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企業法務から見た持続可能な発展 SDGs 「17の目標」

柴原 多

SDGsと企業法務の課題

 

西村あさひ法律事務所
弁護士 柴原 多

拡大柴原 多(しばはら・まさる)
 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。

1.始めに

 SDGsとは、周知のとおり、Sustainable Development Goalsの略語であり、日本語訳は「持続可能性ある開発目標」(《https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html》にて閲覧可能)である。SDGsは、国連でも目標として掲げられ、一義的には国(政府)の目標であるが、経済活動を担う企業も、SDGs達成の重要なステークホルダーとして認識されている。そのため、我が国の大手企業でもSDGsのバッジを付けている会社の役職員を目にすることが多い。

 では、何故「持続可能性ある開発目標」が目指されるのであろうか。様々な考え方があり得るところであるが、一つの考え方は、従来型の企業活動が行き過ぎると、「貧富の差の拡大、資源の枯渇、環境の破壊等の社会的問題」の解決につながらないばかりか、それでは社会の持続可能性を危うくしかねないというものである(大内伸哉『デジタル変革後の「労働」と「法」』14頁、一般社団法人SDGsアントレプレナーズHP「共通価値の創出」(《https://SDGsjapan.com/csv-creating-shared-value》にて閲覧可能)。

 そこで、国連はSDGsとして17の目標を掲げ、これに民間企業も協力している、ないしは協力を検討しているところであるが、一般的には、「貧富の差の解消」といえば、「海外の途上国を訪問し、その是正を目指す」という非常にハードルの高い行動が想像されるように思われる。しかしながら、SDGsが目標とする事項は、そのようなハードルの高い行動に限らず、身近な問題を解決することによっても達成可能な事項が多いと思われる。

 また、近時においては、SDGsは、単に(リスクに敏感な投資家に対する)IR活動、(社会に対する)CSR活動の側面のみならず、いわゆる経営企画的なテーマとしても重要となっている。特に、大手企業が取引先の活動状況をチェックする一要素(性質は異なるが、反社条項・マネロン条項と類似した考えであり、現に海外では後述するLGBTや人権DD等が重要なテーマとなっている)としてSDGsを捉える動きが強まっており、その意味でSDGsの重要性は益々高まっている(また、リスク低減の観点からESG投資を論じるものとしては、例えば、“The Future of Disclosure: ESG, Common Ownership, and Systematic Risk,” available at https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3678197)。

 そこで、以下においては、日本国内を中心に、どのようなSDGsが現実的に達成可能かを、法的な観点から分析していくことにしたい。

2.17の目標について

 17の目標で挙げられている事項は、①貧困の撲滅、②持続可能な農業の促進、③健康的な生活の確保と福祉の促進、④質の高い教育の提供、⑤ジェンダー平等の達成、⑥安全な水と衛生的環境の整備、⑦持続可能なエネルギーの確保、⑧働きがいのある人間らしい雇用の促進、⑨産業化の促進とイノベーションの推進、⑩不平等の是正、⑪持続可能な都市及び人間居住の実現、⑫持続可能な生産消費形態の確保(作る責任・使う責任)、⑬気候変動への対策、⑭海の豊かさの確保、⑮陸の豊かさの確保、⑯平和で公正な社会の実現、⑰グローバル・パートナーシップの活性化である。

 これら17項目は、一瞬目が眩むような難題である。しかしながら、一つ一つを見ていくと、一般的な企業法務と必ずしも縁遠い課題ではない。また、これらの課題は上場企業に関連するテーマ、非上場企業に関連するテーマ、いずれの企業にも共通して関連するテーマ、メーカー等の営業施策に関連するテーマ、ファイナンスと関連するテーマ等、様々な切り口から検討することが可能である。

3.上場企業・非上場企業に関連するテーマ

 (1) 不平等の解消について(第10目標)

 まず、不平等の解消に関しては、①国内では正規社員と非正規社員との差別解消が、②国外では人権デューディリジェンス(以下「人権DD」という)の問題が、それぞれ重要なテーマとなっている。このうち①は上場企業・非上場企業に関連するテーマであり、②は海外進出を行う企業に共通して問題となるテーマである。

 前者の①に関しては、近時、報道されているとおり、多くの最高裁判決が下されている。具体的には、ハマキョウレックス事件(正社員と契約社員間の通勤手当の格差は不合理とされた事件)、長澤運輸事件(定年前社員と定年後再雇用社員の手当の格差が不合理でないとされた事件)、大阪医科薬科大学事件(賞与や退職金の支給の格差が不合理でないとされた事件)、メトロコマース事件(大阪医科薬科大学事件同様の結論)、日本郵便事件(各種手当の待遇差が不合理とされた事件)に関する各判決である。

