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「ニュースにだまされるな!」児童虐待、不明老人…家族は崩壊しているのか?

朝日ニュースター「ニュースにだまされるな!」×WEBRONZA提携

 朝日ニュースターの人気番組「ニュースにだまされるな!」(朝日ニュースター公式サイト)が、WEBRONZA(ウェブロンザ)スペシャルに登場。毎月第一土曜日に初回放送される2時間ちかい番組が、一挙に文字で、かつウェブで読めます。今回のテーマは「児童虐待と高齢者の所在不明問題」(10月2日(土)放送分)。今年、所在不明の高齢者問題や児童虐待による死亡事件が頻発しました。中村さん、金子さんが迎えるスタジオに集まった4人のゲストは、一連の報道をどのように見たのでしょうか。

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 ◆「ニュースにだまされるな!」児童虐待、不明老人…家族は崩壊しているのか(初回放送:10月2日(土)22:00~23:55)。司会:中村うさぎ(作家)、金子勝(慶応義塾大学教授)。ゲスト:小木曽宏(児童養護施設・房総双葉学園施設長)、青柳雄介(ジャーナリスト)、品田知美(東京工業大学世界文明センターフェロー)、結城康博(淑徳大学准教授、年齢順)。

 ◆次回の番組は、11月6日(土)22時からの放送で、テーマは「中間選挙後のアメリカは?(仮)」です。ゲストは、アンドリュー・デウィット氏(立教大学教授)、柴田徳太郎氏(東京大学教授)、砂田一郎氏(学習院大学前教授)、西崎文子氏(成蹊大学教授、あいうえお順)。司会はもちろん、中村うさぎさん(作家)と金子勝さん(慶応大学教授)です。再放送:7日(日)16時00分~、10日(水)21時00分~、11日(木)14時00分~、同25時00分~。詳しくは番組ホームページへ。「ニュースにだまされるな!」番組公式サイト。

【司会】

 ■中村うさぎ(なかむら・うさぎ) 作家、エッセイスト。1958年生まれ。コピーライターやゲームライターを経て、91年にライトノベル作家としてデビュー。自らの浪費や美容整形を綴ったエッセーなどで著名に。著書に『狂人失格』『女という病』『私という病』『セックス放浪記』など。

 ■金子勝(かねこ・まさる) 慶応義塾大学経済学部教授。1952年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得修了。専門は財政学、制度経済学、地方財政論。著書に『新・反グローバリズム』、共著に『新興衰退国ニッポン』『日本再生の国家戦略を急げ』など。

【ゲスト】

 ■小木曽宏(おぎそ・ひろし) 児童養護施設・房総双葉学園施設長。1954年生まれ。30年にわたり児童自立支援施設や児童相談所、淑徳大学教授などとして児童福祉の現場や研究に従事。現在、淑徳大学・千葉明徳短大で非常勤講師も務める。著書に『Q&A子ども虐待問題を知るための基礎知識』『現場に生きる子ども支援・家族支援―ケースアプローチの実際と活用』、共著に『児童自立支援施設これまでとこれから』『よくわかる社会福祉現場実習』など。

 ■青柳雄介(あおやぎ・ゆうすけ) ジャーナリスト。1962年生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業。出版社、雑誌記者を経てフリーに。主な取材分野は事件、社会、皇室、スポーツなど。

 ■品田知美(しなだ・ともみ) 東京工業大学世界文明センターフェロー。1964年生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科卒業。シンクタンク勤務を経て東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。専門は社会学。著書に『家事と家族の日常生活―主婦はなぜ暇にならなかったのか』『”子育て法”革命―親の主体性を取り戻す』、共著に『揺らぐ子育て基盤―少子化社会の現状と困難』。

