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インドネシアの新しい投資・労働法制、雇用創出オムニバス法

町田 憲昭

インドネシアの雇用創出オムニバス法

 

西村あさひ法律事務所
町田 憲昭

拡大町田 憲昭(まちだ・のりあき)
 1999年、東京大学法学部卒業。2003年、第二東京弁護士会登録。2009年、University of Southern California Gould School of Law 修了 (LL.M.)。米シアトル、インドネシア・ジャカルタの法律事務所で勤務した後、2014年から西村あさひ法律事務所のジャカルタ事務所勤務。

 いわゆる雇用創出オムニバス法が2020年10月5日にインドネシア国会で可決され、11月2日にインドネシア大統領により署名されることにより施行された(以下「本法」)。本法は、複数の法令の重複や矛盾抵触により生じる混乱や非効率を解消して経済発展を促進し、それに伴い新たな雇用機会を増大させることを企図したものである。同時に、中央レベルの法令と地方レベルの条例との不整合の解消も目的とされている。

 本法は投資関連法、労働法、会社法、税法などおよそ80本の既存法令について改正を行うものであり、詳細については施行日から3か月以内に施行細則で定めることとされている。そして、本法の施行細則として50を超える政令及び大統領令について公聴会が行われた後に、2021年2月に制定されている。

 インドネシアにおいては法律の詳細を定める施行細則を一定期限までに定めると規定される場合でも、実際には期限までに施行細則が制定されない事態がしばしばあるが、本法はインドネシア政府の重要政策の一つであり、施行細則もおおむね法律が定める期限までに制定されることとなった。

 なお、インドネシアでは、従来は法令の制定時に公聴会やパブリックコメントを求めることはまれであり、実務に沿っていない内容の規則や過去の関連法令と整合しない規則が制定されることも散見されるが、近時は事前に関連団体に非公式に法令案を開示して意見を聴取することも行われるようになってきた。特に本法は国会での採決時に反対意見を押し切って可決され、その後、本法に反対する労働者による暴動がジャカルタで発生するなど、社会の混乱を招いたこともあり、施行細則の制定には丁寧な対応が行われているようである。

●投資法の改正

 本法は内資及び外資による投資に関する基本的事項を定める投資法を改正している。投資法は、民間による投資がふさわしくない事業分野を規定しており、従前は20業種が指定されていたが、本法による改正によって以下の6業種に限定された。
 (1)大麻・麻薬の製造、(2)賭博・カジノ、(3)いわゆるワシントン条約(CITES)付属書1に記載の魚種捕獲、(4)珊瑚の利用及び採取、(5)化学兵器製造、(6)オゾン層破壊につながる化学原料製造

 また、外国資本による投資については、いわゆるネガティブリストとよばれる業種別のリストによって、投資の可否や外資出資比率の上限等の詳細が定められていたところ、今般、大統領規程2021年第10号(以下「改正ネガティブリスト」)が2021年2月2日付けで制定され、制定日から30日後をもって施行されることになっている。この改正ネガティブリストは、従前の2016年版のネガティブリストを改正するものである。

 改正ネガティブリストを踏まえた実際の実務運用については、今後の当局による運用などの実務を確認することが必要であるが、以下の点は重要な改正点となる。

 まず、改正ネガティブリストでは、(a)優先投資分野、(b)中小企業のために留保される分野、(c)条件付き投資分野が規定され、これらいずれにも分類されない事業は内資外資を問わず投資可能と定められている。(a)は投資に対する制限ではなく、優遇税制を受けられる等のインセンティブを享受できる分類を定めている。(b)は零細事業者が多く従事する事業分野について、中小企業が関与する機会を保証することを目的として、中小企業のみに認められた事業分野になる。

 日本企業を含む外資企業にとって影響が大きいのは(c)条件付き投資分野であり、業種毎に外資による出資比率の上限などの外資規制が定められている。この条件付き投資分野の概要は以下のとおりである。

