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企業法務部門とインハウスローヤーの役割

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
斎藤 輝夫

拡大斎藤 輝夫(さいとう・てるお)
 1983年3月、明治大学法学部卒業。大日本印刷株式会社に勤務したのち、1992年4月、司法修習(44期)を経て弁護士登録。2000年5月、米国University of Pennsylvania Law School修了(LL.M.)。日米の法律事務所にて勤務、企業にて法務担当役員を務め、2019年4月、アンダーソン・毛利・友常法律事務所に入所。明治大学・筑波大学のロースクールで「企業法務」「金融法」を担当。

はじめに

 2541名――。2019年12月時点での弁護士登録をしている企業内弁護士の数である(日本組織内弁護士協会調べ)。2001年の66名から指数関数的に増加し、最近ではわずか数年で倍増している。1990年代まで弁護士が企業に雇用されるにあたっては弁護士会の許可が必要だった時代を覚えている人も少なくなった。当時は、弁護士が企業に雇用されることは、弁護士会ではネガティブに捉えられ、許可をするにあたって企業代表者に「弁護士の独立を害しません」との宣誓書を要請することもあった。翻って昨今では、企業向けに「企業内弁護士雇用の手引き」などを発行する弁護士会もあり、弁護士会が企業に対し弁護士を雇用することを奨励する動きがむしろ優勢と言えよう。隔世の感しきりである。

 私は弁護士登録し29年目である。登録後15年間を法律事務所で弁護士業を行い、その後企業内弁護士として複数の企業で勤務したのち、昨年4月にAMTに迎えていただいた。ほぼ外と内からのリーガルサービスを同程度経験しているため、本稿のお題として、外部弁護士との比較の観点から企業法務部門の経験をお話しさせていただきたい。

 2007年、あるM&A案件の相手方で突然インハウスに転身した米国人弁護士から強く誘われ、米国企業に入ることになった。15年も弁護士をやってきてなぜに急に、と今考えてもよく転身したものだと我ながら思うが、いくつかその素地があったと思う。外部のアドバイザーより、より経営の近くでディシジョンメイキングに絡みたいから、というのは、インハウスに転職希望する弁護士が採用面接でよく挙げる動機であるが、私もカッコよく言うとその気持ちもあった。もう少し直截にいうと、特定の専門分野を深めるというよりは企業法務関連のなんでも屋であった自分の経験が、企業の組織の中で活かせるものかどうか試したいという思いだった気もする。また、学生までダラダラ人生を送っていた私は、司法試験の司の字も考えることなく普通に就職し印刷会社の営業職となったが、組織チームで働くことが結構楽しかったため、サラリーマンに戻ることに抵抗がなかったという点や、07年当時、家庭の事情で半年以上、新件を受任しておらず、クライアントへの迷惑をかけずに転身できる状況であった点も大きかった。

 このような経緯で、企業内法務の世界に足を踏み入れた。当初は数年だけ経験して法律事務所に戻ろうと思っていたが、やってみると想像以上に奥深くやりがいを感じる世界で、結局、10数年、外資、内資を含む複数の企業で法務部門に携わることになった。

法務部門の役割

 企業の法務部門の機能、役割については、ここ数年、大変注目され活発な議論がされている。一つのきっかけは、2018年4月に経産省が公表した「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」であろう。国際舞台で日本企業の競争力が劣る一因が法務部門の機能の弱さにあるのではとの問題意識から、目指すべき法務部門の機能・役割について提言を行ったものである。企業の法務機能に焦点を当てたこの種の提言を行政庁が行うのはおそらく前例のないものであり、これまで法曹や経営法友会などの法務の世界の中だけの議論であったものが、俄かに経営サイドからも注目されることとなった。本提言では、法務部門の役割として攻めのビジネスパートナー機能と守りのガーディアン機能を掲げ、それを具体化した役割や法律専門家が経営陣に入ること(General Counsel (GC)の設置)の重要性などが強調された(詳しくは経産省HPをご参照されたい)。その提言内容には私も基本的に賛成であり、シンポジウムや法律雑誌などでこれと軌を一にする私見も述べた。しかし、本稿ではもう少し建前抜きに述べさせていただくと、上記の機能を十分に果たしている日本企業の法務部門は極めて少ないのではないか、またそのような法務機能が十分に備わるにはなかなか道が遠そうであるというのが実感である(私が寡聞にして知らないだけかもしれないが)。少なくとも私自身は、複数の企業でGCを務め法務チームには経産省提言と同じことを(偉そうに)言ってきたが、正直なところ、経産省提言の各機能を十分に果たせたとは到底言えない。また、企業経営サイドも、まだまだ法務部門にこのような期待を持っている企業は少ない。(経営法友会の5年に一度の企業法務部門実態調査はちょうど現在統計中と伺っているが、前回の調査では、法務部門に期待する機能に「戦略法務の実現」を選択した会社はわずか3.3パーセントであった。来年早々開示される予定の最新の統計が楽しみである) また、現に法律専門家がマネージメントに加わっている日本企業は依然としてほとんどない。

 しかし、この1、2年、日本企業からGCを設置したいという相談は少しずつであるが着実に増えている。今後に期待したい。

企業内法務(インハウスローヤー)雑感

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 多くのクライアント企業とお付き合いする法律事務所の弁護士と違い、クライアントが一社のみの企業内弁護士は対応相手の多様性に乏しいだろうと思っていたが間違いであった。外部弁護士が接触するのは、共通言語で話せる法務部門のメンバーが多いが、企業内法務の対応相手は、営業、製造、技術、IT、企画と多岐にわたる。専門分野が違う方に法務リスクの説明をすることがいかに難しいか、法律の世界の共通言語に頼らずに理解を求めることがいかに難しいか、を痛感した。(加えて、私の場合は、滑舌悪い&茨城弁という三重苦であった)

