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製品デザイン保護の拡大、制度改正と裁判例の最新動向

大向 尚子

製品デザイン保護の制度の拡大と活用
 ―最近の知的財産法改正と裁判例を踏まえた積極的な保護検討の必要性―

西村あさひ法律事務所
弁護士・NY州弁護士 大向 尚子

大向 尚子(おおむかい・なおこ) 
 西村あさひ法律事務所パートナー。
 2002年東京弁護士会登録。2008年ニューヨーク州弁護士登録。2007~2008年米国法律事務所Davis Wright Tremaine LLP(サンフランシスコ)勤務。2016年から経済産業省産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会委員(現任)。

 近年、商標制度によって店舗等の外観・内装の保護を図ること等に関する商標審査基準の改訂や、建築物等への意匠制度による保護の拡充を内容とする意匠法の改正等、知的財産制度において建築物の外観や内装の保護を充実させる取組みが進んでいる。これらの制度改正は、特に店舗デザインや内装に関わる事業者からは比較的高い関心が寄せられていると思われるが、商標・意匠の制度の変更の影響は、そのような事業者に限られるものではなく、製品デザインの保護という観点で様々な企業に関連し得る。

 さらに、裁判所による司法判断の場面においても、製品デザインの保護に関連して実務上参考になる裁判例が複数出ている。商標・意匠といった登録によって認められる権利の保護の他、著作権に基づく保護の可能性を示す事例や、不正競争防止法により差止めや損害賠償を認めた事例等、従来よりも保護の範囲が広く認められる傾向にある。例えば、自社の製品の類似品が第三者によって製造・販売されたときに、商標権や意匠権ではなく不正競争防止法による保護が認められるといった事例が増えている。

 以下では、製品デザインの保護に関連する最近の知的財産制度の改正の状況と、裁判例の動向について触れ、デザイン保護の可能性と留意点について説明する。

1 立体商標制度の審査基準改正による店舗等の外観・内装の保護(商標法関連)

 商標法は、自己の商品・役務を他人の商品・役務と識別する標識である商標を保護する法律である。商品の立体的形状についても、識別力等の商標としての登録要件を満たす場合には、立体商標として登録が可能である。以前より店舗等の外観や内装についても立体商標として登録が可能とされていたが、より適切に保護することができるよう、令和2年(2020年)に、商標法施行規則の改正により、立体商標として商標出願する際の権利の特定方法等について見直しがなされ、審査基準の改訂が行われた。具体的には、①立体商標について必要に応じて「商標の詳細な説明」を記載できるようにすること、及び②立体商標において商標記載欄に商標を構成する部分と商標を構成しない部分とを描き分けること(標章を実線で描き、その他の部分を破線で描くこと等、実線と破線等の描き分け)が認められた。令和2年(2020年)4月1日以降の出願から適用されている。

 この制度改正は、店舗等の外観・内装の保護との関連でとり上げられることが多いが、立体商標全般について適用される制度改正であり、立体商標制度をより柔軟な制度としつつ、権利範囲の明確化にも資する改正と評価することができる。

 なお、平成26年(2014年)の商標法改正では「音の商標」「色彩のみからなる商標」「動きの商標」「ホログラム商標」「位置商標」が商標の保護制度に加えられた(これらの商標は、従来から存在する文字、図形、記号、立体的形状といった伝統的な商標との対比で、「非伝統的商標」又は「新しいタイプの商標」とも呼ばれる)。これらのうち位置商標は、図形等の標章と、その付される位置によって構成される商標である。図形や立体商標による登録以外にも、外観の一部について着目する位置商標の登録という選択肢ができたことによって、製品デザインに関しても商標制度の活用可能性が広がっている。

 この点、最近の裁判例の中には、指定商品を「対流型石油ストーブ」とする石油ストーブの燃焼部の三つの略輪状の炎の立体的形状からなる位置商標について商標登録の可否が争点となったケースがある(知的財産高等裁判所令和2年2月12日(注1))。当該事案では、当該商標が商標法3条1項3号に該当し、商標法3条2項には該当しないとして、特許庁で登録が拒絶されており、知財高裁でも拒絶査定の不服審判請求を不成立とする特許庁の審決の判断に誤りはないとされ、結論として登録は認められていない。しかし、商品の特徴に基づく識別力を主張し、商標制度の下で保護を受ける可能性に事業者が挑戦していることが窺える。

 このような制度改正や裁判例の考え方を踏まえ、自社の商品やサービスについて、他社商品等と差別化できるポイントとなる特徴を検討することによって、新たな保護の可能性が広がることになる。

2 意匠法改正による保護の影響(意匠法関連)

 令和元年(2019年)の意匠法の改正では、①保護対象に建築物・内装の意匠や物品に記録・表示されていない画像等を追加することによる意匠保護対象の拡充、②「関連意匠にのみ関連する意匠」を保護対象に加えることによる関連意匠制度の拡充、③その他、模倣品対策において、構成部品に分割して製造・輸入等する行為の取締り、意匠権の存続期間を「出願日から25年」に変更するなど、デザインの保護やブランド構築のための制度の強化が行われた。新たな意匠制度による出願は、令和2年(2020年)4月1日から受付となり、既に建築物や内装についての登録例も出てきている(登録例については経済産業省ニュースリリース(2020年11月2日公表)(注2)を参照)。

