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コロナ渦の6月株主総会で機関投資家は議決権をどう行使したか

依馬 直義

コロナ渦の2020年6月株主総会を振り返って
~機関投資家による議決権行使状況を中心に~

   

三井住友信託銀行株式会社
証券代行部
審議役 依馬直義

依馬直義拡大依馬 直義(えま・なおよし)
 三井住友信託銀行株式会社 証券代行コンサルティング部 審議役。
 1991年中央信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社。信用格付機関の出向等を経て、IRコンサルティング業務に携わり、2012年4月にIR・SRチーム長を務め、2017年10月より現職。

1.はじめに

 新型コロナウィルス感染症の拡大は、2020年6月の株主総会に大きな影響を与えた。決算や監査業務に関わる従事者の安全確保を図るため、計算書類や監査書類の作成が遅れるケース、招集通知が例年のスケジュール通りに発送できないケースや、総会を延期したり継続会を開催したりするケースもみられた。また、感染拡大防止の観点から総会場への出席自粛の呼びかけ、インターネットや郵送による議決権行使の奨励、お土産・懇親会の取止め、出席人数の制限、開催時間の短縮といった運営面での様々な工夫がみられたほか、ハイブリッド型バーチャル総会を開催する企業も増えた。本稿では、コロナ渦の本年6月株主総会を振り返って、機関投資家による議決権行使状況を中心に解説したい。

2.6月総会のトピックス

 (1)集中度の上昇と総会の延期・継続会の開催

 東京証券取引所によれば、2020年3月期決算企業のうち6月26日の集中日に定時株主総会を開催した割合は32.79%(747社/2,278社)と2019年の30.86%(719社/2,330社)に比べて約2ポイント上昇した。このように集中が強まった理由は決算業務や監査法人による会計監査業務の遅れが影響したためとみられる。会社法では株主総会の開催日は株主名簿の確定基準日から3か月以内と定められていることから、会計監査が完了しない企業は①株主総会の延期(基準日を改めて設定し直し、7月以降に開催日を延期する)、あるいは②継続会(1回目の総会を予定通り6月中に開催した後、2回目の総会を決算報告書の承認のために開催する)が選択できるが、延期や継続会を選択した企業は約90社にとどまり、6月中の開催会社が大半を占めた。

 機関投資家としては、株主総会の延期により基準日が変わることによって配当金を受取る権利を失ってしまうことや、継続会によって会計監査が未了のまま計算書類が確認できない状態で剰余金処分議案等に対して議決権行使を判断しなければならないことを懸念する向きもあるが、こうした危機的な環境下では機関投資家の多くが企業の対応に一定の理解を示している。通常であれば米大手議決権行使助言会社のISSは、ROEが過去5年平均で5%を下回りかつ改善傾向にない場合、経営トップである取締役に反対を推奨するが、本年は新型コロナウィルス感染症が企業業績に与える多大な影響を考慮し一時的に適用を停止することとした。しかしながら、6月総会で継続会を選択した企業については剰余金処分、会計監査人の選任、ストックオプション・譲渡制限株式・信託型株式等報酬の議案に対し、原則として賛成でも反対でもなく「棄権」を推奨する方針とした。

 (2)バーチャル株主総会

 新型コロナウィルス感染症拡大を抑制するための手段として、ハイブリッド型バーチャル総会を開催する企業が増えた。現行の会社法下ではバーチャルオンリー型株主総会は法解釈上困難であるが、ハイブリッド型バーチャル総会とはリアル総会を開催しつつ、そのリアル総会の場に所在しない株主についてもインターネット等の手段を用いて遠隔地から、これに参加あるいは出席することを許容する株主総会である。会社法上の出席となるか否かによって「参加型」と「出席型」に分類される。「出席型」バーチャル総会は開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることを前提に許容されているが、会場の通信インフラの整備、当日の議決権行使の取扱い、質問や動議対応等の課題が多く、運営面のハードルが高いため6月総会では10社程度にとどまった。なお、機関投資家の大半は総会当日に出席することはほとんどなく、議決権の電子行使プラットフォームを通じて事前に行使することから特段影響を受けなかった。

