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臨床試験めぐる不祥事相次ぐ金沢大学、取材も拒否

金沢大学病院「倫理指針逸脱の先進医療」(9)

出河 雅彦

 より有効な病気の治療法を開発するために人の体を使って行う臨床研究は被験者の保護とデータの信頼性確保が欠かせないが、日本では近年明らかになったディオバン事件にみられるように、臨床研究をめぐる不祥事が絶えない。この連載の第2部では、患者の人権軽視が問題になった具体的な事例を検証する。その第3弾として取り上げるのは、金沢大学病院で行われた臨床試験が厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に違反していた問題である。この臨床試験は、抗がん剤の効果を増強させるためのカフェインを併用した化学療法を、骨軟部腫瘍の患者に試すもので、薬事法上未承認だったり、適応が限られていたりする医薬品や医療機器の使用に伴う診察、検査、入院、併用薬剤などの費用を公的医療保険で賄うことを認める「先進医療」の対象になっていた。「同意なき臨床試験訴訟」の終結から8年後、ずさんな臨床試験によって再び問題を起こした金沢大学病院の責任を問う声は強く、厚生労働省はカフェイン併用化学療法を先進医療から削除した。この問題は、臨床試験の管理に対する金沢大学の意識の低さだけでなく、薬や医療機器の製造販売承認を得るために行う臨床試験(治験)だけを法的に管理し、それ以外の臨床試験に対しては強制力のない行政指針で対応してきた厚生労働省の政策の矛盾をも露呈させた。最終回である第9回の本稿では、臨床試験をめぐる不祥事を繰り返してきた金沢大学の体質について考えてみたい。

金沢大学病院
 金沢大学はカフェイン併用化学療法の臨床試験が厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に違反したことや先進医療のルールから逸脱していたことを2014年4月に公表した。その直後に外部委員も含めて設置した「金沢大学附属病院カフェイン併用化学療法に関する調査委員会」(以下、カフェイン併用化学療法調査委員会)は倫理指針違反の原因について詳細な報告書をまとめ、再発防止策も提言した。カフェイン併用化学療法は同年10月に先進医療から削除され、金沢大学病院は先進医療の実施に伴って受け取っていた保険外併用療養費の一部返還にも応じた。大学関係者は厚生労働省の先進医療会議などで「反省」の言葉を口にした。

 しかし、カフェイン併用化学療法が実施されていた2010年3月に発生した抗がん剤の副作用死については、厚生労働省に報告しなかっただけでなく、死亡に至る診療経過を検証していない。公表された調査報告書や新聞報道からは、金沢大学とカフェイン併用化学療法調査委員会の対応に以下のように多くの疑問が浮かぶ。

  • 2014年4月の記者会見で治療と死亡の因果関係を否定した根拠と理由は何か?
  • カフェイン併用化学療法調査委員会はなぜ死亡事例を検証しなかったのか?
  • カフェイン併用化学療法調査委員会の赤座英之委員長が中間報告発表の記者会見で、死亡事例について「独立した第三者委員会を設け、治療との因果関係を再度調べるべきと述べた」と報じられたにもかかわらず、その後設置された「カフェイン併用化学療法に係る科学的検証調査委員会」が、カフェインがアドリアマイシンの心毒性を増強させるか否かを一般論として調査するにとどまったのはなぜか?

 すでに述べたように、筆者はこれらの疑問を解明するため、金沢大学のほか、患者が死亡した当時の整形外科教授でカフェイン併用化学療法の臨床試験が倫理指針に違反していたことが判明した当時の病院長である富田勝郎氏、金沢大学が倫理指針違反を公表した当時の病院長である並木幹夫氏、カフェイン併用化学療法調査委員会委員長である赤座英之氏らに質問状を送って取材を申し入れたが、いずれも応じてもらえなかった。

 さらに、当時の責任者だけでなく、厚生労働省の先進医療会議などで反省の念を表明し、再発防止を誓った金沢大学自体が筆者の取材に応じていない。再発防止策の実施状況の確認も含めて新聞記者の取材要請に一切応じようとしない金沢大学の対応は、はたして再発防止ができるのかという疑念を抱かせるものなので、筆者が同大学に取材を要請してからの経過を以下に記しておきたい。

 筆者が最初に金沢大学総務部広報室に取材を申し込んだのは、2017年11月28日のことだった。筆者はそれまでに、カフェイン併用化学療法調査委員会がまとめた報告書に基づき、先進医療などに関する法人文書の開示請求を金沢大学に対して行い、複数の文書の開示を受けていた。取材の申し込みは書面で行い、厚生労働省が高度先進医療での実施を承認したカフェイ

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