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1 有価証券報告書による開示規制の趣旨及び制度の概要
金商法は、株式等の有価証券等を発行し、市場で流通させる上場会社等に対し、事業年度ごとに、会社の財務状況や事業内容等の情報を有価証券報告書等に記載して継続的に開示することを義務付けている(金商法24条1項)。その趣旨は、株式等の有価証券等の流通市場に参加する投資者に対し、上場会社等の側に遍在する会社の財務状況や事業内容等の情報を継続的に提供することによって、投資者がリスクを伴う有価証券等への投資を行うに際し、自己の責任において有価証券等の価値その他の投資に必要な事項の判断を可能にするとともに、真実の情報が知らされないことによって不測の損害を被るのを防ぐことにあり、有価証券報告書は、金商法の目的(金商法1条)である市場の健全化と投資者の保護を図るための主要な手段と位置づけられる。
このような継続開示規制の中心となるものが有価証券報告書であり、その記載内容は、金商法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システムである「EDINET(エディネット)」等を通じて、広く投資者に公開されている。
有価証券報告書の記載事項は、会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして開示府令で定める事項である(金商法24条1項)。そして、開示府令15条1号イによれば、金商法24条1項により有価証券報告書を提出すべき内国会社は、第三号様式により同報告書を作成して提出しなければならないところ、同様式は、「第一部 企業情報」及び「第二部 提出会社の保証会社等の情報」から構成されており、前者の項目として「企業の概況」、「事業の状況」、「設備の状況」、「提出会社の状況」、「経理の状況」、「提出会社の株式事務の概要」及ぴ「提出会社の参考惰報」についての記載が義務付けられている。その中でも中核をなすのは、前記「経理の状況」の項目に記載される財務諸表その他の財務情報であるが、有価証券の価値はその証券を発行している会社における経営の適法性や効率性等によっても影響を受けるものであるため、その他の項目に記載される非財務情報も、投資者が投資判断を行う際の重要な要素の一つとなるものであり、社会の情勢に応じてその開示の拡充が図られてきた。
2 第三号様式の「提出会社の状況」に関する開示の拡充(開示府令改正の経緯)とその背景事情
(1) 企業統治(コーポレート・ガバナンス)に対する関心の高まり
有価証券報告書による情報開示の拡充が図られてきた項目の一つが、前記「提出会社の状況」である。会社経営の適法性や効率性等を確保するためには、コーポレート・ガバナンスが機能していなければならないが、現実には、その機能不全に起因して国内外の会社の不祥事や不正会計の事案が続発し、国内外で多くの投資者が損害を被る事態が生じた。このような社会情勢を背景に、会社のガバナンスに対して社会の関心が集まるようになり、その強化を求める声が高まっていた。
このような状況を踏まえて、1999年に経済協力開発機構(OECD)が、コーポレート・ガバナンス原則を発表し、各国政府に対してその強化のための施策の実施を求めた。同原則の「Ⅳ ディスクロージャーと透明性」の項には、コーポレート・ガバナンスの観点から適時かつ正確な情報開示が行われるべき重要事項が列挙されており、その中に「ボードメンバー及び主要役員とその報酬」が挙げられていた。これは、役員報酬の金額・内容や役員間での格差の大きさ等が、役員同士の力関係を反映するなど、会社のコーポレート・ガバナンスの状況を象徴的に表すものであり、投資者が投資判断を行う際の重要な要素の一つとなると考えられたからである。
(2) 平成15年(2003年)の開示府令改正(コーポレート・ガバナンス項目の新設)
前記コーポレート・ガバナンス原則の発表を受けて、日本でも、金融審議会において、コーポレート・ガバナンスに関する開示の在り方が議論され、2002年2月に、金融審議会から金融庁に対し、有価証券報告書にコーポレート・ガバナンスに関する事項について独立した項目を設けることが答申された。この答申を受けて、金融庁は、2003年3月に開示府令を改正し、同年4月1日以降に提出される有価証券報告書の様式の「提出会社の状況」の中に「コーポレート・ガバナンス状況」の項目を新設し、当該項目の「記載上の注意」において、記載すべき事項の例示の一つとして「役員報酬の内容」を加えた。
開示府令上は、「役員報酬の内容」の記載については、提出会社の自主的判断に委ねられていたが、2003年には会社法(同年改正当時は商法)施行規則の改正も行われ、その改正によって、株式会社は、株主に提出する事業報告書(同年改正当時は営業報告書)において、役員区分ごとの報酬等の総額開示若しくは役員ごとの報酬等の額の個別開示又は両者の併用が義務付けられたことに伴い、多くの上場会社では、有価証券報告書における前記「役員報酬の内容」の項目においても役員区分ごとの報酬等の総額を開示するようになった。これにより、同項目の記載を通じて、投資者が投資判断を行う上で、会社の業績と役員の報酬総額との見合い等の観点から会社のガバナンスについて評価できるようになった。
(3) 平成15年(2003年)の開示府令改正以降の状況
もっとも、その後も同様の会社の不祥事等が絶えず、国内外の投資者のコーポレート・ガバナンスに対する関心が更に高まっていたことに加え、2008年のリーマンショックで破綻した海外金融機関の役員の高額報酬が批判を浴びるなどしたことを受けて、金融審議
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