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コロナとカム、今期決算監査に立ちはだかる2つのハードル

加藤 裕則

 新型コロナウイルスとKAM(Key Audit Matters=カム、監査上の主要な検討事項)。二つの大きな課題が上場企業で監査を担う人たちに重くのしかかっている。上場企業の6割で来月には監査意見の付いた3月期決算の財務諸表が公表される。この1年間、コロナの影響を受け続け、企業の監査役、監査委員、監査等委員、会計監査人を務める監査法人やその公認会計士らは試行錯誤を余儀なくされた。さらに今回は、KAMと呼ばれる「監査上の主要な検討事項」の公表がこの3月期決算から義務づけられる。KAMは会計監査人が何に重点を置いて監査したかを監査報告書に記すもので、会計監査人にとっては初めて自分の意図を外部に表明し、その妥当性を世に問うことでもある。6月の株主総会や有価証券報告書の提出に向けて会計士、監査役らの緊張感が高まっている。

●リモートがニューノーマル?

拡大日本公認会計士協会の小倉加奈子副会長
 「コロナの感染拡大から1年たちリモート体制は定着しました。ニューノーマル(新常態)になったと言えます」

 日本公認会計士協会の小倉加奈子副会長は4月中旬、インターネットを介した記者の取材にこう語った。

 2020年2月にダイヤモンド・プリンセス号で次々と新型コロナウイルスの感染者が発覚。日本は一気にコロナ禍に入った。当時は2020年3月期の期末を控えていた時期で、企業の動きに合わせて会計監査人や監査役らもリモートワークを余儀なくされた。同時に「本当にスケジュール通り監査ができるのか」との焦燥感が広がった。3700社の上場企業のうち2300社が3月末を会計年度の末日にしている。期末の3月から決算公表の5月にかけて監査業務は集中する。そこを狙い撃ちしたようなコロナの感染拡大だった。

 会計士協会は、監査人が工場などに出向いて在庫などを確認する作業ができなくなる状況を想定。2020年3月には「記録の閲覧など代替的な監査手続きを」などと会員に通知し、リモート方式を活用する際の留意事項を周知した。監査現場の会計監査人もこれに呼応した。結果的に多くの会社で監査が間に合い、おおむね例年通りの株主総会の日程となった。金融庁幹部は「会計士は厳しい状況の中、高い倫理観と使命感をもって監査を乗り切った」と評した。

拡大日本公認会計士協会会館=東京都千代田区九段南4丁目
 会計士協会はその後も随時、リモート監査に関する対応を協議。昨年12月~今年3月、立て続けにリモートワーク対応第1号~6号として6本の通知を会員向けに出して、監査人が取り組む事項を整理した。

●監査は十分なのか

 一方で、多くの疑念も残る。

 電子情報は改ざんしやすく、「十分な監査ができず、少なからずの不正が隠蔽されているのではないか」との声は根強い。

 企業から電子メールで送られてきた書類は本物なのか。過去の動画が送られることはないのか。

 会計監査人と監査役は、それぞれ定期的に社長ら経営陣と対話することが求められている。だが、この1年間はリモート越しが多く、形式的な対話で済まされている、との見方もある。工場など現場に行く往査もできず、実態をつかんでいるのか、との不安も広がっている。

 会計士協会はこれらの不安を払拭するために「留意事項」を策定した。

 PDF形式の資料を企業から受け取ることが多くなっているが、今年2月に出したリモート対応第3号は「PDFに変換された証憑の真正性に関する監査上の留意事項」。受け取ったPDFファイルの資料が本物かどうか、改ざんされていないかどうかを確かめるため、必要に応じて、作成者に電話したり、プロパティなどの情報から作成者や作成日時などを確かめたりする作業を求めた。

 小倉副会長は「紙の監査証拠を見ていたころよりも確認事項が増えている。こんなにやらなければいけないのかと思うくらいだ」と説明する。一方で、「紙でも電子でも偽造はある。そこは変わらない。虚偽表示リスクの高いような会社や状況があれば、監査人は現場に赴きます」と対面とリモートを組み合わせた監査を推し進めていることを強調した。

●コロナの収束見通しと監査

 JR東海は今年4月27日、2021年3月期の決算短信を発表した。売上高は前期比55.4%減の8235億円で、2022年3月期の売上高については5割増しの1兆2340億円と予想した。この売り上げ予想はコロナの影響を受けなかった2019年3月期の65%にあたる。業績予想に関する説明の中でJR東海は、新型コロナウイルス感染症の収束時期について「合理的に予想することは困難です」と断りながら、「ワクチンの接種で感染が収束するに従い、翌第3四半期連結会計期間にかけて一定水準までご利用が回復していくと仮定し、会計上の見積りを行っています」と記した。10月~12月にコロナ禍が沈静し、業績が上向くとの前提を置いている。

 各企業がコロナの収束時期をどのように考えるのかは2021年3月期決算の大きな焦点だ。現在、国内でワクチンの接種が始まっている半面、変異株が猛威を振るっており、収束時期の予想は経営者にとっても簡単ではない。

 こんな状況を考慮し、会計士協会は今年3月、コロナウイルスの影響について「企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積もりを行った結果として見積もられた金額については、事後的な

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筆者

加藤 裕則

加藤 裕則(かとう・ひろのり) 

 1965年10月、秋田県生まれ。岩手大人文社会科学部卒業。89年4月に朝日新聞社入社。静岡支局や浦和支局(現さいたま総局)などに赴任した後、99年東京本社経済部員。その後、名古屋本社経済部員、青森総局次長、大阪本社経済部員。2011年4月から14年9月まで2度目の東京本社経済部員で、金融情報面(株式面)や社会保障取材班を担当した。2020年4月から静岡総局次長。
 経済記者としては、これまで通産省(現・経産省)、鉄鋼業界、トヨタ自動車(名古屋)、関西空港などを取材してきた。通産省クラブ時代から、コーポレート・ガバナンスや会計監査について自主的に取材を重ね、朝日新聞のオピニオン面に掲載される記者有論などで論じてきた。2014年9月から石巻支局員として東日本大震災からの復興の過程を取材。2018年4月から東京本社の経済部員として財界などを取材している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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