 今後の課題は、これらの最高裁判決の理論的意味合い、整合性及びその射程範囲(個別の事案判決にすぎないかどうか)の検討と共に、当該先例を踏まえて、会社の人事制度をどのように改革していけばよいかが重要なテーマとなる(これは、言い換えれば、偶発債務リスク低減の施策でもある)。

 後者の②(人権DD)に関しては、海外の子会社・関連会社等や買収予定の対象会社、それらのサプライチェーンを構成している企業において従業員等の人権が適切に保護されているか(根本剛史他「M&Aにおけるビジネスと人権への対応」(《https://www.jurists.co.jp/sites/default/files/newsletter_pdf/ja/newsletter_200929_ma.pdf》にて閲覧可能)、とりわけ児童労働や少数民族に対する取扱いが適切か否かが問題となる。また、かかる問題に対する正しい認識・対応(近時は報道によるレピュテーション・リスクにも注意する必要がある)、問題発覚時の対応、更には訴訟リスクを検討する必要があると共に、当該リスクを踏まえた指針やコベナンツ(誓約事項)の制定、モニタリングのあり方も検討していく必要があろう(この点に関して、企業の開示上の問題のみならず国際裁判管轄の動きについては、例えば湯川雄介「法務的観点から『ビジネスと人権』を考える」NBL1172号(2020)50頁以下参照)。

 また、この点に関しては、日本政府も2020年10月16日に「『ビジネスと人権』に関する行動計画」を公表したところである(《https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008862.html》にて閲覧可能)。

 なお、当該行動計画には、人権DDの促進に加え、新しい技術の発展に伴う人権・救済へのアクセスに関する取組み等についても言及されている(例えばアクセスに関しては、拙稿「裁判のIT化」参照(《https://www.jurists.co.jp/sites/default/files/newsletter_pdf/ja/newsletter_200708_dx.pdf》にて閲覧可能)。

 (2) ジェンダーについて(第5目標)

 次に、ジェンダーの問題については様々な切り口から検討することが可能である。これらの中には、①LGBTの問題もあれば、②女性の働き方の問題もあり、更には③女性の起業支援の問題も存在する。

 このうち①(LGBT)の問題は、報道されているような各地方公共自治体におけるパートナー制度といった公的制度で対応すべき問題であると共に、各企業内部における支援制度によって対応すべき問題でもある。但し、パートナー制度を幅広く保護すればいいと考えるのか、それとも家族のあり方及び男女の内縁関係の取扱い(特に、判例上の要件・効果)との整合性をどのように考えるべきかという視点も存在する(この点に関する判例としては宇都宮地裁真岡支判令和元年9月18日(同性の内縁関係破綻後に慰謝料の請求を認めた事案)や名古屋地判令和2年6月4日(殺害された被害者との交際者(同性)に公的給付を否定した事案)参照)。

 より一層広範囲に影響を及ぼす②女性の働き方の問題は、少子高齢化社会における労働力確保の施策であるほか、フレックス制度・テレワーク制度等を広く導入して女性の働きやすい環境を整備するかどうかという問題でもある。この問題については、各企業のカルチャー・ポリシー等との整合性に関する検討も必要となろう。

 ③の女性の起業支援の問題は、基本的には与信システムの問題である。我が国金融機関は融資判断にあたって、従来、事業計画のみならず勤務経験等のトラックレコード、引当てとなる担保の存在等を重視してきたところであるが、それらはベンチャー企業の資金調達には不利に働くものもあった。他方、ベンチャー・キャピタル(VC)による投融資も、ある程度のトラックレコードが必要なため、創業期における資金調達には不利な面が存在する。そのため、近時はクラウド・ファンディングの利用等にも注目が集まっているが、他方で、これについては不適切とも思える勧誘もまま見受けられるため、市場のルール整備・透明化が求められるところでもある。

 なお、女性に関する(古くて新しい)法律問題としては、(菅政権が積極的に取り組んでいる)不妊治療、代理出産、デジタルベイビー、遺伝子治療等に関する特許法等の問題があるが、これらに関する検討も今後進めて行く必要があろう。

4.売上施策に関連するテーマ

 (1) 産業と技術革新について(第9目標)

