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山崎・前JR西日本社長の弁護人による冒頭陳述

 本件事故については、誰かに刑事責任を負わせなければならないとの強い意思がそこに働いたであろうことは想像に難くないが、被告人が過失を問われている当時の、西日本旅客鉄道株式会社(以下「JR西日本」という。) を始めとした鉄道業界におけるATS整備についての実情を含め、客観的事実に法律をあてはめてごく当たり前の判断をするならば、本件曲線にATSを整備するよう指示しなかったことをもって、被告人に業務上過失致死傷の刑事責任を問おうとすることは明らかに無理筋である。

 而して、その無理を承知で作り上げられた検察の筋書きは、平成8年12月ないし平成9年3月というタイミングに照準を合わせて過失を構築しようというものであり、これは、本件事故後において、回顧的見地から縷々検討を加え、平成8年12月ないし平成9年3月という時期に存在していたいくつかの事情を強引につなぎ合わせれば、一見もっともらしい理屈をつけることができるはずとの発想に基づいて、被告人は本件曲線で速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性を認識していたなどと根も葉もないことを独善的に決めつけるものであって、まさに過失責任の名の下に結果責任を問おうとするものにほかならない。

 その結果、先に指摘したとおり、鉄道業界における客観的現実等を無視しあるいは歪めて、本件事故より8年以上も前に注意義務違反があったとのいかにも技巧的な過失構成がとられ、平成21年7月、その当時JR西日本の代表取締役社長を務めていた被告人を起訴するに至ったと考えられるのである。しかも、過失を問われている当時の被告人は、JR西日本の常務取締役鉄道本部長という立場にあったもので、大所高所から全社的経営マターを判断遂行し、鉄道本部全体の業務を統括すべき職責を担っていたのであり、そのような立場の者に、個別の現場における安全対策の責任を問うというのは、いかにも異例である。

 被告人において、本件曲線で速度超過による列車の脱線転覆事故が発生する危険性を認識していたなどという事実が存在しないことはいうまでもないし、被告人としては、平成8年12月当時、よもや本件曲線で本件事故が発生するなどということは到底予見することができず、本件曲線にATSを設置すべきかどうかという思考に至ることがおよそできなかったものであって、本件起訴には理由がないというほかない。検察立論に従えば、被告人は、平成8年12月当時、他の誰もが認識し得なかった、本件曲線で列車の脱線転覆事故が発生する危険性を認識していた、あたかも全知全能者のようである一方、そのような危険性を認識しながらそれを敢えて放置した、とんでもない不届き者ということになるのであって、被告人をそのような稀有の存在に仕立て上げなければ成り立たない検察立論が破綻していることは明らかである。

 このように、本件は、客観的事実関係から大きく乖離したうえ、疑義を抱かざるを得ない過失構成がとられた上でなされた、まさにためにする起訴といわざるを得ないのであって、そうであるがゆえに、公訴事実等に示された検察立論は、その特異性が際立っており、多くの問題点を内包しているのである。

 そこで、以下においては、まず、公訴事実を分析したうえで、公訴事実及び証明予定事実の特異性や問題点を指摘して本件の特質を浮き彫りにすることとし、そのうえで、被告人が業務上過失致死傷の刑事責任を負ういわれはないことを明らかにするため、弁護人が証拠によって証明しようとする事実を述べることとする。

第2 公訴事実の構成及び公訴事実等の特異性・問題点

1 公訴事実の構成

 本件公訴事実は、分かりやすく構成されているとはいえず、論理性に欠ける立論と相俟って、その理解は必ずしも容易ではないが、その骨子と認められる部分を整理すると、検察官構築にかかる不作為による過失論は、以下のような枠組みのものとして、まとめることができると考えられる。

 すなわち、<1>まず、

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