2018年08月15日
「ようこそパラダイスへ」
観光客のアテンドをしていたタクシー運転手は、私の方に向かって、満面の笑みで両手を広げた。
所得税や法人税などがほとんどかからないタックスヘイブンは、高額の税金に悩む企業や人からすれば「パラダイス」のように見えるかもしれない。そこに暮らす人たちの生活に関心を持ち始めたのは、日本からインターネットの旅行サイト「エクスペディア」で滞在先のホテルを探した時だった。
最大都市ハミルトンのホテルは、数千人という人口規模に比べると多い。ビーチを訪れる観光客や出張者が多いためだと思われる。一方で、宿泊料は「田舎の島」にしては異様に高い。個人経営の小さなゲストハウスでも日本円にして3万円以上だった。こんなところで、普通の人たちはタックスヘイブンの恩恵を享受できているのだろうか。
私のバミューダ滞在は、10月8日夜の到着後、11日早朝に発つまでの間の正味2日間だけ。限られた時間だが、観光がてら取材してみることにした。
9日朝、私は同僚の野上英文記者とゲストハウスで待ち合わせて、金融街に向かった。ちなみに、野上記者の滞在したホテルは一泊7万円を超える。カラフルな建物が並ぶ港を内陸に少し入ると、アップルビーがある金融街にたどり着く。目抜き通りに面したアップルビーの事務所は、ガラス張り4階建てのモダンな建物。周囲には、ほかの法律事務所や会計事務所、金融庁や司法省など官公庁がある。ルクセンブルクでも「ルクスリークス」の情報流出元の会計事務所の方が、当局の建物よりも立派だった。
街を行き交うのは、カラフルなワイシャツにネクタイ姿の男性やスーツを着た女性たち。男性はバミューダの正装でもある膝丈の「バミューダパンツ」をはいている。心なしか、白人が多く目につく。
野上記者は大きなデジタルカメラを抱えて、海水浴客たちを撮影している。
ビーチパラソルの下で涼む一組の夫婦に声をかけた。ニューヨーク出身のケイティさん(73)は、バミューダに来るのはもう4回目。今回は2泊する予定で、「食べ物がおいしく、人も親切、景色もきれいで、世界一の観光地じゃないかしら」という。
米ペンシルバニア州から来た小学校教諭ブレンドさん(33)は、結婚1周年のお祝いに、妻をバミューダに連れて来た。「以前も来たことがあるけど、海はきれいだし、気候もいい。妻への最高のプレゼントだろう?」
しばらくして、砂浜の片隅にビーチパラソルを貸し出す小さな売店があるのに気づいた。若い女性が接客している。女性の肌は浅黒く、地元の人のようだ。同僚とみられる若い男性たちもみな肌の色は浅黒い。
私は女性に近づいた。
「日本から来たジャーナリストです。話を聞かせてもらえませんか」
ペトリスさんは「公務員になりたいけど、人気がある職業だから、とても難しいの」と訴えた。
その後、私と野上記者はタクシーで、ホースシューベイ・ビーチから飲食店や映画館が集まるバミューダ諸島西部アイルランド島のドックヤードに移動した。タクシー運転手デニスさん(43)も「カレッジを出た後、調理師、郵便局員とか色々やったよ。知人の紹介でタクシー運転手になったけど、ガソリン代も高いし、生活は大変だよ」と話した。デニスさんも白人ではない。
もう一つ気づいたことがあった。バミューダは小さな湾が
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