 第三に、産業と技術革新の分野は、ビジネスの分野と最も相性が合うように思われる。具体的には、①海外に対しては発展途上国への技術提供という手段を通じてマーケット開拓・売上確保を図ることが考えられよう(例えば、豊田通商では「開発途上国と共に成長し、事業を通じて社会課題の解決に取り組む」と宣言している(《https://www.toyota-tsusho.com/csr/materiality.html》にて閲覧可能)。

 他方、②国内に対しては新規産業への融資又は出資等を通じて貢献することが可能である。

 もっとも、上記①については、固有のカントリーリスク(宗教、地政学、政治、経済、軍事等)、各国の法制度(特に担保法制)、海外故のモニタリングの困難性といった問題をどのように克服するかという課題は存在する。

 また、古くからあるテーマであるが、海外進出に関しては、環境汚染の問題にも十分留意する必要がある。即ち、発展途上国に対する技術提供及びそれに基づく事業展開(例えば、工場建設とその操業)に際しては環境面への配慮が疎かになることがあるが(近時はモーリシャス沖の事故も話題となっている)、それについては事後的に環境汚染を理由とする周辺住民からの損害賠償請求がなされるリスクがあり、特に工場閉鎖の際にはこの点が障害(ボトルネック)となりやすいので注意する必要がある(これもまた偶発債務リスク低減のための施策である)。

 さらに、上記②(融資や出資を通じた国内新規産業への貢献)に関しては、新規事業の発展可能性についての具体的検証、事業計画で想定していなかった問題が生じた場合における事業撤退手法等の検討、新規産業関連資産(特に知的財産)への担保設定方法についての検討が必要であるという点を理解する必要がある。

 (2) 作る責任・消費する責任(第12目標)

 「大量生産・大量消費」と「責任」とはある意味で矛盾する概念である。人類は生活の利便性を求めて、プラスチックなどの非自然化商品の大量生産、テフロン等の有害物質の排出、豊かさの裏返しである大量のフードロス等を容認してきた。これらを一律に禁止することは企業の売上げや利益の減少につながる面もある。他方、弊害が許容範囲を超えると、その反動ないし悪影響は計り知れないため、我が国政府としても3つの「R」(Reduce, Reuse, Recycle)を提唱しているところである(詳細は、経済産業省HP(《https://www.meti.go.jp/policy/recycle/》にて閲覧可能)。

 そのため、近時は企業もいわゆる廃プラ問題やフードロス等への対応を進めてきている(例えば、ローソンは、一般社団法人全国フードバンク推進協議会との合意書締結を通じて、余剰食品を子供食堂等へ提供する旨開示している(《https://www.lawson.co.jp/company/news/detail/1380708_2504.html》にて閲覧可能)。フードロスについては、世界的には余剰食品のマッチング、廃棄商品のデータ解析、冷凍技術を使った余剰食品の活用等が議論されている。これらは、いずれも企業として社会的責任を果たす施策であるのみならず、経費削減等の利益率向上につながる施策でもあると共に、DXや契約不適合責任とも関連する点で、法務的な観点からも検討が必要である。

 これらについては、急激な方向転換は困難としても、徐々に問題を解消していくことが必要であるが、その際には、ESG投資を進める機関投資家からの圧力、機関投資家によるグリーンボンド(環境債)への投資など金融面での企業への動機づけ、環境問題に深い関心を抱く層(又は共感を大事にする層)への訴求力の強化によるブランド力の向上、及びSDGsに根ざしたブランド開発(特にデジタルジャーニーへの訴求)等々の多面的なプレッシャーやインセンティブが重要になるものと思われる。

5.非上場企業との関連性が高いテーマ

 (1) アグリ・インベストメント(第2目標)

 非上場企業が多い農業分野においても、SDGsは重要なテーマである。

 飢餓問題の背景には様々な問題が伏在しているが、マクロ的には、農業を始めとする第一次産業の安定化や国内における食糧分配システムの整備等が重要な課題である。このうち、第一次産業の安定化については、①農業ノウハウの共有、②当該ノウハウの活用のためのサポート、③労働力の適切な配分等が重要と考えられる。

 従来、農業は労働集約型産業の典型とされてきたところであるが、我が国の状況に鑑みれば、現代では、少子高齢化の進行による労働力不足や廃業の増加、及び流通過程の効率化が大きな課題であり、それらを解決するためには、今後は、ビッグデータやAIの活用による農業生産や流通の効率化、ドローンや無人トラクター等の活用による生産性の向上、法人化(農業法人の育成)や他業種の参入による産業としての農業の活性化等々によってこれらの課題を解決していく必要がある。

