2020年07月29日
西村あさひ法律事務所
髙添 達也
外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)では、外国投資家が対内直接投資等を行う場合において事前届出又は事後報告を義務付ける対内直接投資等の制度が設けられている。かかる対内直接投資等に関して、2019年に外為法の改正法が成立し、また、パブリックコメント手続を経て、関連する政省令・告示の改正が2020年4月30日に公布され、同年6月7日から全面的な適用が開始された。
今回の改正は、対内直接投資等に該当する上場会社の株式・議決権の取得について閾値を10%から1%に引き下げるなど対内直接投資等の定義自体を変更し、また、事前届出義務の免除の制度を新たに導入するなど、多岐にわたる上に抜本的な改正を含むものであるが、これらのうち、投資ファンド分野に特に影響があるものとしては、対内直接投資等の主体要件である「外国投資家」の定義の追加があげられる。
改正前においては、外国籍パートナーシップについては、外国投資家の一類型である「外国法令に基づいて設立された法人その他の団体」(外為法第26条第1項第2号)に組合が含まれるとして、当該外国籍パートナーシップ自体が、外国投資家に該当し、対内直接投資等の事前届出/事後報告の義務者となると実務上解されていた。
これに対し、外国法人等の外国投資家に該当する者が有限責任組合員となっている日本の投資事業有限責任組合が、対内直接投資等に該当する株式取得を行う場合に、対内直接投資等の事前届出/事後報告の義務者が誰になるのかについては、改正前の条文上は明確ではなかった。この点については、投資事業有限責任組合における組合財産は組合員の共有(合有)であることから(投資事業有限責任組合契約に関する法律第16条、民法第668条)、実質的に株式に係る権利を取得することとなる組合員について事前届出/事後報告の義務を負うか検討すべきであり、外国投資家に該当する有限責任組合員が事前届出/事後報告の義務者となると、実務上扱われていた(伊東啓他編著『投資事業有限責任組合の契約実務』(商事法務、2011年)178頁以下参照)。
今回の改正は、新たに「特定組合等」を外国投資家の類型として追加した。「特定組合等」とは、①民法上の任意組合(一部の組合員に業務執行を委任しているものに限る。)、投資事業有限責任組合、又は外国法令に基づいて設立された団体であってこれらの組合に類似するもの(以下「特定組合類似団体」といい、上記任意組合及び投資事業有限責任組合と併せて以下「組合等」という。)であって、②(i)当該組合等における外国投資家全体の出資比率が50%以上であるか、又は(ii)当該組合等の業務執行を行う組合員(以下「GP」という。)が外国投資家であるもの、をいう(改正後外為法第26条第1項第4号)。
外国投資家が有限責任組合員となっている投資事業有限責任組合が対内直接投資等を行う場合において、改正前においては、前述のとおり、外国投資家に該当する有限責任組合員が事前届出/事後報告の義務者であったのに対し、改正後においては、事前届出/事後報告の義務者は投資事業有限責任組合に一本化され、また、それも投資事業有限責任組合における外国投資家全体の出資比率が50%以上となる場合(又は投資事業有限責任組合の無限責任組合員が外国投資家である場合)に限定されることになった。
匿名組合、有限責任事業組合、業務執行組合員のいない任意組合は、上記①の組合等に含まれていないため、これらが特定組合等に該当することはない。外国投資家が匿名組合員となっている匿名組合が対内直接投資等を行う場合には、匿名組合又は(匿名組合財産の所有権は営業者に帰属するのであり、匿名組合財産に対し債権的権利を有するに過ぎない)匿名組合員は対内直接投資等の事前届出/事後報告の義務者とはならず、匿名組合の営業者自体が外国投資家に該当する場合に限り、営業者が事前届出/事後報告の義務者となる。外国投資家が組合員となっている有限責任事業組合又は(業務執行組合員のいない)任意組合が対内直接投資等を行う場合には、有限責任事業組合又は任意組合ではなく、(組合財産は組合員の共有であることから)外国投資家に該当する組合員が事前届出/事後報告の義務者となる(政省令・告示の改正案につきパブリックコメント手続の結果、財務省国際局調査課外国為替制度調査室により2020年4月30日付で公表された「ご意見の概要及びご意見に対する考え方」(以下「パブコメ回答」という。)16番参照)。
また、パブコメ回答13番では、外国籍ファンドの場合、各組合員が組合財産を直接共有する関係にある場合は特定組合類似団体に、それ以外の場合には改正後外為法第26条第1項第2号の外国投資家(「外国の法令に基づいて設立された法人その他の団体又は外国に主たる事務所を有する法人その他の団体(特定組合等を除く。)」)に該当する、との解釈が示されている。
上記②(i)の要件は、具体的には、組合等に対する以下の者による出資額の合計が、組合等に対する総組合員による出資額の総額の50%以上である場合に充足することになる(改正後外為法第26条第1項第4号、改正後対内直接投資等に関する政令第2条第3項)。
(a) 非居住者個人
(b) 外国の法令に基づいて設立された法人その他の団体又は外国に主たる事務所を有する法人その他の団体
(c) 総議決権の50%以上を上記(a)又は(b)に該当する者により直接又は間接に保有される会社(特定上場会社等を除く。)
(d) 法人その他の団体であって、上記(a)に該当する者が役員又は代表権限を有する役員のいずれかの過半数を占めるもの
(e) 組合等であって、上記(a)乃至(d)に該当する者が当該組合等のGPの過半数を占めるもの