 ①の保護範囲の拡充は、建築物については、土地に定着した人工構造物(土木構造物)を含むもので、オフィスビルや住宅、ホテル、競技場、各種商業施設、駅舎、空港、橋梁、電波塔等も対象となっている。また、内装については、店舗や事務所等様々な施設の内装が含まれ、観光列車や客船等、動産の内装も対象となっている。なお、意匠権が認められるには、出願前に公開されたデザインでないこと(新規性)や、同業者が容易に創作できるものでないこと(創作非容易性)といった要件が求められる点について、従来の意匠権の成立要件から変わりはない。

 ②の関連意匠制度の拡充は、一貫したコンセプトに基づき開発されたデザインを長期に亘り、保護できるようにするものである。ある登録意匠に対して関連する類似デザインを関連意匠として保護しようとする場合に、出願可能期間が基礎意匠の出願日から10年以内までとなった(従来は8か月程度であった)。また、上記期間内において、従来は基礎意匠に類似する意匠に限られていた関連意匠の登録が、「関連意匠」のみに類似する意匠であっても可能となった。このため本意匠から、子、孫、ひ孫のように、後継デザインを関連意匠として登録し、さらにその後継デザインも「関連意匠」として登録することが可能となった(参考画像参照。出典:特許庁「改訂意匠審査基準の概要」(2020年7月13日)8頁(注3))。

出典:特許庁「改訂意匠審査基準の概要」(2020年7月13日)8頁(注3)

 加えて、③模倣品対策については、取締りを回避する目的で侵害品を構成部品に分割して製造・輸入等する行為も取締りの対象となった。例えば、意匠登録を受けた美容用ローラーについて、改正後では、侵害品を構成するボール部分とハンドル部分を分割して製造・輸入等した場合でも、一定の要件のもとで意匠権侵害とみなされる。

 このように、意匠法の改正では、デザインの保護の可能性について、登録可能な範囲の拡大に加えて、登録後の権利行使の側面においても制度の拡大が図られており、商標の適切な保護を図る効果が期待される。

 ここで、意匠権で保護されるためには、新規性や創作非容易性といった要件を充たす必要があることから、自社商品の発表・販売開始後は一定期間の例外的措置を利用できる場合を除いて権利化は困難となってしまう。このため新商品のリリースを予定している場合は、デザイン保護の観点から新作発表前に早めに専門家と意匠の出願可能性について検討を行い、出願の有無・内容等の方針を確認しておくことが重要である。

3 不正競争防止法に基づく保護と裁判例の傾向等

 商品の形態は、商標や意匠といった特許庁への登録が必要な権利によって保護がなされる場合のほか、不正競争防止法によって保護される可能性がある。不正競争防止法は様々な類型の「不正競争」(同法2条1項)を禁止しており、不正競争によって営業上の利益を侵害される者は、差止め・損害賠償を請求することができる。不正競争防止法による製品の外観デザインの保護に関して検討の中心となるのは、周知の商品等表示についての誤認混同行為を規制する不正競争防止法2条1項1号、著名な商品等表示の冒用行為を規制する2号と、他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を規制する3号である。

 このうち不正競争防止法2条1項1号と2号では、「商品等表示」に該当する営業表示や商品の名称等が、周知性や著名性といった知名度において一定の要件を満たし、それが相手方の使用するものと類似し、需要者に混同のおそれを生じさせる場合に、相手方の表示の使用の差止めや、損害賠償請求が認められる。この場合は知名度を要件とする点で3号と異なっている。他方、3号では、他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を規制しており、事業者にとっては、商品の形態の知名度にかかわらず保護を受けることができる可能性があるが、「模倣」した商品に該当するかがポイントとなる。この場合の「模倣」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことである(同法2条5項)。また、3号では、その商品が日本国内において最初に販売された日から3年を経過するまでの間に限って、模倣から保護される。このため、事業者としては、自社の製品デザインに類似した商品を販売されている場合には、販売開始から3年の期間内の販売であるのか、形態の類似性はあるか、「模倣」といえるか、その他、商品の形態の知名度はどの程度あるかといった点が重要となる。

 不正競争防止法に関して、最近では、三角形のピースを敷き詰めるように配置したデザインの鞄等の「BAOBAO」の事件や組み立て式の棚の「ユニットシェルフ」の事件など、ファッションやデザインの分野での裁判例が多く見られる。

 紙幅の都合上、本稿では詳細に取り扱うことができないが、BAOBAO事件は、三角形のピースを敷き詰めるように配置することからなる鞄の形態は、原告商品の製造販売者である事業者の著名又は周知の商品等表示であり、被告による鞄の形態についてその販売が不正競争行為に該当するとされたものである(東京地方裁判所令和元年6月18日)。トートバッグ、ショルダーバッグ、リュックサック等の鞄と携帯用化粧道具入れ(いわゆる携帯用化粧ポーチ)といった様々な被告の商品が差止め対象となっている。