 加えて、農業関係者の切実な悩みとしては、農作業の過酷さに加え、収入が相対的に低いことが挙げられる。他方、単純に農作物の販売価格を上げることは消費者の国内農作物離れを生むだけである。そこで、実際には、農業だけでなく会社員との兼業を行う兼業農家が非常に多い。このような働き方をサポートする意味では、リモートワークが重要な意味を持ち得るであろう。

 なお、米国を中心に、消費者のヘルシー志向に後押しされて(かつ、CO2削減の一方策として)「代替肉」の活用が注目を浴びているが、食品表示規制の法的紛争も生じているようであり(See “Federal Court Blocks Arkansas’ Anti-Vegan “Meat” Labeling Law,” available at https://vegnews.com/2019/12/federal-court-blocks-arkansas-anti-vegan-meat-labeling-law)、この分野における技術革新が今後アグリビジネスにどのような結果をもたらすことになるかは、まだ判然としない部分もある。

 (2) 健康と福祉(第3目標)

 少子高齢化が急速に進む我が国では、健康と福祉も非常に重要なテーマである。現在、世界は新型コロナ感染症のパンデミックに見舞われているが(今後はワクチンに関する法的問題も課題となりうる)、新型コロナ対策を別としても、我が国では医療を巡る問題は正に山積している。

 法務の観点からも、例えば、①医療へのアクセス確保の問題(特に、コロナ禍の状況下で、オンライン診療・服薬指導の拡充が喫緊の課題となっている。この問題については、例えば、葛西陽子「オンライン服薬指導を巡る近時の規制の動向について」(《https://webronza.asahi.com/judiciary/articles/2720080600005.html》にて閲覧可能)や②中小病院へのファイナンス・統廃合支援(廃業から配業へ)の問題(なお、病院に関する私的整理上の問題点については、西村あさひ法律事務所『事業再生大全』(商事法務、2019)648頁以下参照)が大きな問題となっている。今後、大きな課題となることが予想されるテーマとしては、③病院だけでなく薬剤・看護等をめぐる地域包括ケアの問題(介護保険法第5条第3項参照)、④(拡大する)従業員のメンタル・フィジカルサポートの問題、⑤障害者雇用の拡充(障害者雇用法に基づき企業は一定の範囲で障害者の雇用促進を要請されているが、他方で、単に雇用を促進すればいいというものでもなく、障害者にどこでどのように働いてもらうことが社会的に見て望ましいのかや、人事部門や経営層との意見交換等はどのように行っていくのが適切かといった点にも留意して制度設計を行う必要があろう)等が挙げられる。

 (3) 教育の充実(第4目標)

 教育の充実も我が国にとって重要な問題である。教育は自己実現のために必要な過程であると共に、経済的困窮を抜け出す有力な方策でもある。しかしながら、この教育問題については、それを受ける方にとっても教える方にとってもそれぞれ課題が存在する。

 教える側の課題としては、少子高齢化の影響を受けて、益々財務内容の悪化が懸念される学校法人の再編が重要である。学校法人の再編にあたっては、通常の企業の組織再編と異なり、合併、設置者変更ないし理事変更といったそれぞれの手法について特別な措置が必要であるが、いずれの手法を採る場合でも資金調達は重要な課題となる。もっともここで注意が必要であるのは、学校法人の再編の場合、通常のM&Aのような株式譲渡の形式ではなく、買収対価は無償で行われるものの、経営権取得後に設備投資や学校改革にどの程度の資金を拠出するかが重要となる場合がままあるということである。

 他方、教育を受けるにあたっては、当然のことながら資金が必要であり、伝統的には奨学金(貸与型)という名のローンがそれを賄う役割を担ってきた。もっとも、奨学ローンは親族の保証を前提とすることが多く、債務者である学生の資金繰りが破綻すると、保証人の資金繰りも破綻しかねない。この問題は、米国では大きな社会問題となっている(貸付残高は総額約1.5兆ドルともいわれる)が、我が国の奨学ローン残高は総額約8.9兆円程度といわれ、その規模感は大きく異なるものの、コロナ禍がこの問題にどのような影響を与えるかは今後慎重に注視していくことが必要であろう。

6.小括

 以上、取り

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筆者

柴原 多

柴原 多(しばはら・まさる) 

 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。
 事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。

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