 ■結城康博(ゆうき・やすひろ) 淑徳大学准教授。1969年生まれ。専門は社会保障論、社会福祉学。淑徳大学社会福祉学部卒業。法政大学大学院博士課程修了(政治学)。介護の現場で社会福祉士・介護福祉士・ケアマネージャーとして勤務後、現職。著書に『福祉社会における医療と政治』『介護―現場からの検証』『医療の値段―診療報酬と政治』『介護の値段―老後生き抜くコスト』『介護入門 親の老後にいくらかかるか?』『福祉という名の「お役所しごと」』など。

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(冒頭テロップ)

無縁社会 家族の再建で問題解決? 地域のボランティアで福祉は万全? 行政の怠慢で行方不明高齢者続々? 生活保護より老親の年金が頼り? 子どもを虐待する親に重罰は当然? 児童の安全よりプライバシーが大事? 子ども手当はやっぱりバラマキ? 公的福祉拡大より「自立」が大事?

♪オープニングミュージック:忌野清志郎「GOD」

うさぎ 金子さん、最近は、尖閣諸島沖で起きた中国漁船の衝突事件で盛り上がっていますけれども。

金子 日本も盛り上がっていますが、日本政府の対応が非常に曖昧なので、ぼくの周辺ではけっこう怒っている人が多いですよ。

うさぎ ネットとかを見ているとナショナリズム的な発言に元気があって、ちょっと個人的に気になるところですが。

金子 まだ(事態の展開は)途中なのでこれからどうなっていくか分かりませんが、ぼくの予想では、双方がこれ以上突っ走ってやり続けるかというと(そんなことはなくて)、何とか納めたいという雰囲気が出てきています。ただ、いくつかの点でちゃんとしておかなくてはならないことがあります。まず、那覇地検が外交上の判断をしたかのような発言をして、政府は「知りません」という立場をとる一方で、検察で大阪地検特捜部の証拠捏造問題が出てきています。これは政府(の対応)として適切じゃないでしょう。自分たちの政治判断をちゃんと示さず、逆に今になって「尖閣諸島は我々の領土です」と言われても。最初から「中国側のやり方はけしからん」とはっきり言わないから、そのことが逆にナショナリズムを高めてしまうと思います。

 もう一つ、見逃してはならない論点として、ちょうど菅(直人)首相と前原(誠司)外相がアメリカに行っているときに慌てて(中国人船長を)釈放した、という事実です。そこに何があったのかをちゃんと検証しないといけない。(2人は)恐らくアメリカにコミットを求めた、でも(アメリカ側は)「釈放しろ」だったのではないか。推測にすぎませんが、米ワシントンポスト紙など一部の新聞は、「日本のやり方はとても大人だった」と歓迎している。その一方で、アメリカは元安を叩きに入る。米中双方が密接でありながら互いにゲームをやりあっている中で、日本政府だけが中国側と接触せず、米国一辺倒で変な対応をしているために、ただの米中間の交渉カードにされてしまい、沈まされているように、ぼくには見えます。

 アメリカは「尖閣諸島は日米安保の範囲だ」と言いましたが、領土問題は日中間で解決しなさい、というちょっと無責任な態度を取ってもいます。日本の領有権を認めず、それを基地維持カードに使っています。この間、米中「G2」時代に日本外交はどうあるべきか、ということを試されたという風に考えた方がいい。中国ばかり見ているのではなくて、アメリカと中国という世界の構図の中で日本が言うべきことを言わないと、たち行かなくなりますよ、ということ。もちろん、(言うべきことを)言ったからといって戦争しろというわけではなくて、今後、同じような問題を尖閣諸島で起こさないためにはどうしたらいいか、中国との関係で詰めていくことが大事です。尖閣諸島について、「あなたたちはやりすぎでしょう」「あなたたちのやり方もおかしいし、我々に対するあなたたちの批判もおかしい」ということをしばらく言い合うことになるけれど、その中でガス田の交渉の再開などいろいろある中で、この問題をさわると、長期的に日本と中国の関係をよくしていかないと日本も生き残れないし中国も生き残れない、という(戦略的互恵)関係が崩れていってしまう。そういう状況になってしまうことを避けるためには、今後(問題が)起きないためにどうしたらいいか、しっかり考えていく必要がある。今の段階ではそういうところに入りつつあるんじゃないか(と思います)。