 2016年版ネガティブリストでは条件付き投資分野として350業種に様々な条件が定められていたが、改正ネガティブリストでは、外資規制の対象となる業種を大幅に削減して、46業種を定めるのみとなっている。2016年版ネガティブリストで外資規制が定められていたものの、改正ネガティブリストに規定されていない業種は、基本的に外資規制が撤廃されたものと理解することができる。改正ネガティブリスト上、外資規制が撤廃された主な業種としては、以下のものがある。

 2016年版ネガティブリスト改正ネガティブリスト
業種外資出資比率の上限外資出資比率の上限
倉庫業 67% なし(外資100%まで)
ディストリビューター業 67% なし(外資100%まで)
フォワーダー業 67% なし(外資100%まで)
面積1200平米までの中小スーパーマーケット(小売り) 0% なし(外資100%まで)
陸上貨物輸送 49% なし(外資100%まで)
投資額1000億ルピア以下の中小規模のEコマースプロバイダー 49% なし(外資100%まで)
10MW以上の発電事業 原則95% なし(外資100%まで)
広告業 0% なし(外資100%まで)
病院 67% なし(外資100%まで)


 もっとも、業種によっては、ネガティブリスト上は外資規制が規定されていなくても、特別法によって外資規制が課されているものがあるので注意が必要である。また、インドネシアでは当局の裁量が大きく、明文の根拠に基づかない指導が行われることもあるので、改正ネガティブリストによる外資規制撤廃がどのように実務に反映されるかについて、慎重に分析することも必要になる。

●労働法

 本法の正式名称は「雇用創出法」であり、労働法の改正も行われている。本法の可決前の報道では、解雇を容易にすることや有期雇用が認められる範囲を拡大することなど雇用者に有利な改正を行うことで新規投資を呼び込み、その結果として新しい雇用を生み出すことを目的としているといわれていた。ただ、実際には労働組合からの強い抵抗を受けたため、施行された本法は雇用者に大幅に有利な変更とはなっていないように思われる。

 以下では本法による重要な改正点を解説する。

 ・外国人雇用
 インドネシアでは、外国人を雇用する際には外国人雇用計画書(インドネシア語の頭文字をとってRPTKAと呼ばれる文書)を作成して当局に提出するのが原則である。本法では、緊急業務(企業又は一般社会の致命的な損失を回避するために直ちに対応が必要な、自然災害、主要機械の故障、暴動などに起因する早急な対処を必要とする計画外の業務)に必要な外国人雇用の他、職業訓練、一定のスタートアップ、業務訪問、ビジネス調査といった場合には、RPTKAの作成は免除されることとなった。さらに、外国人雇用に際しては、当該外国人からのノウハウの移転先としてインドネシア人共同労働者の指定が必要であるが、本法では外国人が取締役として就労する場合などにはこの指定が必ずしも必要ないこととされている。

 ・有期雇用
 インドネシア労働法は、正社員(期限の定めのない雇用)としての雇用を原則としており、有期雇用(契約社員)は、短期間で完了する業務、季節性の業務、新商品の販売など業務の性質が有期雇用にふさわしい業務についてのみ認められている。また、従前の労働法では、有期雇用は原則2年までで、1年間の延長が可能とされていた。本法による改正によって、有期雇用が可能な対象業務は同様に限定されているが、有期雇用が可能となる期間が最長5年に延長されている。また、有期雇用を終了する際には一定の補償金の支払いが新たに求められている。これは有期雇用の期間制限を延長することの代わりに従業員の利益を保護するために設けられたものと理解されている。

 ・アウトソーシング(業務委託)
 従前の労働法は、会社の恒常的な業務については、直接正社員を雇用して行うことを前提としており、製造業企業の生産活動など主たる業務を外部に委託することは認められず、業務委託の対象は付随的・補足的業務に限られていた。この点、本法によりかかる制限が撤廃され、より幅広い範囲で業務を外部に委託することが可能になっている。これにより事業活動をより効率的に行うことが可能になると思われる。

