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完全バーチャル型株主総会をドイツが急きょ解禁 コロナウイルス対策で

石川 智也

ドイツでの新型コロナウィルス感染症の拡大に伴う
バーチャルオンリー型(完全バーチャル型)株主総会の利用解禁

弁護士・NY州弁護士
石川 智也

石川 智也(いしかわ・のりや)
 2006年弁護士登録。2005年東京大学法学部卒業。2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2016年ミュンヘン知的財産法センター卒業(LL.M.)。Noerr法律事務所ミュンヘンオフィスに出向、2017年ニューヨーク州弁護士登録。
 日本経済新聞社による「2019年に活躍した弁護士ランキング」の「データ関連分野」で、総合ランキング1位(企業票+弁護士票)。
 新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、株主が株主総会の会場に出向くことなくオンラインで遠隔地から参加できるバーチャル株主総会への関心が高まっている。我が国においても、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加・出席することができる「ハイブリッド型バーチャル株主総会」は会社法上適法に実施可能であり、2020年2月26日には、経済産業省が「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を公表したところである。3月総会においては、ソフトウェア開発を手がける富士ソフト株式会社(東証1部上場)がハイブリッド型バーチャル株主総会を実施し(3月13日開催。議決権行使に必要なiPadの保有がバーチャル出席の要件)、注目を集めたところである。

 我が国よりも新型コロナウィルス感染症の拡大が深刻なドイツでは、時限措置として、2020年に開催される株主総会に限り(但し、新型コロナウィルス感染症の影響を理由に必要と認めるときは政令で2021年末まで延長可能)リアル株主総会を不要とする、いわゆる「バーチャルオンリー型(完全バーチャル型)」の株主総会の実施を認める内容を含む、新型コロナウィルス感染症への対応立法が施行された。この対応立法(以下「新型コロナ対応法」という)は、2020年3月20日に法案が公表された後、25日に連邦議会(Bundestag)で、27日に連邦参議会(Bundesrat)で、それぞれ承認されて成立し、翌28日には施行されるという電光石火の立法プロセスを辿っている。

 この新型コロナ対応法は、賃貸借契約の解除制限、倒産手続、刑事手続など様々な分野をカバーするものであるが、本稿ではバーチャルオンリー型(完全バーチャル型)の株主総会の導入と株主総会に関する規制緩和の内容について概説する。

1 バーチャルオンリー型(完全バーチャル型)の株主総会の導入

 新型コロナ対応法の下で、ドイツの株式会社(Aktiengesellschaft)、株式・合資会社(Kommanditgesellschaft auf Aktien)及びいわゆる欧州会社(Europäische Gesellschaften(Societates Europaeae))においては、取締役会決議により、株主又はその代理人が物理的に参加しないバーチャルオンリー型(完全バーチャル型)の株主総会を開催することができるようになった。この株主総会において、取締役は物理的に株主総会に参加する必要がある(映像又は音声を通じて遠隔で参加することができない)が、監査役会の構成員については映像又は音声を通じて遠隔で参加することができる。

 このようなバーチャルオンリー型(完全バーチャル型)の株主総会の開催に当たっては、以下の条件を満たす必要があるものとされている。

  1. 株主総会全体について映像と音声の配信がなされること
  2. 株主がオンラインで投票できること(事前投票又はオンラインでの参加が認められること)
  3. 株主にオンラインのコミュニケーションにより質問する機会が与えられること
  4. 株主総会に物理的に参加しなくても、株主総会決議に異議を唱えるために必要な手段が与えられること

 上記3.の総会における質問については、取締役会は、自身の裁量で、どの質問にどのように回答するかを決定することができるとされている。また、取締役会は総会の2日前までにオンラインで質問を提出するよう定めることができるとされている。

 また、上記4.の決議の争い方については、手続違反や取締役会の質問への回答の裁量違反を理由に株主総会決議の適法性を争うことができるのは、原則として手続違反が意図的に行われたことが証明された場合であるとされている。

 なお、ドイツでは、従前、バーチャルオンリー型(完全バーチャル型)株主総会については、議論がなされてはきたものの、株主が物理的に株主総会に参加する権利が重要であるとして認められてこなかったが、ハイブリッド型バーチャル株主総会については定款に規定することを条件に認められてきた。もっとも、ハイブリッド型バーチャル株主総会は技術的に運営が容易でなく、また、技術的な瑕疵に基づいて株主総会の有効性が争われ得るという懸念を理由にほとんど利用されてこなかったといわれる。新型コロナ対応法では、取締役会は、定款に規定されていない場合であっても、ハイブリッド型バーチャル株主総会を開催することができるものとされている。また、法的不安定性との関係でも、上記のとおり、株主総会決議の適法性を争うことができる場合が一部制限されたことによって、利用が進む可能性はあるように思われる。

 その他、バーチャル株主総会については、一部の議決権行使助言機関において否定的なガイドラインを有するところもあったが、新型コロナウィルス感染症が拡大する現状を前提としたときには、必ずしも従前のような対応に終始するわけではないのではないかとも期待される。

2 株主総会の招集や開催のタイミング

 株主総会の開催に当たっては、ドイツの会社法(株式会社については、正確には1965年株式法。以下、便宜上単に「会社法」という)上、36日前までに株主総会を招集する必要があるが、新型コロナ対応法により、株主総会実施に向けたフレキシビリティを高めるため、招集通知期間が短縮され、21日前までに招集することが認められている。

 また、会社法上、株主総会は、翌事業年度の8か月目までに開催することが求められているが、新型コロナウィルス感染症への対応のために必要な場合であることを条件として、翌事業年度の12か月目までに開催することが認められている。例えば、1月から12月までの1年間を事業年度としているドイツの多くの会社は、通常であれば翌年の8月末までに株主総会を開催することが求められるが、新型コロナウィルス感染症への対応のために必要な場合には、翌年の12月末までに株主総会を開催すれば良いことになる。但し、欧州会社についてはこの規制緩和は認められておらず、引き続きEU会社法に従って6か月以内に株主総会を招集することが求められている。

 実際、この新型コロナ対応法の成立前後を通じて、ドイツテレコム、ダイムラー、フォルクスワーゲン、BASF、メルクなど、多くのドイツ企業が当初3月~5月に開催を予定していた株主総会を延期する旨を公表している。

3 配当に関する特則

 ドイツの株式会社が配当を行うためには、株主総会の決議に基づいて行うか、定時株主総会の前に、定款の規定に基づき、終了した事業年度の暫定的な純利益に基づいて行う必要がある。この点、新型コロナ対応法により、定款に規定がなくても後者の方法に基づいて配当を行うことができるようになったため、定款に規定がない会社であっても、株主総会を延期する一方で、株主総会の前に配当を行うことができることになった。

4 その他

 手続的な要件としては、上記1乃至3に規定した取締役会の決定は、何れも監査役会(Aufsuchtsrat)の同意が必要であるとされている。

 また、これらの規制緩和は、時限措置として2020年に開催される株主総会に限り適用される。但し、新型コロナウィルス感染症の影響を理由に必要と認めるときは政令で2021年末まで延長可能とされている。

5 終わりに

 世界の先進国を見

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