国際ビジネスでの賄賂の処罰
国別の厳しさランキング
輸出大国の多くが、外国公務員贈賄をあまり処罰していない
トランスペアレンシー・ジャパン 理事長
若林 亜紀

若林 亜紀(わかばやし・あき)
1965年神奈川県生まれ。1988年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、株式会社長谷工コーポレーションを経て1991年に労働省の外郭団体である研究所(現労働政策研究・研修機構)に入所。2003年に著書「ホージンノススメ-特殊法人職員の優雅で怠惰な生活日誌」を出し、ジャーナリストに転じる。2014年から腐敗と闘う国際NGO、トランスペアレンシー・インターナショナル(本部ドイツ)の日本支部であるトランスペアレンシー・ジャパン理事長。
今年に入り、日本企業の海外贈賄が相次いで発覚したが、日米の処罰が対照的な結果となった。
5月、パナソニックの米国子会社で航空機内エンタテイメントシステム世界最大手のパナソニック・アビオニクスが中東の国営航空会社の職員に賄賂を贈ったとしてアメリカ証券取引委員会と米司法省の捜査を受け、約305億円(約2億8千万ドル)の制裁金を支払うことで決着した。7月には大手発電機メーカーの三菱日立パワーシステムズがタイの公務員らに3900万円相当の賄賂を払ったとして検察の捜査に協力、わが国初の司法取引に至った。
先進国には、「国際商取引において、営業上の不正な利益を得るために、外国公務員に賄賂を贈ることは、お互いに止めよう」という国際条約がある。OECD外国公務員贈賄防止条約という。1997年にOECD (経済協力開発機構)で採択された。この条約は先進国クラブであるOECD加盟国以外にも開放され、ロシア、ブラジルなど新興大国も締結している。もちろん日本も締結しており、1998年に不正競争防止法を改正して、その趣旨の条文を盛り込んだ。
腐敗のない社会の実現を目指す国際NGO、トランスペアレンシー・インターナショナル(略称TI, 本部ドイツ)は、この条約の各国の履行状況を監視(モニター)している。「法あれども罰せられず」では意味がないからである。実際に法あれども運用されずの国は少なくない。日本もその一つである。
TIは、条約締結国が条約違反の疑いのある事件を捜査したり処罰したりした件数を、報道や公開情報などから調べて一覧にし、「腐敗輸出報告書(Exporting Corruption, Progress Report 2018)」としてこの9月に発表した。先進国が外国、とりわけ発展途上国の公務員に賄賂を贈ることは、先進国から途上国への腐敗の拡散になると考えるからである。
調査対象は、2017年時点の条約締結国43カ国中40カ国と、非締結だが、やはり外国公務員贈賄を禁止する法律のある中国、香港、インド、シンガポールだ。
計44の国と地域の中で、捜査当局が「積極的な執行」を行っているのはアメリカ、ドイツ、英国、イタリア、スイス、イスラエル、ノルウェーの7カ国である。
「適切な執行」を行っている国は、オーストラリア、ブラジル、ポルトガル及びスウェーデンの4カ国である。
「限定的な執行」を行っているのはフランス、オランダ、カナダ、オーストリア、ハンガリー、南アフリカ、チリ、ギリシャ、アルゼンチン、ニュージーランド、リトアニアの11カ国である。
日本は「ほとんど、もしくは全く執行なし」という最低ランクに位置づけられている。中国、韓国、香港、シンガポール、インド、スペイン、メキシコ、ロシア、ベルギー、トルコ、アイルランド、ポーランド、デンマーク、チェコ、ルクセンブルク、スロバキア、フィンランド、コロンビア、スロベニア、ブルガリア、エストニアも同様である。
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主要国における外国公務員贈賄事件の捜査件数の推移 |
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捜査に着手した件数 |
罰金等の制裁つきで終結した件数 |
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2014 |
2015 |
2016 |
2017 |
2014 |
2015 |
2016 |
2017 |
|
アメリカ |
17 |
3 |
8 |
4 |
24 |
15 |
40 |
19 |
|
ドイツ |
11 |
13 |
8 |
8 |
13 |
14 |
10 |
12 |
積極的 |
英国 |
6 |
3 |
8 |
19 |
3 |
1 |
3 |
4 |
|
イタリア |
3 |
3 |
11 |
10 |
2 |
1 |
2 |
1 |
|
スイス |
27 |
61 |
27 |
/ |
5 |
0 |
3 |
3 |
適切
|
オーストラリア |
4 |
4 |
7 |
4 |
0 |
0 |
0 |
1 |
|
ブラジル |
2 |
3 |
2 |
2 |
0 |
0 |
1 |
0 |
|
フランス |
16 |
8 |
8 |
8 |
0 |
0 |
1
|
1 |
|
オランダ |
0 |
1 |
3 |
3 |
1 |
0 |
2 |
1 |
限定的 |
カナダ |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0
|
0 |
1 |
|
南アフリカ |
15 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
チリ |
0 |
2 |
2 |
7 |
0 |
1 |
0 |
0 |
|
ニュージーランド |
1 |
3 |
2 |
2 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
日本 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
|
中国 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
韓国 |
0 |
0 |
0 |
1 |
5 |
0 |
1 |
0 |
|
香港 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
消極的 |
シンガポール |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
|
インド |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
スペイン |
2 |
2 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
1 |
|
メキシコ |
1 |
2 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
ロシア |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
ベルギー |
1 |
0 |
1 |
4 |
0 |
1 |
1 |
0 |
|
トルコ |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
資料出所:Exporting Corrution, Progress Report 2018: assessing enforcement of the OECD Anti-Bribery Convention |
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注: 本表は上記の報告書にある44カ国のデータからJETRO「日本の貿易動向」より対日交易の多い22カ国を選んで作成した |
日本では、2015年に
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