 ・最低賃金
 従前は州ごとの最低賃金、各行政単位(県や市)の最低賃金に加えて、産業別の最低賃金が定められており、一部の産業では最低賃金の割り増しがなされていたが、本法での改正によって産業別の最低賃金制度が廃止された。これにより、最低賃金の基準が簡素化され企業の負担が軽くなることが期待される。

 ・解雇
 本法の国会審議中は、雇用者による従業員の解雇を容易にして人員調整の柔軟性が高まることが期待されていたが、本法においても従業員保護を厚くして、厳格な解雇手続きを定める労働法の基本的な方針は維持されているようである。

 従前は解雇事由は労働法に限定的に列挙されており、また従業員が解雇に同意しない場合は労働裁判所の承認を得るまで解雇が有効にならないものとされていた。そのため、解雇事由に該当する場合も、従業員との間で争いとなることを避けるために、割増退職金を支払うことで労使間の合意により雇用関係を終了させる方法が選択されることが多くあった。

 本法においても基本的な枠組みは維持されており、解雇事由や解雇手続きが厳格に定められているが、以下のように解雇の手続きが明確化されている。

 ①雇用主が従業員を解雇しようとする場合は、解雇予定日の14営業日前までに解雇の理由とともに従業員に対して通知を行う。
 ②従業員が解雇に同意した場合は、労働局に報告を行う。
 ③従業員が解雇に同意しない場合は、
 a.従業員は上記①の通知を受領してから7営業日以内に理由とともに不同意の旨を回答する。
 b.労使間で合意を目指して協議を行う。
 c.労使間の協議で合意に至らない場合は、労働裁判所での手続きで解決を目指す。

 なお、以下の場合は、上記①の通知は不要とされている。
 ・従業員が自発的に退職する場合
 ・有期契約社員の雇用期間が満了した場合
 ・定年に達した場合
 ・死亡した場合

 ・解雇事由
 また、従前は事業の合理化のための解雇は、会社の清算や工場を閉鎖する場合にのみ認められていたが、本法による改正により、必ずしも会社の清算や工場の閉鎖を行わなくても、業績の悪化を理由として従業員を解雇することも認められるようになった。さらに、日本の民事再生手続きに相当する倒産手続きを行うことを理由とした解雇も認められるようになった。これらの改正により、より柔軟な雇用調整が可能になると思われる。

 ・退職金
 インドネシア労働法によれば、退職金は(a)解雇手当(uang pesangon)、(b)長期勤務手当(uang penghargaan masa kerja)及び(c)補償金(uang penggantian)から構成されている。従前は補償金には住居手当及び医療手当に相当するものが含まれていたが、本法は当該部分を削除して

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筆者

町田 憲昭

町田 憲昭(まちだ・のりあき) 

 1999年、東京大学法学部卒業。2003年、第二東京弁護士会登録。2009年、University of Southern California Gould School of Law 修了 (LL.M.)。2009~2010年、Davis Wright Tremaine LLP (シアトル)勤務。2010~2011年、Lubis, Santosa & Maramis Law Offices (ジャカルタ)勤務。2014年から西村あさひ法律事務所のジャカルタ事務所勤務。
 インドネシアを中心とする東南アジア案件を手掛ける。現地駐在経験に基づき、新規進出、現地企業の買収、合弁組成、現地進出後の法務問題等に関してアドバイスを行う。その他一般企業法務、国内外のM&A、海外進出案件等を担当。
 主な論文・書籍に『インドネシア裁判制度の基礎知識』(共著、日本インドネシア協会、2020年)、『インドネシアのビジネス法務』(共著、有斐閣、2018年)、『アジア進出・撤退の労務 - 各国の労働法制を踏まえて』(共編著、中央経済社、2017年)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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