 また、ユニットシェルフ事件では、原告が販売する「ユニットシェルフ」という名称の組立て式の棚の形態が周知の商品等表示であるとして、被告がその形態と同一又は類似の形態の組み立て式の棚を販売することは不正競争防止法2条1項1号違反に該当するかが争われた事案である。この事案につき原告は被告に対して商品の譲渡等の差止め及び廃棄を求め、裁判所は2本の棒材を結合して構成された支柱等からなる商品形態について高い類似性が認められるとして原告の請求を認容した(東京地方裁判所平成29年8月31日、知的財産高等裁判所平成30年3月29日)。

 なお、3号で注目すべき点としては、商品デザインのモデルチェンジがあった場合の保護である。被告の販売するサックス用ストラップが原告の販売するサックス用ストラップ(新モデル)の形態模倣であるとして、原告が被告に対して被告商品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに損害賠償を求めた事案で、商品デザインのモデルチェンジがあった場合に、当初のモデル(旧モデル)の販売日を基準に保護期間を判断するかが問題となった(東京地方裁判所平成30年3月19日、知的財産高等裁判所平成31年1月24日)。控訴審では、原告の旧モデルと新モデルを比較して相違する点を認定し、その相違点が需要者が注意を引きやすい特徴的部分であることを踏まえ、原告商品(新モデル)から受ける商品全体としての印象と旧原告商品(旧モデル)から受ける商品全体としての印象は異なるものといえるから、商品全体の形態としても実質的に同一のものではなく、別個の形態であると判断された。そして、保護期間については、原告の旧モデルと新モデルを比較して、商品全体の形態としても実質的に同一のものではなく、別個の形態として新モデルの販売開始日を基準とすることが可能とした。

 この裁判例の考え方を踏まえると、自社商品のモデルチェンジがなされている場合において他社の模倣商品が登場した場合には、新モデルと旧モデルとを区別し、新モデルを基準に販売開始から3年の保護期間内であるとして3号による主張を行う可能性や、1号・2号による保護の可能性を検討することが考えられる。

4 著作権による保護の可能性について

 著作権法による保護の可能性についても若干触れておく。この点、実用品のデザインについて著作権による保護の可能性を肯定した裁判例として、幼児用デザイン椅子の「TRIPP TRAPP」の事件がある(知的財産高等裁判所平成27年4月14日(注4))。北欧発の幼児用デザイン椅子の「TRIPP TRAPP」を製造販売する原告が、被告製品の形態が原告製品の形態的特徴に類似しており、著作権を侵害するとともに、不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するなどと主張して、被告の製品の製造、販売等の差止め及び、廃棄、損害賠償請求、謝罪広告の掲載を求めた事案である。

 実用目的に供される工業製品のデザインについては、絵画等の専ら美術鑑賞の対象とされることを目的とする純粋美術と区別されて、従来は、原則的にはその保護は意匠法に委ねられ、著作権法による保護を受けないが、純粋美術と同視し得るものである場合には、例外的に美術の著作物として保護されるという考え方が一般であった。しかし、TRIPP TRAPP事件において、裁判所は、応用美術の著作物性を他の著作物の場合と同様に判断し、保護される可能性を認めた。事案としては被告商品との類似性が否定され、著作権侵害とは認められなかったが、実用品のデザインの保護について、著作権法による保護の可能性に踏み込んだ判断がなされた。

 また、最近の照明用シェードについて紛争となった事件で、裁判所は、原告作品については実用目的に供される美的創作物であるところ、原告作品は、美術工芸品に匹敵する高い創作性を有し、その全体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとして、美術の著作物に該当することを認めた。その上で、被告作品について、被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得することができるということはできないとして、翻案には該当せず、同一性保持権を侵害するものであるということもできない、と判示した(東京地方裁判所令和2年1月29日(注5))。

 日本では、実用品のデザインについて著作権侵害が問題になることがあっても、現状は、侵害の事実が認定された裁判例は見当たらない。しかし、国際的にはヨーロッパ等、著作権による保護が積極的に認められている地域もある。

 事業者としては、日本の制度だけでなく、地域によって異なる制度状況を理解し、デザインの保護の在り方と、類似品に対するアプローチについて積極的に検討することが、自社の製品デザインと事業を守るために望まれる。

5 最後に

 近時の制度改正により、デザインの保護のための制度が広がっている。新たなデザインを制作した場合における保護のメニューとしての商標権や意匠権は、それぞれ識別力や新規性といった要件を必要とするので、制度にあった権利保護の活用を検討する必要がある。また、登録した権利とは別に、製品等の外観保護についての裁判例の動向も重要である。

差し止められた知的財産侵害品。「鬼滅の刃」など、人気アニメのキャラクターを模した侵害品が目立つ=2020年9月11日、名古屋市港区の名古屋税関、小松万希子撮影(朝日新聞社所蔵写真から)
 新たなデザインに対する後発品・模倣品の多くは海外で製造され、日本及び欧米等の主要マーケットに流れていることから、海外からの侵害品の国内への流入については、税関における水際措置も重要な保護ツー
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