うさぎ 菅政権になってから、尖閣諸島の問題をはじめ、問題がてんこ盛りという感じです。そんな中で、今日のテーマは、高齢者や児童虐待を取り上げたいのですが、足立区の111歳の男性が実は死亡していたのに放置されていたという白骨死体事件があり、衝撃を受けました。

金子 もう一つ、大阪で離婚した女性が子ども2人をネグレクト(育児放棄)して、放置して死亡させてしまったという衝撃的な事件もそうです。米中との外交も大変だけど、気がついたら足元の社会も相当壊れている、それをどうにかしなきゃいけない、というのも忘れないでほしい。

うさぎ 最近は、家族内の問題が立て続けに脚光を浴びていますね。

金子 家族というと今までは私的領域の問題だったのに、この間の子ども手当の問題もそうですが、1人ひとりのプライバシー、私的領域の問題として任せられない状態が生まれてきた。じゃあ公的な部分はそれにどういう風にコミットしていけばいいのかが定かではない。しかしこのままいくと問題はどんどん広がっていく。そういう境目となっている状況で、今日はこの問題を正面から取り上げようと(思っています)。

うさぎ 家族というもの自体が、社会(の変化)とともに旧来の形とは変わってきていると思うので、どういう風に変わってきているのか、どう対処していけばいいのか、という話をしたいと思います。

金子 このままいくと1~2カ月すると、突出した事例の紹介、「わー!すごい、こんな問題があるんだ」で終わってしまう。そうじゃなくて、これは今後も続く社会問題だということを「ニュースにだまされるな!」で、まずはメディアに警鐘を鳴らす意味でやりたいと思います。

うさぎ 表面的に、老人の放置が悪いとか子どもを虐待する親が悪い、誰かが悪いという話ではなくて、その根本に潜む問題に、この番組ではがっつりと取り組んでいきたいと思います。

 今日はこの方々をゲストにご招待いたしました。淑徳大学准教授、結城康博さんです。結城さんは老人介護や福祉の問題に詳しく、最近、『福祉という名の「お役所しごと」』(書籍工房早山)という本を出されました。

結城 役所は福祉に関しては事務的で、早い話がいい加減にやっているので、それを市民が監視しなくてはならない、と書きました。

金子 元お役所(出身)で、福祉の現場にいた人なのに……(笑い)。

うさぎ 帯に「窓口で、”お役所しごと”をさせない秘策あり!」と書いてあって「あっ」と思わされました。「お役所仕事」はよく批判を浴びていますが、そういうご経験を生かした発言をされています。そうしたスタンスで、老人介護や福祉の問題をいろいろお聞きしたいと思います。

 そして、ジャーナリストの青柳雄介さんです。青柳さんは、高齢者の行方不明や児童虐待をいろいろ取材なさっています。

青柳 金子先生が言ったように、これは決して個人の問題ではなくて、日本社会全体の問題で、これからみんながもっと深く考えて行かなくてはならないと思っています。

金子 我々の社会のメディア報道は「こんなすごい!」と最初はびっくりさせるけれど、そのうちだんだん飽きてくるという問題があります。どんどん出てくるうちに「ああまたか」という風になってしまう可能性があります。

うさぎ 家族の問題を社会の問題として、みんなで考えていかなくてはならないですね。

 そして、児童養護施設・房総双葉学園施設長の小木曽宏さんです。小木曽さんは、児童虐待の現場などをよくご存じということですね。

小木曽 大阪の事件もそうですが、私も子どもたちと暮らしているので、親をバッシングして問題が解決するものではない、という立場の者です。

うさぎ 今日は、施設や児童相談所が家族の問題にどこまで介入できるのかという壁もあると思いますので、そうした点もお話しいただきたいと思います。

金子 (小木曽さんは)大学で教えているご経験もあるし、現場にも詳しいので、この問題を論じるには最適の方だと思います。

うさぎ そして、東京工業大学世界文明センターフェローの品田知美さんです。品田さんのご専門は社会学で、子育てや家族のありようなどを研究されています。

品田 今日は現場の方が多いのですが、私はどちらかというとふだん資料を見たり古い本を読んだり、統計データをいじったりを中心にしているので、皆さんのお話を聞きながら勉強させていただきつつ、と思っております。

