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三菱自動車の元市場品質部長らに有罪を言い渡した横浜地裁判決

 被告人村川洋は、平成9年1月1日から平成10年6月24日までの間、自動車及びその部品の開発、設計、製造、売買等の事業を営む三菱自動車工業株式会社(以下「三菱自工」ともいう。)の技術本部品質保証部長として、同月25日から平成11年6月23日までの間、同社品質・技術本部市場品質部長として、同月24日から平成12年3月31日までの間、同社市場品質部長として、同社が製造した自動車の品質保証業務を統括する業務に従事し、同自動車について、その構造、装置又は性能が道路運送車両の保安基準に適合しないおそれがあるなど、安全性に関わる重要な不具合が生じた場合には、これがリコール等の改善措置を行うべき場合に該当するか否かの判断を行う会議等を主宰するなど、リコール等の改善措置を行う上記各部の責任者としての地位にあった者、被告人三木廣俊は、平成3年4月1日から平成10年6月24日までの間、同社技術本部品質保証部グループ長として、同月25日から平成11年6月23日までの間、同社品質・技術本部市場品質部グループ長として、同月24日から平成12年3月31日までの間、同社市場品質部グループ長として、上記各部長を補佐して同社が製造したトラック・バスの品質保証業務に従事していた者であるが、同社が製造したトラック・バス等の大型車両の共用部品であり、前輪のタイヤホイールと車軸を結合する重要保安部品であるフロントホイールハブ(以下「ハブ」ともいう。)について、平成4年6月から平成11年8月までの間に、車両の走行中に同部品が輪切り状に破損して前輪が脱落するなどの不具合が十数件も発生し、過去に十分な強度試験も実施しておらず、同部品の強度不足が疑われた上、平成11年6月27日に発生した同社製大型バス走行中のハブ破損による前輪脱落不具合(中国ジェイアールバス株式会社のバスのハブが輪切り破損した事例。以下「中国JRバス事故」ともいう。)に関し、同月28日ころ、リコール等の改善措置の勧告等に関する権限を有する運輸省の担当官から三菱自工が同事案の原因の調査・報告を求められるに至った。
 そして、被告人三木廣俊は、前記大型バスの前輪脱落の事案を市場品質部の担当グループ長として処理するに当たり、同社製の自動車で同様不具合が続発していて、同社製のハブに強度不足の疑いがあるなどの事情を知っており、今後も同部品が車両の走行中に破損してその前輪が脱落し、同車が制御不能となり、又は脱落した前輪が他の通行車両や歩行者等に衝突するなどして、同車両の運転者や歩行者等の生命・身体に危険を及ぼすおそれがあることが容易に予見できたのであるから、同社トラック・バス統括本部トラック・バス技術センタ一等に指示するなどして、徹底した原因調査を行わせ、それでも同ハブに強度不足の疑いが残る以上は、被告人村川洋にその旨報告して、リコール等の改善措置を行う場合に該当するか否かの判断をする上記各会議を開催するなどしてリコール等の改善措置を執り行う手続を進めるよう進言し、また、上記運輸省担当官の求めに対しては、調査の結果を正確に報告するよう取り計らうなどして、リコール等の改善措置の実施のため必要な措置を採り、もって同社製トラック・バスでハブ破損による前輪脱落不具合が更に発生することを防止すべき業務上の注意義務があったのに、これを怠り、原因調査を十分行わせることもなく、被告人村川洋に対する上記進言等も行わないまま、同年9月中旬ころ、他に同種不具合の発生はなく、多発性はないので処置は不要と判断するなどの虚偽を記載した運輸省担当官あて報告書を作成して、被告人村川洋に提出し、そのころこれを運輸省に提出させるなどして、同社製ハブを装備した車両についてリコール等の改善措置を実施するための措置を何ら行わずに漫然放置するという過失を犯した。