メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「マンションは管理を買え」を弁護士の目で見てみた

石橋 源也

「マンションは管理を買え」を弁護士の目で見てみた

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
石橋 源也

石橋 源也(いしばし・もとや)
 2002年3月、慶應義塾大学法学部卒。2005年10月、司法修習(58期)を経て東京弁護士会に登録。日本弁護士連合会弁護士業務総合推進センター幹事(2007~08年)、同法的サービス企画推進センター幹事(2008~09)年、同高齢社会対策本部委員(2009~11年)。2010年より慶応義塾大学法学部非常勤講師。2014年9月、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2015年1月、同事務所パートナー就任。

 ■はじめに

 「マンションは管理を買え」というフレーズをご存じだろうか。

 中古分譲マンション(以下、単に「マンション」という。)の購入を検討した経験のある方であれば耳にされた方も多いと思う。「マンションの資産価値は、そのマンションの管理や修繕の状況に大きく影響される。だから、『良好な管理』がされているマンションを買うのが良い。」といった趣旨でよく説明されているフレーズである。

 弁護士という仕事をしていると、友人をはじめ、日々様々な人から相談を受けるものであるが、時折、「マンションを購入しようと思っていて、『管理を買え』と聞いたんだけど、どこを見たら良いか教えてもらえる?」といったことを聞かれる。

 筆者は、投資用不動産の調査をはじめ、不動産に関する案件を広く取り扱っていると自己紹介をしているので、その流れで聞かれるものだから、何か「専門家的なコメント」をしなければさすがに気まずい。

 今回は、そんなときに筆者が答える、弁護士の視点からマンションの管理の状況を確認するポイントについて、少し紹介させていただく。

 なお、当然であるが、筆者は不動産業者でも建築設計に携わる士業でもないので、不動産の立地や利便性、構造や意匠といった、不動産のいわゆる「スペック」に関するところは筆者のコメントの対象ではない。あくまで、そういった「スペック」について「気に入った」ものがある方が、スペック以外の要素として「管理」を確認する際の視点について、筆者の個人的な見解をご紹介させていただくものであることを、あらかじめお断りさせていただく。

 ■まずはマンションのルールを見る

 弁護士といえば法律・ルールの専門家である。だからというわけではないが、まずはマンションの「ルール」をちゃんと見たかを尋ねるようにしている。

 近時の典型的なマンションでは、管理規約やその細則といった形でルールが設けられていることが多い。管理規約というのは、マンションの自治規範であり、いわばマンションの憲法・法律のようなものである。管理規約やその細則で変なルールが定められていると、購入した後に想定外の負担が生じることがあり得る。弁護士としては、これらを確認し、「権利が変に制限されていないか、変な負担を負うことにならないか」をチェックするのである。

 憲法・法律のようなもの、というイメージに違わず、管理規約は、専門用語も多くてとにかく難解である。何が「変なルール」なのか判断するポイントも、残念なことに素人に一言で伝えきれるようなものでもない。したがって、その全体をチェックするのはなかなかに難しいのであるが、日常的なマンションの利用に関するルールが定められている部分は、駐車場や駐輪場の利用上のルール等の身近なものばかりであるので、専門家でなくとも、日常生活に困るルールの有無くらいはなんとか確認できる(あくまで能力的に可能であるというだけで、分厚い管理規約やその細則を読むことを挫折しないかどうかは別の問題である。)。

 ■次に、管理の仕組みを見る

 次に尋ねるのは、管理の仕組みを確認しているかである。通常、管理の仕組みは先述の管理規約に定められているので、実は、ルールを見ることと管理の仕組みを見ることは、どちらも管理規約を見るということになる。なお、近時の典型的なマンションは、次のような組織になっている。

 まず、①マンションの各部屋の所有者(法律上「区分所有者」と呼ばれる。)によって「管理組合」という組合が組織される。次に、②区分所有者の中から管理組合の役員が選ばれる(理事や監事と呼ばれる役職を設けることが多い。)。さらに、③理事の中から「理事長」等の役職者が選ばれる(一定の権限が付与されることが多い。)。その上で、④マンションの管理に関することの多くは、役員により構成される会議体(理事会と呼ばれることが多い。)が決め、重要なことは区分所有者が集まる集会(総会)で決めるといった形で段階的な会議体が設けられる。また、⑤マンションの清掃をはじめとした日常の管理については、「管理会社」と呼ばれる業者に委託される。⑥専門知識ある住民や専門家の援助を受けるための制度(専門委員会等)を設けている場合もある。