金子 謙虚なふりをして(笑い)、ばんばん言ってくれると思います。

うさぎ 子育てや家族のありようが今どうなっているかなど、ぜひお聞かせ下さい。

金子 最近、女性の研究者によくゲストで来ていただきますが、昔と違って、今まで問題とされてこなかった領域が、ちゃんとした学問ベースでいろいろな形でみんなが主張するようになってきて、いいなと思っております。

うさぎ 金子先生は、女性のゲストにちょっと弱かったりして……(笑い)。

金子 批判されると、たじろいでしまう。男には強いんですけどね。女性に言われると、わーっとなっちゃう(笑い)。

うさぎ 女性には言えないタイプですよね。そんな感じで金子さんがマイルドになるという点も楽しんでいただきたいと思います。ありきたりの解説に飽きた方、不信感を持っている方、納得の2時間です。最後までごゆっくりご覧ください。

(CM)

うさぎ 冒頭でもちらっと話に出ましたが、死亡した高齢者を届け出なかった問題とか、あるいは児童を放置して死なせてしまった虐待問題とかって、世間的な論調は何となく、親が悪いとか高齢者を放っていた子どもが悪いといった個人の責任、個人を責める感じで、他人事として「わー、こんな人いるんだ!」と驚いて終わる感じになっています。でも、この問題は、個人を攻撃することではまったく何も解決しないと思います。そもそもどうしてこういう事件が起こるようになったのか、ということを最初にお話ししていただきたいと思います。

金子 これから高齢者の所在不明問題や児童虐待問題を一つひとつ、なぜ起きたかを少しずつ議論していきますが、まず、突出した事例があまりにも極端なので珍しい事件だと思い込んでいますが、数的に見ても、ものすごく大きな社会問題です。例えば「老々介護」による殺人事件は2005~06年ごろから頻発していましたが、小泉政権は介護保険法改正(2005年)でどんどん悪い方向に持って行ってしまった。これは「悲鳴」なわけです。もし1つの殺人事件があるとしたら、その背後に老々介護で苦しんでいる虐待みたいなものが大量にあるはずだと想像しなければならない。今回の異様な事例は、それに近い事例が無数に存在していると考えるべきで、「これは社会的問題だ」という認識が大事です。

 もう一つ、福祉の行政が合わなくなっている、という(感じがします)。家族が壊れてきてしまっているから、多様な問題が出てきている。極端に言えば子どもの問題と老人の問題が同時に出てきています。今まで我々の国の福祉は、年金の計算でもそうですが、標準的な家庭がセットされているわけです。

うさぎ 何が「標準」なんでしょうか。

金子 夫がサラリーマンで妻が専業主婦で子どもが2人いて、みたいな。そうすると、最近の子ども手当でも問題になっているように、配偶者控除や扶養控除をあげて児童福祉を(手当て)するという考え方だと、サラリーマン以外の母子家庭の人はぜんぜん税金払っていないから(福祉を)受けられないし、夫がいないから配偶者控除が受けられないという問題が起きています。標準家庭、つまり福祉の前提となっている家族像が崩れたとしたら、個別の問題に対して、1人ひとりをどういう形でどういう単位にして福祉を組み立て直すのか、公的福祉の考え方を今までのような考え方じゃなくするにはどうしたらいいのかを考えなきゃいけない。昔は何でも施設にぶち込んでいた、というとちょっと表現が悪いけれど、老人病院、精神病院、児童施設に「措置」という名前でどんどん収容していた、ところがそれでは持たなくなってしまったわけです。

