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《判決要旨》パロマの元社長らに有罪を言い渡した東京地裁判決の要旨

主 文

 

1  被告人小林敏宏を禁錮1年6月に、被告人鎌塚渉を禁錮1年に処する。
2  この裁判が確定した日から、被告人両名に対し、それぞれ3年間その刑の執行を猶予する。
3  訴訟費用(略)

 

理 由

 

(犯罪事実)

 

1  被告人小林敏宏は、パロマ工業株式会社(パロマ工業)及びこれと実質的に一体の会社である株式会社パロマ(パロマ)の代表取締役社長又は会長として、製品の安全確保を含むパロマ両社の業務を統括していた。被告人鎌塚渉は、パロマ工業の取締役品質管理部長等として、製品の品質管理等に関する事項を統括し、製品事故の調査・対策等の業務に従事していた。

 ■パロマサービスショップの社員が「短絡」改造

2  東京都港区南麻布のFパレスの1階には、パロマ工業が製造しパロマが販売した強制排気式ガス湯沸器PH-81F型(本件湯沸器)が設置されていた。本件湯沸器は、強制排気装置が作動する場合にのみ点火・燃焼する構造であったが、パロマサービスショップの社員細岡○が、平成7年12月30日の修理の際に、内蔵されたコントロールボックスが故障して点火しない状態であったことから、「短絡」と呼ばれるコントロールボックスの端子台の配線の改造を行なった。その結果、本件湯沸器は、電源が入っていないために強制排気装置が作動しないときでも、点火・燃焼する状態になり、そのようにして使用された場合には不完全燃焼となって多量の一酸化炭素が排出され、一酸化炭素中毒による死傷事故(「短絡事故」 という。)が起きる危険が生じていた。

 ■2001年までに15人が短絡事故で死亡

3  パロマ工業は、本件湯沸器と同じ構造であるPH-F型湯沸器を、都市ガス事業者の委託を受けて製造したOEM製品を含めて7機種製造しており、それらは昭和55年以降、多数販売され使用されていた。これら7機種については短絡が可能であり、その作業自体は簡単なものであり、コントロールボックスの故障による点火不良がしばしば発生することから、パロマサービスショップを含む修理業者が、その修理に際して短絡を行っていた。その結果、昭和60年がら平成13年1月4日ころまでの間、全国各地で13件の短絡事故が発生し、15名が死亡し14名が負傷していた。
 そして、平成13年1月5日ころには、それ以外にも短絡された7機種が相当数存在し、又は新たな短絡が行われる可能性があり、かつ、電源を入れないまま使用されるなどして短絡事故が発生する危険性が高い状況が存在していた。このような短絡事故の再発を防止するためには、すべての7機種を対象として、後記6の〔1〕、〔2〕のような注意喚起の徹底及び点検・回収の措置がとられる必要があった。

 ■パロマは死亡事故情報を集約していた

4  こうした状況において、〔1〕7機種は容易に短絡できる構造になっており、そのような性状が短絡を促し、短絡による危険の発生に一定の寄与をしていた。〔2〕パロマ両社は、製造者及び販売者であったことから、上記13件のうち12件について、事故の発生と原因に関する情報を入手し、集約していた。〔3〕パロマは、修理代行店契約を締結し、一定の指揮監督関係を有する全国多数のパロマサービスショップについて、新聞等を通じ、パロマのアフターサービス専門店として、パロマが販売した製品の修理業務を行うことを、長年にわたり告知、宣伝してきたという経緯があり、現に、自ら販売したパロマ工業製品の修理業務を相当程度パロマサービスショップに行わせていた。〔4〕パロマ両社においては、パロマが販売した7機種に関する限り、そのすべてを対象として、マスメディア等を通じた注意喚起の徹底を行い、また、自ら又はパロマサービスショップが保管している修理記録やガス事業者からの情報等に基づいて、その設置場所を把握し、自ら又はパロマサービスショップをして点検・回収を行うことは可能であった。〔5〕他方、使用者等及び修理業者はもとより、前記Fパレスに都市ガスを供給していた東京ガスを含む各ガス事業者や経済産業省についても、事故情報の収集・集約が不十分であったこともあり、これらに広範な事故防止対策を委ねることができる状況ではなかった。
 以上によれば、パロマ両社としては、パロマが販売したすべての7機種を対象として、短絡の危険性についての注意喚起を徹底し、把握可能な上記7機種を点検して、短絡されている機器を回収する措置を行うべきであり、パロマ両社又はパロマ工業において前記地位にあった被告人小林及び被告人鎌塚は、この措置をとるべき刑法上の注意義務を負う立場にあった。

 ■元社長らは死傷事故発生を予見できた

5  被告人鎌塚は、〔1〕平成13年1月5日ころまでに、上記12件の事故の発生とそれらが短絡事故であること(うち1件は短絡が原因であることにつき、容易に認識できた)、〔2〕短絡の仕組みとそれによる死傷事故発生の危険性、短絡作業の容易性、〔3〕過去の短絡事故における短絡がコントロールボックスの故障に伴う修理の際に行われていること、〔4〕上記短絡事故機以外にも短絡されていた7機種があったこと、〔5〕コントロールボックスの故障は一定の割合で生じることを認識していた。そうすると、被告人鎌塚は、同日ころには、それ以降、本件事故までの間に、そのほかにも短絡された7機種が残存し、又は新たな短絡が行われる可能性があり、かつ、電源を入れないまま使用された場合には一酸化炭素中毒による死傷事故が発生することを予見することが可能であった。
被告人小林も、平成13年1月5日ころには、上記の被告人鎌塚とほぼ同様の認識を有しており、そうでない点についても同被告人からその情報を容易に入手することができたのであって、同日ころには、同被告人と同様の予見をすることが可能であった。

 ■短絡の有無を確認すべきだった

6  したがって、平成13年1月5日ころには、被告人小林においては、自らないしパロマ両社の担当者に指示するなどして、被告人鎌塚においては、被告人小林に進言して指示を仰ぎつつ、自ら又はパロマ両社の担当者に指示するなどして、〔1〕マスメディアを利用した広報等により、パロマが販売した7機種の使用者等に対し、同7機種において短絡がなされている可能性があり、その場合、電源が入っていないときは強制排気装置が作動しないので、一酸化炭素中毒事故を起こす危険性があることなどについて注意喚起を徹底し、かつ、〔2〕パロマ両社において自ら、又はパロマサービスショップをして、物理的に把握することが可能であったすべての上記7機種を点検して短絡の有無を確認して、短絡がなされた機器を回収するという安全対策を講ずべき業務上の注意義務があった。

 ■義務を怠り、漫然と放置

7  しかるに、被告人両名は、いずれもこの義務を怠り、これらの安全対策を講じずに、平成17年11月27日まで、漫然、これを放置し続けた。その過失の競合により、同日、本件湯沸器が電源が入っていない状態で使用されて多量の一酸化炭素が排出され、これを吸引した上嶋浩幸(当時18歳)を一酸化炭素中毒により死亡させ、同じくこれを吸引した実兄の上嶋孝幸(当時25歳)に入院加療49日間を要する右下腿コンパートメント症候群・一酸化炭素中毒の傷害を負わせた。

 

(事実認定の補足説明)

 

第1 争点等

 当裁判所が認定した犯罪事実は上記のとおりであり、〔1〕使用者等に対する注意喚起の内容の一部、〔2〕OEM製品に対する履行可能性、〔3〕予見可能性の根拠事実の一部以外は、検察官主張の

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