

 設立者には、設立後の一般財団法人をコントロールする権限がない一方、一般財団法人の根本規範である定款を作成する権限を有する。定款は、法人法上、設立者が作成しなければならない、一般財団法人のあり方について記載する唯一の書類である。そこで、設立者としては、一般財団法人を設立者の意図どおりに活動させるためには、定款の作成に当たっては、これから設立する一般財団法人のあり方について検討し、それにあわせて、以下の点をはじめ、定款の内容を工夫することが望ましい。なお、一般財団法人の設立時は多くの場合、特に評議員、理事、監事等の人選に手間がかかり、定款の文言まで手が回らず、内閣府や公証役場のモデル定款を利用することが多いと思われる。これらモデル定款はたいへん参考になるものであるが、設立者の意図を定款に反映するためには、ただこれらを引き写すだけではなく、個々のケースにあわせた工夫が不可欠である。

(1) 任務懈怠行為の特定

 一般財団法人の定款には、法人法に違反しない内容であれば、どのような内容の規定を設けても差し支えない(法人法154条)。そのため、設立する一般財団法人のあり方等に関する設立者の意図は、すべて定款に記載しておくことが望ましい。一般財団法人の理事には、定款の遵守義務が法定されているため(法人法197条の準用する83条)、設立者の意図を定款に記載することにより、定款に書かれた内容に反する運営を行うことは、理事の任務懈怠行為となることが明白となる。

 しかし、上記のとおり、「目的」並びに「評議員の選任及び解任の方法」以外の規定については、法人法上、定款変更が認められている[28](法人法2001項)。そのため、設立者が一般財団法人のあり方について特別な規定を設けたとしても、将来、当該規定が変更される可能性は否定できない。とはいえ、定款を変更するには、評議員会において、議決に加わることができる評議員の3分の2以上に当たる多数をもって決議しなければならず、さらに、定款の規定により決議要件を加重することが可能であり(法人法18923号)、定款変更を手続上困難にすることは可能である。

 特に「目的」規定については、具体的かつ限定的に規定したうえで、定款変更できる旨の規定を設けないことにより、設立する一般財団法人が設立者の意図しない事業に手を広げることを防止できる。ただし、この結果、目的を変更できるのは、設立当時予見できなかった特別の事情により、目的を変更しなければ運営の継続が不可能又は著しく困難となるに至ったときのみとなり、かつ、裁判所の許可が必要となる。そのため、事業拡大に関する柔軟性は失われ、時代に合わせて事業内容を修正していくことが難しくなってしまう。「目的」規定をどの程度柔軟に規定するか、また、目的規定についての定款変更を可能とする旨の規定を設けるか否かについては、一般財団法人を設立する意図、想定する事業内容等に応じて、いずれが適切かについて十分検討すべきである。

(2) 行政庁の監督

 設立する一般財団法人が、公益目的事業を行うことを主たる目的とするものである場合には、設立者の意図どおりの活動を継続しているかどうかにつき、実効的な監督を受ける手段として、公益認定を受け、公益財団法人となることも考えられる。公益財団法人になれば、内閣総理大臣又は都道府県知事の監督を受けることになるため、公益財団法人の運営が適正とはいえない場合には指導がなされ、状況によっては必要な措置をとるべき旨の勧告を出すこともあり得る(公益認定法281項)。

 しかしながら、内閣総理大臣又は都道府県知事の監督は、事業の適正な運営を確保するために行われるものであり(公益認定法271項)、設立者の意図どおりの活動を継続しているかどうかを直接監督するものではない。そのため、設立者が監督したいと考える点と、内閣総理大臣又は都道府県知事による監督の対象とが重なるものかどうかにつき、十分検討すべきである。

 また、公益財団法人になるには、公益認定法5条各号に定める要件を充足する必要がある等、認定を受けるための負担も大きいため、内閣総理大臣又は都道府県知事による監督が有効であったとしても、設立する一般財団法人が事業を運営するに当たって、公益認定を受けることが有益といえるかどうかについては、十分検討すべきである。公益認定が有益と判断される場合には、公益認定を受けることを視野に入れた定款作成が必要である。

 なお、一般財団法人の設立と同時に公益認定を受けることは、法令上可能と考えられるものの[29]、実務上、公益認定に際しては、1年から数年程度の実績を踏まえて判断されるケースも多いといわれており、その

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