うさぎ それは施設が満杯になってしまったからですか。

金子 満杯にもなるし、財政悪化で経費ももたない。代わりに入ってきたのが「自立」です。小泉改革で、障害者に対する障害者自立支援法とか、契約とか保険とか申請主義とかいうのが行政の中にだんだん入ってきている。おまけに役所はどんどん小さくなって、公務員数が増えない状況になってきています。気がつくとかなり福祉の考え方が変わって、10年ぐらいたってみたら誰も掌握できない状態が生まれてしまったんじゃないかとぼくは思っています。

うさぎ 老人とか子どもの問題も、身障者も、とにかく自分たちで何とかして下さいということになってきたわけですね。

金子 「自己責任」ですね。

うさぎ 「個人の自由」とか「自立」という名の下にそうなってきた。ところが「自立」(の流れ)が、逆に、結果として(福祉の対象者を)追い詰めたりしている。

金子 あるいは、問題を放置してしまっているんじゃないか。

 こうした問題に詳しい方をゲストにお招きしているので、お聞きしたいと思います。最初に結城さんと品田さんに、高齢者問題に詳しく入る前に、大まかに言ってどういう流れの中で全体の問題が起きているのか、という点に対する考え方をお聞きしたいです。

結城 まず、今まで出てきた家族の話ですね。よく教科書に出てきますが、3世代世帯が極端にだんだんと減って、65歳以上の夫婦のみの世帯と単独世帯が増えています。このグラフは厚労省もよく説明するのですが、これに則って政策をぜんぜんやっていない。市役所も県もこういうデータをよく出すのですが、これに則った仕事をしないで、あとはボランティアや地域に頼んで頑張りましょうということになっていて、ある程度は大事だと言いながら実質、公的責任を果たしていません。このグラフをまず頭に置いてから話をしていったほうがいいですね。

金子 単独世帯というのは単身、一人暮らしですよね。一人暮らしの老人もいれば、結婚しない若い人もいれば、母子家庭じゃないにせよ離婚した女性とか、いろいろパターンがありますよね。

結城 実は、若い人も当てはまります。結婚していない人たちとか、離婚した人とか、これは年寄りだけじゃないんですよね。

うさぎ シングルマザー、子どもがいて2人以上の世帯のシングルマザーは、単独世帯に含まれるんですか。

結城 シングルマザーは違いますね。客観的に今の福祉現場では、児童も高齢者もそうですが、まず地域が非常に弱体化していると言えると思います。昔だと怖いおじさんやおばさんが(近所に)いたので(子どもを虐待したり高齢者を放置したりしていると)怒られてしまう、あるいは「いやなヤツ」だと排除されてしまう。民生委員や見守りの人たちが後継者不足になっています。

金子 (テレビの)インタビューに出てくる町内会の民生委員を見ると、60代とか70代の人が多いんですよね。

結城 今だいたい75歳ぐらいで、70~80代の人が主力メンバーですね。

金子 昔あった町内会の見回り機能が弱くなっていて、マンションができるとまったく中に入れない。

結城 地域や家族の機能が減ったとして、公的な公務員はどうか。まず公務員を削減する、それから市町村を合併して見守りの公的な「パブリック」の範囲を広くしてしまう、パブリックが非常に減退しているのが現実です。確かに、公務員は仕事しない無駄な部署はいっぱいあるのでそれは削減すべきですが、むしろ福祉とか医療関係は増やしていかなければならないのに、そこも一緒に減っていくのは大きな問題です。

金子 地方都市で、例えば静岡の周辺が合併してわーっと大きな自治体になると、市街地以外のところもカバーしないといけないのに、行政としてはスリム化を図ろうとしますね。

結城 しかも現場を見ていると、市町村合併したことによって、町とか村にそれまであったコミュニティをぶっ壊してしまったという現実もあります。合併が福祉に対してどういう影響を与えたのか検証しなければならないと思います。

