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日本における対内直接投資の審査をめぐる外為法改正
 -取得時事前届出免除制度-

北山 陽介

外為法改正-取得時事前届出免除制度-

西村あさひ法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士
北山 陽介

拡大北山 陽介(きたやま・ようすけ)
 西村あさひ法律事務所パートナー弁護士。
 2003年東京大学法学部卒業。2006年東京大学法科大学院修了。2007年弁護士登録。2014年フォーダム大学ロースクール卒業(LL.M.)。2014~2015年ニューヨークのSchulte Roth & Zabel LLPにて執務。2017年ニューヨーク州弁護士登録。

1. はじめに

 対内直接投資審査制度に関する改正後の外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)並びに関連する政省令及び告示が2020年5月8日に施行され、同年6月7日から全面適用されている(以下、かかる改正を「本改正」という。)。

 本改正は、取得時事前届出免除制度の導入、対内直接投資等の定義の見直し(上場会社等の取得時事前届出の閾値の引き下げ、行為時事前届出制度の導入等)、事前届出対象業種の整理(指定業種の変更及びコア業種の指定)、居住者外国投資家の範囲の拡大、投資組合(ファンド)による対内直接投資等に係る届出義務者の見直し等、多岐にわたるものであるが(注1)、以下では、外国投資家が日本の上場会社等の株式又は議決権を取得する場合を前提として、対内直接投資等に係る事前届出制度及び取得時事前届出免除制度の概要を説明する。なお、本稿は2020年11月20日時点の情報に基づくものである。

2. 対内直接投資等に係る事前届出制度

 本改正により上場会社等の株式及び議決権の取得時事前届出の閾値が10%から1%に引き下げられたため、上場会社等の株式又は議決権の取得であって、当該取得後における取得者及びその密接関係者(注2)の合計の出資比率又は議決権比率が1%以上となるものは、対内直接投資等に該当することとなった(外為法第26条第2項第3号・第4号、対内直接投資等に関する政令(以下「直投令」という。)第2条第8項・第10項)。

 そして、外国投資家が対内直接投資等に該当する上場会社等の株式又は議決権の取得を行う場合(注3)において、当該上場会社等又はその日本国内の子会社若しくは当該上場会社等(その日本国内外の子会社を含む。)が総議決権の50%に相当する議決権を保有する日本国内の他の会社(以下「子会社等」という。)が指定業種(後記3参照)に属する事業を営んでいるときは、当該外国投資家は、当該株式又は議決権の取得を行おうとする日の前6か月以内に、日本銀行を経由して財務大臣及び事業所管大臣に対して届出をしなければならず、当該届出の受理日から起算して30日を経過する日まで(禁止期間)は、当該株式又は議決権の取得を行ってはならない(外為法第27条第1項・第2項本文、直投令第3条第2項第1号・第3項、対内直接投資等に関する命令(以下「直投命令」という。)第3条第3項・第4項・第7項)(注4)

 ただし、国の安全等に係る対内直接投資等に該当しないかどうかを審査する必要がある対内直接投資等に該当しないと認められる場合は、禁止期間は届出の受理日から2週間を経過した日までに短縮され(外為法第27条第2項ただし書、直投令第10条第2号、直投命令第10条第2項第1号)、また、国の安全等の観点から審査期間の短縮が可能と判断されたものについては、届出の受理日から4営業日を経過した日までに禁止期間を短縮するように努めることとされている(注5)

 他方、財務大臣及び事業所管大臣は、届出に係る対内直接投資等が国の安全等に係る対内直接投資等に該当しないかどうかを審査する必要があると認める場合は、届出の受理日から起算して4か月間(一定の場合には5か月間)に限り、禁止期間を延長することができ、当該審査の結果、当該届出に係る対内直接投資等が国の安全等に係る対内直接投資等に該当すると認めるときは、当該対内直接投資等の届出をしたものに対し、当該対内直接投資等に係る内容の変更又は中止を勧告することができる(外為法第27条第3項~第6項)(注6)。そして、当該勧告を受けたものが当該勧告を応諾しない場合は、財務大臣及び事業所管大臣は、当該勧告を受けたものに対し、当該対内直接投資等に係る内容の変更又は中止を命ずることができる(同条第7項~第12項)。

 また、財務大臣及び事業所管大臣は、(a)外国投資家が、事前届出をせずに対内直接投資等を行った場合、事前届出をして禁止期間の満了前に対内直接投資等を行った場合、若しくは虚偽の事前届出をして対内直接投資等を行った場合において、当該対内直接投資等が国の安全等に係る対内直接投資等に該当すると認めるとき、又は(b)外国投資家が対内直接投資等に係る内容の変更若しくは中止の勧告若しくはこれらの命令に違反した場合は、当該外国投資家に対し、当該対内直接投資等により取得した株式等の処分その他必要な措置を命ずることができる(外為法第29条第1項~第4項・第6項)。