 見る点は、大きく分けると2点あると思っている。

 1点目は、管理の仕組みがマンションの規模等に合致している合理的なものかどうかである。

 大型のマンションにもかかわらず役員の数が変に少なかったり、小規模マンションにもかかわらず多数の専門委員会があったり、不合理と思われる管理の仕組みがある場合には、適切な管理を行う仕組みが整っていない可能性があるので、注意が必要である。

 2点目は、自分が住民となった場合の管理の負担の程度である。

 一般に、マンションの役員(特に役職者)は、マンションで生じる各種のトラブルに対応したり、管理のために必要な手配を行ったりで、相応に負担が重い立場である。もちろん、マンションの管理に熱意をもって取り組める人にとっては役員を続けることは苦にならないと思うが、役員を務めるとすれば休日の時間を相応に使うことが必要になるので、負担感を覚える人の方がどちらかと言えば多いのではないかと思う。多くのマンションにおいて、役員は事実上住民の間で持ち回ることとなっているから、役員がどうやって選ばれるシステムになっているのか(よりストレートに言えば、どれくらいの頻度で回ってくるのか)は、管理の負担の程度を判断する上で、非常に重要なポイントになってくるのである。

 ■その後、管理の状況を見る

 では、マンションのルールが合理的で、管理の仕組みも問題ないとしたときに、それで「良好な管理」がなされていると言えるだろうか。もちろん、答えはNoである。ルールや仕組みは、良好な管理をするための、あくまで「前提」であって、具体的に実施されている管理の内容を示すものではない。「良好な管理」がなされているマンションかどうかは、実際に行われている管理を見なければ分からないので、これらの事項を確認していたとしても、管理の状況をしっかりと見ていないのであれば、「良好な管理」がなされているマンションかどうかは分からない。

 見る点は、大きく分けると3点あると思っている。

 1点目は、マンションの清掃は行き届いているか、管理人が巡回や駐留等を適切にしているか、修繕は適切になされているか、掲示板や住民サイト等で広報が適切になされているか、質の高い管理会社が起用されているか、住民と管理人や管理会社のスタッフの仲は良好か等、マンションの建物に入って見える状況を見ることである。

 2点目は、管理組合の運営は適切になされているか、理事会や集会(総会)等の会議体は適切に運営されているか、住民間で紛争が生じていないか等を見ることである。

 3点目は、管理組合の財務状態は健全か、将来の修繕のための積立金は十分か、管理組合の積立金等の資産について流用・着服等の不正が行われていないか等を見ることである。

 これらを確認できれば、管理の状況が良いものかどうか、ある程度判断ができることになる。

 ■おわりに

 以上、筆者なりの、弁護士の視点からマンションの管理の状況を確認するポイントについて紹介させていただいた訳であるが、最後に述べた「管理の状況を見る」というのは、実は非常に難しい。

 現地に何度も足を運ばなければ、マンションの建物の状況は分からないし、運営の適切性等は、そもそも外部に見えづらい事項である上、マンションの売主(現オーナー)が資料や情報を持っていないことも多く、マンションの売買交渉中に十分に判明しない場合も多い。

 さらに、積立金の金額の十分性等については、管理組合の財務諸表(BS・PL)や、預金の残高証明書等の決算関連の資料を見て判断することになるのが通常であるが、積立金の金額の十分性や、不正の有無等は、専門的な知識がないとそもそも理解すること、見抜くことが非常に難しい問題である。

 そのため、素人がこれらを適切に見抜き管理の善し悪しを評価するというのは困難なのであるが、それでも、明らかに管理の状況が良くないように見えるマンションというのは存在する。

 筆者としては、「マンションは管理を買え」というフレーズは、そのような管理の状況が良くないように見えるマンションについて、そのようなマンションはリスクが大きいから避けるべしということを述べるところに本質があり、積極的に「管理が良い」と信じられるマンションを選ぶものではないと思うのであるが、そのように考えるのは、リスク回避のためのいわゆる「予防法務」を多く取り扱い、日夜リスク回避の手法ばかり考えている筆者の職業病なのかもしれない。