2010年08月31日
ところが大澤の分析ですら、『1Q84』が東京論でもあることをなぜか指摘していない。『1Q84』では村上春樹にしては珍しく実在の地名が多数登場する。そして「高円寺」にこだわっている。この小説は天吾と青豆という二人の男女が主人公だが、高円寺は天吾の住んでいる場所だし、登場人物たちは磁場に引き寄せられるように高円寺に集まってくる。対して青豆は「高円寺」とは(特に1984年当時には)まったく対照的な街である「自由ヶ丘」に住んでいる。だから、同じ東京にいながら、この二人はなかなか出会わないし、途中まではお互いが同じ東京にいるということさえ知らない。高円寺のアパートを根城にした独身男性と、自由が丘のアパートに住む独身女性の行動範囲は決して交わらないのである。
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