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租税回避地バミューダの入国審査で緊張のやりとり

吉田 美智子

 2017年5月、激動の欧州の現場から、突然の帰国命令を受けて、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)のパラダイス文書取材班に放り込まれた。北アメリカ大陸の東の大西洋にある英領バミューダ諸島やカリブ海の同ケイマン諸島などのタックスヘイブン(租税回避地)に設立された法人や組合に関する1340万件、1.4テラバイトに上る電子ファイル群「パラダイス文書」は、その前年に世界に衝撃を与えた「パナマ文書」と同様、南ドイツ新聞(独ミュンヘン)が入手し、ICIJがデータベース化し、朝日新聞など世界各国の報道機関が共有して、分析と取材に取り組んでいた。それに参画することになったのだ。報道開始予定日の1カ月前にあたる2017年10月8日夜、私は大西洋に浮かぶ英領バミューダ諸島に到着しようとしていた。パラダイス文書の流出元の法律事務所「アップルビー」への直撃取材は翌々日に迫っていた。

■バミューダとは

バミューダの最大都市ハミルトンの街並み=2017年10月9日、吉田美智子撮影
 バミューダは、法人税や所得税、配当税などがかからず、タックスヘイブン(租税回避地)といわれる。その歴史は古い。1960年代から英国の富裕層などが相続税逃れの信託を設立。規制が厳しくなると、米企業がグループ内の会社の財産などを対象にした自家保険会社をつくり、利益を留保するようになった。資源もなく、狭い大西洋の島が、欧州と米国の「中間点」という立地を生かし、金融や保険業は雇用を生む一大産業を発展させた。

 138の島からなるバミューダ諸島の総面積は、東京都足立区とほぼ同じ53平方キロメートル。主要都市ハミルトンの1平方キロ四方の街に、何万というペーパーカンパニーが登記され、書類の上に存在している。そのうちの相当数が本国の利益の移転を受けて、本国の多国籍企業は租税回避の恩恵に浴しているとみられる。

 国際的な非政府組織の「オックスファム」は2012年、バミューダに流れた利益は米企業だけで800億ドル(当時の為替レートで6兆4千億円)にのぼるとの試算を発表。2016年には、バミューダを「世界最悪」のタックスヘイブンの一つと認定した。

 東京を出発してニューヨークで飛行機を乗り継ぎ、私がバミューダに来るのに22時間かかった。ほぼ一日がかりの移動で身体は疲れ切っているのに、頭は妙にさえている。飛行機の窓の外はもう真っ暗。「大西洋一美しい」とされるコバルトブルーの海もみえない。航空機や船舶が相次いで消息を絶つ「バミューダ・トライアングル」は「魔の海域」として知られる。ここに世界中から富が流れ込み、消えていくイメージが浮かぶ。

■緊張の入国

バミューダの正装をした空港職員の男性=2017年10月11日、バミューダ国際空港、吉田美智子撮影
 私たちはその何カ月も前か
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