 (3)株主提案

 当社調べでは、6月開催総会で株主提案を受けた企業は51社(前年同月比マイナス3社)となった。このうちアクティビストによる株主提案は19社(同比プラス7社)に増え、ストラテジックキャピタル(7社)、RMBキャピタル(3社)、オアシスマネジメント(3社)等からは自己株式の取得や社外取締役の選任を求める議案が目立った。一方、株主提案を受けた企業の中には会社提案として配当性向の引上げや買収防衛策の廃止、あるいは企業と株主の共同で定款変更を提案したものもあり、株主に譲歩したとみられる事例もあった。また、みずほフィナンシャルグループに対して、NPO法人の気候ネットワークが気候変動の経営戦略を年次報告書にて開示するよう求めた定款変更の株主提案は注目を集めたものの、賛成比率34.5%で否決された。

3.スチュワードシップ・コードの再改訂とその影響

 2014年2月に策定された「責任ある機関投資家」の諸原則(日本版スチュワードシップ・コード、以下SSコードという)は2017年5月の改訂を経て、2020年3月に再改訂案が公表された。主なポイントは次の5点である。なお、6月30日時点でSSコードの受け入れを表明している機関は284となった。

 (1)運用機関における議決権行使に係る賛否理由の開示

 前回の改訂によって110を超える機関が投資先企業ごとに議決権行使結果を個別開示するようになったものの、賛否理由まで開示する機関は40にとどまっていた。今後は運用機関が賛否理由も公表するようになるため、投資先企業との建設的な対話や透明性の確保が一層進むとみられる。

 (2)ESG(環境・社会・ガバナンス)要素等を含むサステナビリティを巡る課題に関する対話

 2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」は、2030年までに持続可能な世界を実現するための17項目の目標を定めている。責任ある機関投資家として世界中が直面している環境・社会問題を解決するために、プラス効果をもたらす事業やサービスを提供する企業への積極的な投資あるいはリスクの高い企業への投資抑制・ダイベストメントを通じて経済的リターンと社会的貢献を同時に実現する取組みが求められている。機関投資家はサステナビリティを巡る課題に関する対話の中で運用戦略と整合的で、かつ中長期的な企業価値の向上や企業の持続的成長に結び付くように行動することが求められる。特に海外では気候変動といった環境面ばかりでなく「ヒューマン・キャピタル・マネジメント」(人財の活用)といった社会面のテーマも注目を集めており、コロナ渦における人種間の雇用機会均等、従業員の多様性、女性活躍のためのパイプライン整備、男女間の賃金格差の是正、内部告発制度の強化等への関心も一層高まっているため、こうしたテーマに関する対話が増えている。

 (3)企業年金のスチュワードシップ活動の後押し

 SSコードの受け入れを表明している年金基金等合計53のうち、企業年金は未だ36にとどまっていることから、インベストメント・チェーンの中でより多くの企業年金にアセットオーナーとして期待される役割を果たすべく、積極的なスチュワードシップ活動に取組むことが求められる。

 (4)議決権行使助言会社における体制整備

 SSコードに追加された原則8-2には、「議決権行使助言会社は運用機関に対し個々の企業に関する正確な情報に基づく助言を行うため日本に拠点を設置することを含め十分かつ適切な人的・組織体制を整備すべき」とある。米大手議決権行使助言会社のグラスルイスは昨年まで6月の総会シーズン前に期間限定で開設していた東京オフィスを、2020年1月から常設としており、日本での組織体制を強化する動きがみられる。

 (5)年金運用コンサルタントにおける利益相反管理体制の整備

 年金運用コンサルタントは顧客に対する影響力を背景に、自らの投資商品の販売勧誘を行うケースがあり、運用機関のスチュワードシップ活動を適切に評価していないとの指摘を踏まえ、自らの利益相反管理体制を整備するとともに、その取組みを公表することが求められる。

