魚住昭(うおずみ・あきら) 魚住昭(ジャーナリスト)
ジャーナリスト。1951年、熊本県生まれ。一橋大法学部卒。75年、共同通信社入社。社会部記者として87年から司法クラブに在籍しリクルート事件などを取材。96年退社。司法分野や人物フィクションの執筆をしている。著書に『特捜検察』『渡邉恒雄 メディアと権力』『特捜検察の闇』『野中広務 差別と権力』(講談社ノンフィクション賞)など。2014年6月、WEBRONZA筆者退任
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
特捜部は事件の真相を解明しようとしているのではなく、自らが描いたシナリオに合うよう事件を捏造している。私は以前からそう思っていたので大阪地検特捜部の前田恒彦検事が証拠を改ざんしたという知らせを聞いても別に驚かなかった。
証拠の“つまみ食い”(都合のいいものだけをピックアップすること)や、都合の悪い証拠の隠蔽、それに関係者の供述調書のでっち上げは特捜部の“お家芸”だ。前田検事は単にその伝統に忠実だったにすぎない、というのが私の感想である。
だから、たぶん彼がフロッピーディスク(FD)の最終更新日時を書き換えたとき、罪の意識はほとんどなく、軽い気持ちでやったのだと思う。その意味では、「故意」によるFDデータ改ざんを否定し「書き換えて遊んでいただけ」(毎日新聞23日付朝刊)という前田検事の供述もデタラメとばかりは言い切れない。
もし彼が本気で村木厚子氏を罪に陥れるためFDデータを改ざんをしたのなら、改ざんしたFDを上村勉被告側に返却せず、検察側証拠として法廷に提出していたはずだ。と同時に、正しい最終更新日時を記録した捜査報告書も改ざんしていなければならない。
証拠改ざんをスクープした朝日新聞も前田検事の行動がちぐはぐで、理解しがたい点があると27日付朝刊で報じている。そのなかで「上村被告が公判で村木氏の『6月上旬』の指示を否定した場合に備えた『隠し球』としてFDを返却したのではないか」という検察関係者の見方を報じているが、私は賛成できない。
「隠し球」なら自分の手元に置いておくはずだし、村木氏の指示を否定する上村被告に不利な証拠を弁護人が自ら法廷に出す理由がないからである。