2020年12月31日
さらに3月13日、各省庁の定年引き上げや役職定年制の導入に合わせ、検察官の定年を引き上げ、政府の裁量で検察幹部の勤務を延長できるようにする検察庁法の改正案を閣議決定。成立を図ろうとしたが、それに反発する世論の大きなうねりが起き、6月中旬、法案は審議未了で廃案となった。一方、渦中の人となった黒川氏は、コロナ自粛の中での賭け麻雀を週刊文春によって暴露されて辞職した。
安倍首相側が主催する「桜を見る会」前夜祭の会計処理疑惑が発覚したのは2019年秋。国会での野党の追及がきっかけだった。翌20年初めには弁護士らが安倍氏らの告発に動いた。それは丁度、官邸と法務・検察が水面下で黒川氏を次期検事総長に決めた時期と重なっていた。
筆者は、官邸に近い政官界関係者らの証言をもとに、検察人事への官邸の介入の背景に、この「桜を見る会」の会計疑惑に対する穏当処分を期待する官邸の思惑があったのではないか、と2020年6月4日のこのコラムの記事「黒川検事長辞職 安倍政権の人事介入が招いた不幸な結末」や、コラム記事をベースに11月下旬に文藝春秋から出版した拙著「安倍・菅政権vs.検察庁」で指摘した。
黒川氏の突然の辞職で、名古屋で退官予定だった林氏は急遽、東京高検の後任検事長となり、7月17日、稲田伸夫検事総長の勇退に伴い、新検事総長に起用された。黒川氏の賭け麻雀辞職や検察庁法改正案をめぐり、国民の検察に対する信頼は地に落ちていた。林氏にとって、国民が注目する「桜を見る会」事件は、因縁の、そして国民の検察に対する不信を払拭する試金石ともなる、検察の威信をかけた捜査となった。
首相には「国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣(首相)の同意がなければ、訴追されない」と定めた憲法75条にもとづく「不訴追の特典」がある。首相も「国務大臣」に含まれると解されており、首相は自分で自分の訴追に同意しない限り、訴追されることはない。
この条文には「捜査をするな」とは書いていないが、検察はその趣旨を汲み、現職の首相の捜査には慎重姿勢をとってきた。大学教授らが東京地検に提出した安倍氏らに対する政治資金規正法違反の告発状が、2回にわたり「代理人による告発は認められない」との理由で送り返されたが、それも、そういう意識が働いたせいかもしれない。
筆者は、安倍氏が自民党総裁としての任期が満了する2021年秋まで首相の座にとどまることになれば、検察の桜問題に対する捜査はその後になる可能性もある、と考えていた。しかし、その安倍氏は持病の悪化を理由に9月16日、首相を辞任。検察にとっては、憲法上の障壁がなくなった。
特捜部は、「不記載罪」での立件を選択し、公設第1秘書ら関係者の取り調べに踏みきった。虚偽記入罪については立件を見送った。関係者によると、安倍氏の事務所や秘書の関係先に対する家宅捜索は行わなかったという。
特捜部や関係者によると、秘書は「記載すべきだったが、自分の判断で書かなかった」と供述し、安倍氏との共謀を否定した。12月21日に取り調べた安倍氏も、補填や収支報告書への不記載などへの自身の関与を否定した。このため、特捜部は、安倍氏については「秘書との共謀を認める証拠はない」として嫌疑不十分で不起訴とする方針を固めた。秘書については起訴
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