 なお、上場会社等の株式又は議決権の取得に係る事前届出をした外国投資家は、当該届出に係る株式若しくは議決権の取得、又は当該取得後における当該株式若しくは議決権の処分を行ったときは、当該行為を行った日から45日以内に、日本銀行を経由して財務大臣及び事業所管大臣に対して報告をしなければならない(外為法第55条の8、直投令第6条の5、直投命令第7条第1項第1号)。

3. 指定業種及びコア業種

 対内直接投資等に係る事前届出が必要となる指定業種は、「対内直接投資等に関する命令第3条第3項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件」において定められている。また、本改正により新たに制定された「対内直接投資等に関する命令第3条の2第3項の規定に基づき、財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件」において、指定業種のうち、国の安全等に係る対内直接投資等に該当するおそれが大きいものに係る業種として、コア業種が定められており、対内直接投資等に係る上場会社等又はその子会社等がコア業種に属する事業を営んでいるか否かによって、取得時事前届出免除制度の要件が異なる(後記4参照)。本改正後においても、今般の新型コロナウイルス感染症の蔓延を踏まえ、2020年6月15日に、感染症に対する医薬品に係る製造業及び高度管理医療機器に係る製造業が指定業種及びコア業種に追加され、同年7月15日以後に行う対内直接投資等に適用されている。

 なお、財務省が2020年5月8日に公表した「本邦上場会社の外為法における対内直接投資等事前届出該当性リスト」(その後同年6月5日及び同年7月10日に更新されている。以下「銘柄リスト」という。)において、日本の上場会社は、(a)指定業種以外(事後報告業種)の事業のみを営んでいる会社、(b)指定業種のうちコア業種以外の事業のみを営んでいる会社又は(c)指定業種のうちコア業種に属する事業を営んでいる会社のいずれかに分類されている。もっとも、銘柄リストの公表後も外国投資家自らが対内直接投資等に係る事前届出の要否を判断しなければならない点に変わりはないため、外国投資家は、銘柄リストのみに依拠するのではなく、対内直接投資等に係る上場会社等又はその子会社等が指定業種又はコア業種に属する事業を営んでいるか否かを慎重に確認する必要がある。

4. 取得時事前届出免除制度

 (1) 概要

 上場会社等又はその子会社等が指定業種に属する事業を営んでいる場合であっても、外国投資家は、本改正により新たに導入された取得時事前届出免除制度を利用するときは、一定の免除基準(及び上乗せ基準)を遵守することを条件として、事前届出をせずに当該上場会社等の株式又は議決権の取得(注7)を行うことができる(外為法第27条の2第1項)。

 なお、財務大臣及び事業所管大臣は、取得時事前届出免除制度を利用して事前届出をせずに対外直接投資等を行った外国投資家が免除基準又は上乗せ基準に違反していると認める場合は、当該外国投資家に対し、当該基準を遵守するために必要な措置をとるべきことを勧告することができ、当該外国投資家が当該勧告に従わなかったときは、当該外国投資家に対し、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる(外為法第27条の2第3項・第4項)。さらに、財務大臣及び事業所管大臣は、当該外国投資家が当該命令に違反した場合において、当該対内直接投資等が国の安全等に係る対内直接投資等に該当すると認めるときは、当該外国投資家に対し、当該対内直接投資等により取得した株式等の処分その他必要な措置を命ずることができる(同法第29条第5項)。

 取得時事前届出免除制度は、外国投資家の属性に応じて、(a)包括免除制度及び(b)一般免除制度に大別されるが、過去に外為法に違反した一定のもの、同法第27条の2第4項に基づく命令を受けたもの、並びに外国政府等、外国政府等が影響力を有する一定の法人その他の団体(以下「国有企業等」という。)及びこれらの役員(以下「免除対象外投資家」という。)は、取得時事前届出免除制度を利用することができない(同条第1項、直投令第3条の2第1項)(注8)

 (2) 包括免除制度

 一定の外国金融機関(以下「許認可等金融機関等」という。)(注9)が業として上場会社等の株式又は議決権の取得を行う場合は、当該許認可等金融機関等は、当該上場会社等又はその子会社等がコア業種に属する事業を営んでいるか否かを問わず、以下の(a)~(c)の免除基準を遵守することを条件として、事前届出をせずに当該株式又は議決権の取得を行うことができる(外為法第27条の2第1項、直投令第3条の2第2項第3号イ、直投命令第3条の2第4項、「外国為替及び外国貿易法第27条の2第1項の規定に基づき、財務大臣及び事業所管大臣が定める対内直接投資等が国の安全等に係る対内直接投資等に該当しないための基準を定める件」(以下「基準告示」という。)第2条第1号~第3号)。

 (a)外国投資家自ら又はその関係者(注10)が発行会社等(注11)の取締役又は監査役に就任しないこと。
 (b)外国投資家が自ら又は他の株主を通じて指定業種に属する事業の譲渡・廃止等に係る議案を発行会社の株主総会に提案しないこと。
 (c)外国投資家が指定業種に属する事業に係る非公開の技術情報の取得その他の当該技術情報の流出につながるおそれのある一定の行為を行わないこと。