4.海外機関投資家の議決権行使基準の変更点

 (1)ISS(Institutional Shareholder Services)

 ISSは2020年2月から親会社や支配株主を持つ会社において、ISSの基準に基づく独立性を満たす社外取締役が株主総会後の取締役会に占める割合が3分の1以上かつ2名以上でない場合、経営トップである取締役または指名委員会等設置会社の指名委員である取締役の選任に反対を推奨している。2019年2月に監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社に対して社外取締役を1/3以上求める基準を適用したが、親会社や支配株主を持つ会社においては少数株主の権利を保護するためには十分とは言えないことから新たなポリシーを適用することにした。

 また、社外役員の独立性については「政策保有銘柄企業出身の社外取締役および社外監査役は独立性がない」と判断している。ISSは政策保有銘柄企業の判断にあたって、有価証券報告書掲載の「保有目的が純投資以外の目的である投資株式」を用いることとし、金融商品取引所への独立役員届出書は招集通知とは異なり正式な機関決定を経ていないため、情報の確度が低いことや招集通知より後に提出されるケースが多いことを考慮し参照しない方針に変更した。ちなみに本年のポリシー改定にあたって、指名委員会等設置会社に対するROE基準の適用除外、政策保有株式が多い企業に対する経営トップへの反対、女性取締役の義務化等を検討した模様であるが、見送られている。

 (2)グラスルイス(Glass, Lewis & Co.)

 グラスルイスは、女性役員(取締役、監査役、指名委員会等設置会社における執行役)が1名もいない東証1部と2部上場企業の会長(会長職がない場合は社長)、指名委員会等設置会社の場合は指名委員会の委員長の取締役選任について反対を助言する方針に変更した。ただし、企業が女性役員選任等に関して、現在の状況、今後の対応策、予定等を明確に説明し、その情報を開示している場合に限り、「女性役員の不在」を理由とする反対助言を例外的に避ける場合がある。なお、2019年の対象企業は、株式指数“TOPIX100”に組み入れられている時価総額が大きい100社であったが、本年から東証1部と2部上場企業全社に対象を拡大した。

 また、2021年からは保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の貸借対照表計上額の合計が純資産の10%を超える場合、会長(会長職がない場合は社長)の取締役選任に反対助言とする予定である。ただし、政策保有株式が純資産に対して10%を超える場合であっても、政策保有株式が毎年減少していると確認できる場合等、反対助言を見送ることもある。

 (3)その他

 米大手年金基金であるCalPERS(California Public Employees’ Retirement System: カリフォルニア州公務員退職金制度)は、2020年より日本の指名委員会等設置会社において各委員会メンバーに100%の独立性を求めている。変更前は過半数の独立性としていたが、グローバル基準に合わせて委員会のメンバー全員に独立性を求めることにした。なお、監査役会設置会社においては2017年以降、取締役会に1/3以上の独立社外取締役を求めており変更はない。また、米大手年金基金であるCalSTRS(California State Teachers’ Retirement System: カリフォルニア州教職員退職金制度)は取締役会に2/3以上の独立社外取締役を求めることに変更はなく、満たさない場合には取締役全員に反対している。ただし、日本企業に対しては例外として独立性基準を満たす社外取締役には反対しないが、社内取締役については全員に反対している。さらに、指名委員会等設置会社において各委員会のメンバー全員に独立性を求めているが、企業とのエンゲージメントを通じて合理的な説明が得られれば個別に判断することもある。

