村上文洋
2010年08月23日
「高齢者所在不明問題を受け、厚生労働省は12日、安否が不明の年金受給権を持つ高齢者に対し、生存確認を求める文書を近く郵送し、返信がなければ年金支給を一時差し止めることを決めた。」(時事通信 2010/08/12)
今回の生存確認は安否不明の高齢者のみだが、年金受給者の現況確認について、以前は全ての年金受給者に対し、毎年「年金受給権者現況届」(以下、「現況届」)の提出(郵送)が義務付けられていた。この「現況届」は、年金受給者にとって、「まだ生きてるのか」と毎年言われているようで評判が悪く、社会保険庁(当時)にとっても、郵送や事務処理に関わる手間やコストが大きな負担となっていた。
2006年10月からは、住民基本台帳ネットワークシステムを用いて年金受給者の現況確認を行うことになったため、「現況届」は不要になった。これにより、年金受給者の手間や心理的抵抗感はなくなり、社会保険庁の事務処理コストも削減された。e-Taxなどの電子申請もいいが、手続きそのものが不要になるほうが、国民にとってはより便利である。
しかし今回の一件で、現況確認に用いている住民基本台帳そのものの信頼性が揺らいでしまった。実は、国も自治体も、その地域に居住(生存)していて行政サービスを受ける権利がある人(ない人)を、正確に把握できていなかったことになる。
国民IDなどの議論をする前に、国民(ここでは行政サービスを受ける権利がある人の意)であることを確認するための手段や制度の再整備が必要だ。
話は100歳以上の高齢者だけの問題ではないのだが、なぜかこの根本的な問題を取り上げるメディアはほとんどない。
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