また、被告人村川洋は、上記大型バスの前輪脱落不具合発生のころ、上記事案の発生と内容の報告を受け、被告人三木廣俊から、過去に同社製トラックで同様のハブ破損不具合が発生していたなどの報告も受けていたのであり、さらに、同被告人らから、上記大型バス前輪脱落不具合及びこれまでに生じていたハブ破損不具合の実際の内容等について具体的な報告を徴するなどして、同社製ハブに強度不足の疑いがあることを把握することが可能であり、今後も同部品が車両の走行中に破損してその前輪が脱落し、同車が制御不能となり、又は脱落した前輪が他の通行車両や歩行者等に衝突するなどして、同車両の運転者や歩行者等の生命・身体に危険を及ぼすおそれがあるなどの事情も容易に予見することができたのであるから、被告人三木廣俊らから更に具体的な報告を徴するなどして、三菱自工製ハブに強度不足の疑いがある事情を把握して、同被告人らに対し、同社トラック・バス統括本部トラック・バス技術センタ一等に指示して徹底した原因調査を行わせるべく指示し、それでも同ハブに強度不足の疑いが残る以上は、上記各会議を開催するなどしてリコール等の改善措置のための社内手続を進める一方、上記運輸省担当官の求めに対しては、調査の結果を正確に報告するなどして、リコール等の改善措置の実施のため必要な措置を採り、もって同社製トラック・バスでハブ破損による前輪脱落不具合が更に発生することを防止すべき業務上の注意義務があったのに、これを怠り、被告人三木廣俊ら部下に対し、上記原因調査等の指示も行わず、必要な報告を徴することなどもしないまま、同年9月中旬ころ、上記内容の虚偽を記載した運輸省担当官あての上記報告書をそのまま同担当官に提出するなどして、同社製ハブを装備した車両についてリコール等の改善措置を実施するための措置を何ら行わずに漫然放置するという過失を犯した。
 こうして、被告人両名は、それぞれの上記各過失の結果、平成14年1月10日午後3時45分ころ、横浜市瀬谷区下瀬谷3丁目17番地1先道路において、時速約50キロメートルで走行中の同社製大型貨物自動車の左フロントホイールハブを輪切り状に破損させて左前輪を脱落させ、同前輪を左前方約46.6メートルの歩道上を歩行中の岡本紫穂(当時29歳)の背部等に衝突させて同女を路上に転倒させ、よって、同女に頭蓋底骨折、外傷性くも膜下出血等の傷害を負わせ、同日午後5時1分ころ、同市旭区矢指町1197番地1所在の聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院において、同女を上記傷害により死亡させたほか、上記衝突の際の衝撃により、同女が伴っていた岡本S(当時4歳)及び乳母車に乗せていた岡本Y(当時1歳)をいずれも路上に転倒させるなどし、上記岡本Sに全治約7日間を要する頭部打撲の傷害を、上記岡本Yに全治約7日間を要する顔面打撲の傷害を、それぞれ負わせるに至った。

(法令の適用等)

 [省略]

(補足説明)

第1 弁護人の主張

 弁護人は、被告人両名の本件犯罪の成立を争う主張をするが、その主張の要点は、おおむね以下の趣旨に帰するものと理解される。

1 本件瀬谷事故及び中国JRバス事故の各事故車両に装備されていたハブは、Dハブと称されるもの(その意義については、後記第2・3(2)参照)であるが、このDハブが強度不足であったという立証はされておらず、そもそも客観的にDハブに強度不足の欠陥はない。

2 被告人らには、本件事故の発生に関する予見可能性がない。すなわち、被告人らの予見可能性を考える上では、被告人らに、Dハブに強度不足の疑いがあって、ハブ破断事故が発生することが予見可能であったことが必要であるが、そもそもDハブは強度不足でないし、これをひとまずおいても、被告人らが上記のような予見をすることは不可能であった。

3 被告人らには、結果回避可能性もない。

4 被告人らがリコール等の改善措置を講じないで漫然放置した過失などはない。

5 本件事故のハブが破断した原因は、事故車両を使用してい

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