5.国内機関投資家の議決権行使基準の変更点

 (1)社外取締役の比率・人数

 2019年に監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を対象に社外取締役を1/3以上に変更する動きがみられたが、2020年は監査役会設置会社にも対象が拡がった。三井住友トラスト・アセットマネジメントは、2020年1月から「独立社外取締役が複数かつ取締役総数の1/3以上でない場合、取締役選任に反対する。ただし、経過措置として複数の独立取締役を置いている企業について、業績(ROE)基準において中長期的な企業価値向上に支障が出ていないと判断される場合は賛成する。」に変更した。また、りそなアセットマネジメント(2020年1月にりそな銀行の運用機能を統合)は「取締役会に独立性のある社外取締役が1/3以上選任されていない場合、合理的かつ納得性のある説明がなければ、代表取締役の選任に反対する。但し、監査役会設置会社で、親会社または支配株主を有しない企業については、取締役会に独立性のある社外取締役が2名かつ20%以上選任されている場合は賛成する。」とした。そのほかに、2020年4月から三菱UFJ信託銀行は「社外取締役(独立性の有無は問わない)が複数かつ取締役総数の1/3以上選任されていない場合、取締役候補者全員に反対する。」とし、アセットマネジメントOneは「社外取締役が2名以上いない場合、または20%以上いない場合、代表取締役に反対する。」に変更し、2021年度は25%以上に引き上げることを検討していることから20%以上であっても25%に到達していない企業にはエンゲージメントまたは書面の送付にて対応を促すとしている。なお、野村アセットマネジメントも監査役会設置会社は社外取締役2名以上としているが、取締役の人数が12名を超える場合には3名以上とした。

 (2)親会社あるいは支配株主が存在する企業の場合

 親会社あるいは支配株主が存在する企業に対しては、より厳しい基準を設ける国内機関投資家が増えた。三井住友トラスト・アセットマネジメントは「独立社外取締役が取締役総員数の過半数、もしくは独立社外取締役が取締役総員数の1/3以上の企業において指名委員会等(任意の諮問委員会を含む)における独立社外役員が委員総数の過半数、または独立社外役員が半数で委員長が独立社外役員でない場合、取締役選任に反対する。」とし、アセットマネジメントOneも「社外取締役が取締役会の過半数存在していない場合、代表取締役の選任に反対する。」に変更した。なお、野村アセットマネジメントは支配株主がいる会社はROE8%以上の場合には2名以上で許容していたが、一律1/3以上に変更した。

 (3)社外役員の独立性

 社外役員の独立性の判断にあたっては、在任期間の上限設定や招集通知への記載を明確に求める動きがみられた。アセットマネジメントOneは2020年4月から株主総会時点で12年以上の在任期間となる場合、当該候補者に反対する基準を新設した。社外役員の在任期間については、これまで投資先銘柄数が比較的少ないアクティブ運用の投資家が上限を設定するケースがみられたが、今後はパッシブ運用の投資家にも拡がる可能性がある。

 また、三菱UFJ信託銀行は「社外役員の独立性の確認にあたって、金融商品取引所への独立役員届出もしくは届出の予定については補欠の候補者も含め株主総会招集通知への記載を求めており、株主総会招集通知に記載がない場合は独立性を確認できないものとして原則反対する。」とした。機関投資家にとってのバイブルである招集通知には法的な要請からだけでなく、機関投資家が必要とする情報も併せて記載することがますます重要になっていることから、企業としては社外役員の独立性に関する情報を極力招集通知に記載すべきであろう。

 (4)買収防衛策

 買収防衛策に対する基準は厳格化の一途を辿っている。2019年10月に大和アセットマネジメント(旧・大和証券投資信託委託)は、「当該企業の経営陣による恣意的な発動の余地がないと判断できる場合等には賛成していたが、買収防衛策の導入・継続については原則として反対」に変更した。また、アセットマネジメントOneは2020年4月から基準をさらに厳しくし、社外取締役の人数については複数かつ1/3以上から「過半数」に引上げたほか、業績基準については3期連続東証一部ROE下位1/3分位未満から「ROE1/2分位未満」に変更した。