外国籍パートナーシップが有限責任組合員となっている投資事業有限責任組合が特定組合等に該当するかを検討する際に、外国籍パートナーシップは、そのGPの属性にかかわらず、設立準拠法又は主たる事務所の所在地が外国であれば、上記(b)に該当することになる。また、当該外国籍パートナーシップは、法人格の有無にかかわらず(その組合財産が組合員に帰属するのか、外国籍パートナーシップ自体に帰属するのかにかかわらず)、その業務執行として投資事業有限責任組合に出資するのであれば、外国籍パートナーシップによる投資事業有限責任組合に対する出資額の「全額」が、上記②(i)の出資比率判定にあたり分子に算入されることになる(パブコメ回答12番参照)。
また、(上記(e)には該当しない)投資事業有限責任組合Yが有限責任組合員となっている別の投資事業有限責任組合Xが特定組合等に該当するかを検討する際に、投資事業有限責任組合Yの組合員の中に非居住者個人や外国法人などが存在していたとしても、投資事業有限責任組合Y自体が上記(a)乃至(e)に該当しない場合には、投資事業有限責任組合Yによる投資事業有限責任組合Xに対する出資額の全額が、上記②(i)の出資比率判定にあたり分子に算入されないことになる(パブコメ回答12番参照)。
上記②(ii)の要件は、具体的には、以下の者が組合等のGPの過半数を占める場合に充足することになる(改正後外為法第26条第1項第4号、改正後対内直接投資等に関する政令第2条第5項)。
(A) 上記(a)乃至(e)のいずれかに該当するもの
(B) 組合等であって、上記(a)乃至(e)に該当する者による出資割合が50%以上のもの
(C) 有限責任事業組合であって、上記(A)又は(B)のいずれかに該当するもの(並びに、上記(b)乃至(e)又は(B)に該当する者が、当該組合等のGP又は当該有限責任事業組合の組合員である場合には、上記(b)乃至(e)又は(B)に該当する者の役員)が当該有限責任事業組合の組合員の過半数を占めるもの
実務上、日本の投資ファンドとしては投資事業有限責任組合をファンドビークルとして使用することが多いが、ファンド・マネジャー個人の有限責任性を確保しつつ、同個人が受領する成功報酬(キャリード・インタレスト)に関する税務上のメリットを得ることを企図して、ファンド・マネジャー個人を組合員とする有限責任事業組合を組成の上、かかる有限責任事業組合を投資事業有限責任組合における無限責任組合員とするスキームを採用する場合がある(西村あさひ法律事務所編『ファイナンス法大全(上)〔全訂版〕』(商事法務、2017年)311頁以下参照)。
投資事業有限責任組合契約に関する法律上、無限責任組合員の資格制限はないため、有限責任事業組合を投資事業有限責任組合の無限責任組合員とすることは可能である。しかしながら、無限責任組合員に関する事項が投資事業有限責任組合の登記事項とされており、この登記の観点から注意すべき点がある。
従来より、登記実務上、無限責任組合員は法人又は自然人であることが求められており、法人格を有しない有限責任事業組合を無限責任組合員として登記することは認められていなかった。かかる登記実務上の制限は、2014年において一旦は撤廃されたが(前掲『ファイナンス法大全(上)〔全訂版〕』309頁参照)、その後再度復活し、有限責任事業組合が無限責任組合員となる投資事業有限責任組合の場合には、有限責任事業組合自体を無限責任組合員として登記することはできず、「有限責任事業組合の組合員全員」又は「有限責任事業組合の代表的な組合員」を無限責任組合員として登記すべきというのが現在の運用である。
なお、かかる運用に従えば、有限責任事業組合が無限責任組合員であることが登記上の「無限責任組合員に関する事項」欄からは分からないことにはなるが、「組合の事業」欄において、「組合員は、●●有限責任事業組合を無限責任組合員とする本組合の事業として、共同で次に掲げる事業を行うことを約する…」といった記載とすることにより、有限責任事業組合が無限責任組合員であることが登記上分かるように工夫している登記実例も存在する。
有限責任事業組合を無限責任組合員として投資事業有限責任組合を組成する場合、投資事業有限責任組合レベルに加えて、有限責任事業組合レベルでも金融商品取引法(以下「金商法」という。)上の整理を検討する必要がある。
ファンド・マネジャー個人を組合員とする有限責任事業組合の場合、適格機関投資家を最低1名は組合員とする必要があるなど要件のハードルが高く、金商法第63条に基づく適格機関投資家等特例業務に依拠することが困難な場合が多いため、他の手法を考える必要がある。
この点、金商法上、有限責任事業組合その他の集団投資スキームにおける持分は、原則として有価証券に該当するが、以下の要件の両方を充足して出資者の全員が出資対象事業に関与する場合には、有価証券に該当しないとされている(金商法第2条第2項第5号イ、金融商品取引法施行令第1条の3の2)。
①出資対象事業に係る業務執行がすべての出資者の同意を得て行われるものであること(すべての出資者の同意を要しない旨の合意がされている場合において、当該業務執行の決定について全ての出資者が同意をするか否かの意思を表示してその執行が行われるものであることを含む。)
②出資者のすべてが、出資対象事業に常時従事するか、又は特に専門的な能力であって出資対象事業の継続の上で欠くことができないものを発揮して当該出資対象事業に従事すること
そのため、上記の各要件を満たし、有限責任事業組合の持分を有価証券ではないと扱うことにより、有限責任事業組合の持分の勧誘行為・同組合の運用行為に関する金商法上の登録は不要と整理することが考えられる。なお、有限責任事業組合における組合契約上の規定のみならず、実体としても上記の各要件を充足するよう運営する必要があることには留意されたい。
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