 三つ目は行政サービスの問題です。戸籍不明問題、身元不明問題もそうですが、ほとんどが家族の申請主義に基づいていて、サービスは申請しないと受けられない。困っている人がいても、行政から働きかけるものも児童相談所などありますが、「来たらサービスを出す」という風習がまだあって、「あとは福祉は契約なんだから契約でやって下さい」という流れがあります。

 四つ目は、2000年の社会福祉制度の基礎構造改革もそうでしたが、日本は豊かな社会になったから福祉は民間の競争原理でやればいい、と言っています。確かに1990年は豊かな社会でしたが、20年たったら貧富の差が激しくなってしまいました。もう一度、福祉サービスのあり方を考えるべきだと思っています。

金子 品田さんはどうでしょうか。

品田 私は、古い昭和ぐらいの家族を考えているので、そもそも再建するほどの「いい家族」が昔あったのか、という点が疑問です。

金子 なるほど。壊れたから昔に戻ればいい、と言うけれど、昔もそもそも再建に値するような家族があったのか、というわけですか。

品田 現場の理想としては「家族主義への回帰」が言われますが、でもそれは期待と理念であって、現実に行き届いたことがあまりなかったという風に見えます。

金子 実は問題は放置されていた、変わらなかった、と。

品田 ただ最近、ひとり親が増えたこと、高齢者の寿命が延びてケアの水準が上がったことで、問題がはっきり出てきた、昔だったら放置されたものが問題化した、と考えています。

金子 言葉は悪いけれど、「姥捨て山で平気」だった行政が当たり前の時代から、ちゃんと1人ひとり守らなければならない、と行政の期待水準が変わった。ところが現実はそこまで追いついていないということですか。

品田 そうですね。制度が追いついていないということだと思います。

うさぎ 私も、家族の崩壊とか、きずなの希薄化という話が出るたびに、昔に戻ろうというおじいちゃん・おばあちゃんと同居したサザエさん家のような家族を取り戻すべきだ、という議論が必ず出てきますが「それはどうなの?」と思います。昔に戻る必要はないし、家族の形態がどのように変わっていったか、そこに行政が合わせていくほうが現実的なんじゃないかと思います。今、品田さんがおっしゃったことは本当にそうだなと思います。

金子 問題のさわりが見えてきました。テレビや新聞でやっている極端な事例を面白おかしく見ていればいいという話じゃないな、と、だんだん分かってきたと思います。

 まずはどのくらいの規模の状態なのか、高齢者問題から始めてみたいと思います。足立区の事件が問題になって以降、(メディアや全国の自治体が)いろいろ調べていくうちに、所在不明の100歳以上の高齢者が全国で23万4354人(9月10日発表、法務省調べ)、つまり23万人を超えていたということが分かってしまいました。年金記録の問題もあってぼくの記録もようやく確認されたのはつい最近のことですが、普通の現役世代の人もそういう状態だから、ましてや100歳以上でいちいち調べていないということはよく分かりますが、きちんと捕捉しきれていなかったわけです。

うさぎ 江戸時代から生きている人もいましたね。「寛永何年生まれ」みたいな(笑い)。

金子 事件が発覚して、皆さんが知っている極端な事例ですが、東京・足立区の加藤宗現さん(111歳)は、ミイラ化した遺体が見つかって、長女と孫娘が年金詐欺容疑で逮捕された。大田区の三石菊江さんは生きていれば104歳ですが、長男がリュックサックの中に白骨遺体を入れていた事件が発覚しました。大阪府和泉市の宮田浅吉さんは91歳ですが、タンスの中からポリ袋に入った遺体が見つかりました。

 いずれも年金の不正受給がらみで問題になっていますが、実は年金の不正受給は受けていないけれど所在が不明になっているとか、30年前に親と音信不通になってしまって、その後、誰も確かめていない、どこへ行ったか知らないといった話もたくさんあります。23万という中には、さまざまなケースが含まれています。

 そこで、取材されている青柳さんに、実態として実際にどういうケースがあって、典型的な事例がどういう形で起きているのか、ご説明いただきたいのですが。

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