6.機関投資家による新型コロナウィルス感染拡大への対応

 6月総会シーズン前には、主要な機関投資家が新型コロナウィルス感染症拡大という特別な事情を考慮し、議決権行使方針やスチュワードシップ活動の対応方針を一時的に見直す動きがあった。具体的には、5月にISSが「新型コロナウィルス感染拡大の世界的流行を踏まえたISS日本向け議決権行使基準の対応」を公表した。その中で、ROE基準の適用猶予、継続会への対応(棄権票の推奨等)のほか、企業の株式実務担当者の皆様へのお願いとして、招集通知の証券取引所ウェブサイトへの早期掲載、継続会を選択し招集通知に事業報告が添付されない企業には、株主総会終了後の取締役会・監査役会の構成情報の招集通知への掲載、社外取締役・社外監査役の出席状況情報の開示を求めた。一方、グラスルイスは一般的に情報が不足している取締役・監査役選任および会計監査人選任の議案について支持しないが、こうした環境下では情報不足だけを理由に反対助言を控えることとした。

 国内機関投資家の多くも柔軟な姿勢がみられた。たとえば、三井住友トラスト・アセットマネジメントは株主総会の開催方式にかかわらず柔軟に対応すること、議決権行使の判断にあたって事業のサステナビリティを十分に考慮し議決権行使ガイドラインを機械的に適用しないこと、判断材料が完全でないとの理由だけでは反対や棄権は行わないこと等を表明した。野村アセットマネジメント、大和アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントも当面の間、ROE等の数値基準の適用を見送り弾力的に運用する方針を示した。また、アセットマネジメントOneは、業績など従来の議案判断基準に加えて情報開示の充実や特に優先度が高いESG課題に関するエンゲージメントを重視する姿勢を打ち出した。

7.主な議案に対する議決権行使の状況

 (1)剰余金処分

 一般的に反対が少ない議案であるが、国内機関投資家の中には①当期の配当性向基準・ROE基準を満たさない場合、②自己資本比率が50%以上あり、総還元性向が50%を下回る場合等に反対するケースがみられた。一方、ISSは継続会を選択した企業で、監査が未了で計算書類を確認できない段階で配当議案が決議される場合、適切であると責任をもって判断することは困難であることから「棄権票」の投票を推奨した。

 (2)取締役選任

 ROEが継続的に低迷する企業に対しては、自社の業績基準に抵触するため反対する国内機関投資家がみられたが、前述のとおり現在の状況に配慮しROE基準の適用を見送るケースもあった。また、監査役会設置会社でも社外取締役が1/3以上いない場合に、反対する国内機関投資家もみられた。

 ISSは、社外取締役の独立性について招集通知に客観的な取引規模の開示がないことを理由に独立性がないと判断したが、社外取締役の人数・比率が基準を満たしているケースでは反対を推奨しなかった。他方、グラスルイスは指名委員会等設置会社の指名および報酬委員会において委員長を務める社内取締役に対しては反対を推奨した(ただし、指名および報酬委員会の委員長に独立性までは求めていない)。また、女性役員が1名もいないことを理由に経営トップに反対推奨するケースもあった。

 そのほかに、国内機関投資家の中には不祥事があった企業の再任候補者全員に対して反対するケース、また在任中に不祥事があった企業の社内取締役を務めていた社外取締役の選任議案に反対するケースがみられた。さらに、社外監査役の在任期間と通算して12年を超える社外取締役に独立性がないと判断して、反対するケースもあった。

 (3)監査役選任

 社外役員の独立性については、証券取引所への独立役員届出書の有無によって判断する国内機関投資家が増えているが、社外監査役が大株主あるいは主要借入先の出身であることを理由に独立性がないと判断し反対するケースがみられた。また、監査役の減員について、その理由が明確かつ合理的でない場合、監査役(補欠監査役を含む)候補者全員に対し反対するケースもあった。

 ISSは社外役員の独立性について「政策保有銘柄企業出身の社外取締役および社外監査役は独立性がない」と判断することを受けて、有価証券報告書に記載された企業出身の社外監査役に反対を推奨した。そのほかに、グラスルイスは社外監査役に対して顧問契約があり客観的な取引金額等の開示がないことを理由に非独立と判断したり、監査役会の過半数を独立性のある社外監査役を占めないことを理由に反対を推奨した。