 組織であるが故の内部のポリティクスは、どの企業も多かれ少なかれ存在する。想定外だったのが、米国企業などは実力主義でポリティカルな動きにはあまり左右されないとのイメージを持っていたが、意外と政治的な動きをするむきが多かった。また、部下のマネージメントのみならず(あるいはそれ以上に?)、上司のマネージメント(Upper management)が重要なサバイバル術であるのも外資のインハウスで学んだ。実力主義の面はもちろんあるものの、個人間の私的な関係に大いに左右される。まあ、古今東西、どの組織にも共通といえばそれまでであるが。

 また、組織のトップの人間がどのような人物か、どのようなキャラクターかで社内雰囲気が一変することも痛感した。上述の法務部門の機能、社内での役割も、実はトップによってかなり影響されると言える。

 インハウスローヤーになって一番残念だったことは、法廷活動や刑事事件ができなくなったことであった。もともと、弁護士か検察官か、研修所修了間際まで迷っていた私は、弁護士になってからも刑事事件を積極的に受け、ビジネスローヤーの割には否認事件を含め多くの案件を扱ったが、企業内法務に携わって以降、当然のことながら刑事事件には縁遠い。また、そもそも法廷に立つこともなくなった。企業によっては、裁判もインハウスローヤーが出廷するという内製化を進めているところもあるが、ほとんどの企業は、内部に資格者がいても裁判については外部弁護士に委任している。インハウスももちろん訴訟方針を決めたり準備書面等をチェックしたりして外部弁護士と協業するものの、自ら証人尋問できないのは、15年間、訴訟中心の弁護士活動をしていた身には歯痒かった。

 しかし、一方でGCとして紛争解決を外部弁護士に依頼する側に立つと、外部弁護士の裁判至上主義的な思考が逆に気になった。企業にとって最良の紛争解決とは、単に契約上の権利実現のみならず、取引相手との今後の関係維持、レピュテーション、営業機密の保持、解決のスピード、監督官庁との関係、創業者の思い、等々、様々なファクターを考慮しなければならない。畢竟、ベストの解決方法が裁判による解決とは限らない。米国では法交渉技術の研究が活発であるが、日本では交渉技術の優れた弁護士は少ない。また、近時は紛争解決制度も多様化し、仲裁やADRなど企業にとっては裁判よりもよりよい解決をもたらす可能性のある制度も充実しつつある。AMTなど大手またはブティックの企業法務ファームのLitigatorは紛争解決制度の多様性に対応してきているものの、未だに日本の多くの弁護士は裁判を専業としている感がある。企業からすると、「裁判」の専門家ではなく交渉、仲裁、ADRなどにも長けた「紛争解決」のエキスパートを求めているのではなかろうか。

 また、事程左様にインハウスにいると外部の弁護士がよく見える。弁護士をしていた頃は、他の弁護士がどのようなリーガルサービスをしているか見えなかったが、クライアント側に立つと多くの弁護士を比較でき、どのような弁護士が頼りになるかがよくわかる。弁護士時代の自分を大いに反省した。案件毎に微妙に違う企業側のニーズを敏感に掴みソリューションを提供することができる弁護士は、人気が出るのも納得である。

 最後に、下世話な話題を一つ。インハウスが外部弁護士と大きく違う点に、毎月決まった給与がいただける、という点がある。大儲けはできないが、安定感はある。上述の通り、私は、某事務所でパートナーの立場にありながら、家庭の事情で半年以上新件の受任をやめていたので、企業に入って毎月決まった給与が振り込まれることがなんと有り難いことかと痛感した。インハウスは事務所勤務より収入が下がると言われるが、実働時間を考えると決して安いわけではなくワークライフバランスも良いということで、これらを理由にインハウスに転身する若手弁護士も多い。しかし、安定した毎月の給与というのは、プロフェッションにとっては諸刃の剣であり、インハウスが増えた現代、冒頭で触れた、弁護士会がかつて大いに懸念した「弁護士の独立性」の問題が、改めて気になる今日この頃である。

最後に

 インハウスローヤーが2500名に達したいま、その仕事内容はポジションに応じて様々であり、知財専門弁護士と独禁法専門弁護士の仕事内容が違うが如く、インハウスローヤーの仕事、というのも一括りには語れなくなっている。本稿で述べた雑感は、私個人の経験談であり、インハウスローヤーに一般化できるものではないのは言うまでもない。

 私は好奇心が旺盛なのか、気が多いのか、飽きっぽいのかわからないが、様々異なった組織、世界での仕事を楽しんできた。昨年から所属しているAMTは、多才で多彩な弁護士と幅広い仕事が集まる場所で、これまた新鮮である。さらにここ数年は、法律と全く関係のないネットワークが増え、日本ペンクラブに入会して作家の方々と交流したり、キリマンジャロ登山をきっかけに山愛好家の友人たちと交流したり、知らない世界を楽しんでいる。現在は医薬ヘルスケア系の会社をインハウス的にサポートしておりWell-being について考えさせられることが多いが、人と人とがリアルに交流し触れ合うことが人の幸福に不可欠だと信じているので、1日も早くコロナ禍から元の世界に戻ることを祈っている。

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筆者

斎藤 輝夫

斎藤 輝夫(さいとう・てるお) 

 1983年3月、明治大学法学部卒業。大日本印刷株式会社に勤務したのち、1992年4月、司法修習(44期)を経て弁護士登録。2000年5月、米国University of Pennsylvania Law School修了(LL.M.)。日米の法律事務所にて勤務、企業にて法務担当役員を務め、2019年4月、アンダーソン・毛利・友常法律事務所に入所。明治大学・筑波大学のロースクールで「企業法務」「金融法」を担当。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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