金沢大学病院「同意なき臨床試験」(11)
2019年02月15日
判決は、一審金沢地裁判決と同じく、Kさんが北陸GOGクリニカルトライアルに症例登録されていたことは事実と認定した。そのうえで、同トライアルには「症例登録された進行期Ⅱ以上の卵巣がんの患者に対するCAP療法又はCP療法による化学療法において、シスプラチンの1回の投与量を90mg/㎡とし、これを4週間サイクルで行うことを通じて、シスプラチンの高用量投与法の効用を検討するという実験的ないしは試験的側面」があるから、「Kに対し、本件クリニカルトライアルの目的、本件プロトコールの概要、本件クリニカルトライアルに登録されることがKに対する治療に与える影響等について説明し、その同意を得る義務があった」として医師の説明義務違反を認め、国立大学法人金沢大学(2004年4月の国立大学法人化に伴い国から承継)に72万円の損害賠償を命じた。しかし、165万円の損害賠償を命じた金沢地裁判決に比べ賠償額は大きく減額された。なぜ、こうなったのか。
北陸GOGクリニカルトライアルの性格、目的について、金沢地裁は「臨床試験」であるとははっきり認めていなかったものの、①療法の選択を無作為割り付けに委ね、薬剤の投与方法をプロトコールに従うのは、患者のために最善を尽くすという本来の目的以外に、本件クリニカルトライアルを成功させ、卵巣がん治療の確立に寄与するという他事目的が考慮されていることになるから、クリニカルトライアルに症例登録されることについて説明し、同意を得る義務があった、②腎機能の低下が認められたのであるからシスプラチンを減量すべきであった――と判断した。
これに対し名古屋高裁金沢支部は、北陸GOGクリニカルトライアルの性格、目的について、「卵巣がん患者に対するCAP療法又はCP療法による化学療法を行うこと、すなわち、治療を主たる目的としたもの」と認定。そして、「新薬や治療法の有効性や安全性の評価を第1目的として、人を用いて、意図的に開始される科学的実験」という意味での「比較臨床試験」とはいえない、として原告側の主張を退けた。
「いずれも公的医療保険が認められた療法による比較研究(調査)であり、臨床試験ではない」という被告側の主張に理解を示した結果であり、名古屋高裁金沢支部の裁判官たちが医師の説明義務違反を認めたのは、北陸GOGクリニカルトライアルの「シスプラチンの高用量投与法の効用を検討するという実験的ないしは試験的側面」という、「副次的な目的」に着目したからにすぎない。
その論理は次のようなものだった。
卵巣がんに対するCAP療法とCP療法はいずれも標準的な治療法として確立され、有意な差異がないものとされていたから、北陸GOGクリニカルトライアルはいずれがより適切な治療法であるかの比較研究が目的とされていたものの、そのこと自体には試験的ないし実験的意味合いはほとんどなかった。ただし、CAP療法とCP療法におけるシスプラチンに関して、少なくとも我が国においては医学的に確立された標準投与量があったわけではなく、特にCAP療法又はCP療法におけるシスプラチンの1回の投与量を90mg/㎡として4週間サイクルで投与するという投与法は、金沢大学病院を除く北陸地区の医療機関において実施されていたシスプラチンの投与量と比べて高用量であったのみならず、全国的に見ても、1回の投与量としては相当に高用量の投与法であったので、実験的、試験的な側面があることを否定できない――。
その一方で名古屋高裁金沢支部は、「KにCP療法が行われた平成10年1月当時において、進行期Ⅱ以上の卵巣がんの患者に対する化学療法としてのCAP療法又はCP療法におけるシスプラチン投与法(投与量、サイクル)に関しては、我が国において医学的に確立された標準的投与量があったわけではないのであるから、投与すべき用量・用法に関する投与法が、シスプラチンの添付文書上の用量・用法の範囲内にある限り、医師の合理的な裁量に委ねられていたというべきであり、本件クリニカルトライアルの有する上記のような実験的ないし試験的な側面といっても、上記合理的な裁量の範囲内におけるものということができる」との判断を示した。
また、化学療法を開始した当時のKさんの腎機能はシスプラチンを減量しなければならないほど低下していなかったとする被告側の主張を採用。「少なくとも本件プロトコールの減量基準にしたがって25%を減量するのが適当であった」とする金沢地裁判決を覆した。
北陸GOGクリニカルトライアルとノイトロジン特別調査は不可分一体の一つの臨床試験であるとの原告側の主張については、被告側が控訴審になって提出した受託研究中止届に記載されていた「平成9年3月31日」をもってノイトロジン特別調査が中止されており、Kさんが症例登録された「平成10年1月当時」には調査が行われていなかった、と認定して退けた。
抗がん剤の投与量が高用量であることに着目してクリニカルトライアルの「実験的、試験的側面」を認め、「本件クリニカルトライアルの目的、本件プロトコールの概要、本件クリニカルトライアルに登録されることがKに対する治療に与える影響等について説明し、その同意を得る義務があった」としながら、その一方で、「主目的は治療」であり、抗がん剤の投与量まで患者に説明する必要はなかった、と医師の裁量を認めた名古屋高裁金沢支部の判決は、原告側からすれば地裁判決からの大幅な後退を意味した。
原告側は判決を不服として、2005年4月27日、最高裁に上告した。
同年7月6日付の上告受理申立理由書では、控訴審判決に
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