 (4)株式報酬

 当社調べでは、2020年5月までに役員向け株式報酬制度を導入した企業は1,413社(前年比320社)と、3年連続で年間300社のペースで増加している。一般的に株式報酬に関する機関投資家のチェックポイントとしては、①希薄化率(発行済株式総数の5~10%以下)、②交付対象者(社外役員を含まない)、③交付時期(一定期間以上の経過後あるいは役員退任後)、④交付を可能とする業績条件等が挙げられる。こうした議案に対して機関投資家からの反対はそれほどなかったものの、希薄化率や交付時期を理由に反対するケースがみられた。

 (5)監査等委員会設置会社への移行

 2015年5月の会社法改正により上場企業は「監査役会設置会社」と「指名委員会等設置会社」以外に、「監査等委員会設置会社」を選択することが可能となった。当社調べでは、2020年6月総会までに監査等委員会設置会社へ移行(定款変更議案)した企業は1年間で100社超増加し、1,140社と全体の3割を占めた。移行する企業は、株主総会において少なくとも5つの議案(①定款一部変更、②監査等委員でない取締役の選任、③監査等委員である取締役の選任、④監査等委員でない取締役の報酬、⑤監査等委員である取締役の報酬)を上程する必要があるが、定款一部変更議案に対して機関投資家が反対するケースはほとんどみられなかった。ただし、社外取締役に独立性がないと判断される場合には当該候補者、取締役会に独立性のある社外取締役が一定の割合を占めない場合には経営トップに対し反対するケースがみられた。

8.おわりに

 米大手インデックス投資家であるブラックロック会長兼CEOのラリー・フィンク氏が2019年2月の投資先企業向け書簡の中で唱えたように、特にコロナ渦では社会における企業の“Purpose”(企業理念/存在意義)が注目を集めている。企業がなぜ存在するのか、日々ステークホルダーに対する価値を創造するために何を行っているのかということが重要であり、企業理念は単に利益を追求することではなく、それを達成するための活力であり、社員がやりがいと充実感をもって働ける仕組みをどのように作っているか、よりよい社会を創っていくためにどのように努力しているのか、施策を明確に打ち出すことが企業に求められている。

 一方、米国の大手企業のCEOが参加するビジネスラウンドテーブルは、2019年8月に企業の目的として株主優先主義からステークホルダー重視への転換を発表した。その後、2020年1月に開催された世界経済フォーラムのダボス会議では「環境」が重要なテーマとなり、環境問題に取り組まない融資先企業に対する金融機関の規制強化等についても議論された。環境や社会問題の解決に向けた資金の流れ、すなわちサステナブル金融の重要性が唱えられた。また、日本でも官民挙げて推進する国連のSDGsやG20のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への意識の高まりから、企業活動を社会問題の解決に積極的に結び付けようとする動きがみられる。

 これまで経験したことのない危機的な環境下では、長期的な視点で国際社会全体の安定や世界経済全体の持続的な成長という共通の目標に向かって、企業と投資家が建設的なエンゲージメントを通じて社会における企業の存在意義や目的を改めて認識したうえで、企業価値の向上のために協働して難局を乗り越えることが重要であろう。

  ▽注: 本稿における意見などは、あくまでも個人的な見解であり、筆者の所属する会社および組織を代表するものではありません。

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筆者

依馬 直義

依馬 直義(えま・なおよし) 

 三井住友信託銀行株式会社 証券代行部 審議役。
 1991年中央信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社。信用格付機関の出向等を経て、IR・SRコンサルティング業務に携わり、2012年4月よりIR・SRチーム長、2017年10月より審議役。
 主な論文に「機関投資家による議決権行使の状況」(旬刊商事法務2215号、2019年)、「スチュワードシップ・コードの再改訂と議決権行使基準の動向」(旬刊経理情報、2020年4月10日号)、「米国の株主総会のトレンドと機関投資家の動向」(ビジネス法務、2020年6月号)ほか。

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