 

 なお、包括免除制度又は一般免除制度を利用して事前届出をせずに行った直近の対内直接投資等の後に生じた事由により、行為時事前届出をしてその禁止期間満了後に行う一定の議案(取締役若しくは監査役の選任に係る議案又は事業の譲渡・廃止等に係る議案)に係る外為法第26条第2項第5号に掲げる同意に係るもの等は、前記(a)又は(b)の免除基準に違反しない(基準告示第3条第1号・第2号)。

 (3) 一般免除制度

 上場会社等又はその子会社等がコア業種に属する事業を営んでいない場合は、免除対象外投資家及び許認可等金融機関等以外の外国投資家(認証SWF等を含み、以下「一般投資家」という。)は、前記(2)の免除基準を遵守することを条件として、事前届出をせずに当該上場会社等の株式又は議決権の取得を行うことができる(外為法第27条の2第1項)。

 他方、上場会社等又はその子会社等がコア業種に属する事業を営んでいる場合は、一般投資家は、当該上場会社等の株式又は議決権の取得後における当該一般投資家及びその密接関係者(非居住者)の合計の出資比率(実質株式ベース)又は議決権比率(実質保有等議決権ベース)が10%未満となるときに限り、前記(2)の免除基準に加えて、以下の(a)及び(b)の上乗せ基準を遵守することを条件として、事前届出をせずに当該株式又は議決権の取得を行うことができる(外為法第27条の2第1項、直投令第3条の2第2項第3号ロ、直投命令第3条の2第3項、基準告示第2条第4号)。

 (a)発行会社等が営むコア業種に属する事業に関し、外国投資家自ら又はその指定する者が、発行会社等の取締役会又は重要な意思決定の権限を有する委員会に出席しないこと。
 (b)発行会社等が営むコア業種に属する事業に関し、外国投資家が、自ら又はその指定する者を通して、発行会社等の取締役会若しくは重要な意思決定の権限を有する委員会又はそれら構成員に対し、期限を付して、当該発行会社等の回答又は行動を求めて書面又は電磁的記録により提案しないこと。

 

 (4) 事後報告

 外国投資家が取得時事前届出免除制度を利用して事前届出をせずに上場会社等の株式又は議決権の取得を行った場合において、当該株式又は議決権の取得後における当該外国投資家及びその密接関係者(非居住者)の合計の出資比率(実質株式ベース)又は議決権比率(実質保有等議決権ベース)(以下「取得者等の所有等割合」という。)が一定の割合となるときは、当該外国投資家は、当該株式又は議決権の取得を行った日から45日以内に、日本銀行を経由して財務大臣及び事業所管大臣に対して報告をしなければならない。具体的には、許認可等金融機関等は、以下の(c)の場合のみに当該報告をする必要があるのに対して、一般投資家は、以下の(a)~(c)の場合に当該報告をする必要があるが、認証SWF等のうち特に国の安全等に係る対内直接投資等を行うおそれが大きくないと確認されたものは、以下の(c)及び(d)の場合に当該報告をする必要がある(外為法第55条の5第1項、直投令第6条の3第1項、直投命令第6条の2、別表第三第3項・第4項・第6項・第7項)。

 (a)取得者等の所有等割合が1%未満から1%以上3%未満となる場合(初回のみ)
 (b)取得者等の所有等割合が3%未満から3%以上10%未満となる場合(初回のみ)
 (c)取得者等の所有等割合が10%以上となる場合(取得の都度)
 (d)取得者等の所有等割合が特定割合(財務大臣が特に認めた割合)未満から当該特定割合以上10%未満となる場合

 

 また、外国投資家は、前記の事後報告をした場合(直投命令の別紙様式第11の2による報告書を提出した場合)において、その後に当該外国投資家の属性等に係る一定の変更が生じたときは、当該変更が生じた日から起算して45日を経過する日までに、日本銀行を経由して財務大臣及び事業所管大臣に対して報告をしなければならない(外為法第55条の8、直投令第6条の5、直投命令第7条第4項)。

 ▽注1: 本改正全体の概要については、財務省が

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筆者

北山 陽介

北山 陽介(きたやま・ようすけ) 

 西村あさひ法律事務所パートナー弁護士。
 2003年東京大学法学部卒業。2006年東京大学法科大学院修了。2007年弁護士登録。2014年フォーダム大学ロースクール卒業(LL.M.)。2014~2015年ニューヨークのSchulte Roth & Zabel LLPにて執務。2017年ニューヨーク州弁護士登録。
 日本の上場会社の買収案件や経営統合案件をはじめとして、国内外のM&A取引やジョイント・ベンチャー等について豊富な経験を有しているほか、株主総会対応、株式買取価格決定申立事件等の会社非訟事件その他のコーポレート案件も幅広く手掛けている。
 共著に『企業労働法実務相談』(商事法務、2019年)、『M&A法大全(上)〔全訂版〕』(商事法務、2019年)及び『株主総会の実務相談』(商事法務、2012年)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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