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偉大な求道者がつくった偉業の記録

倉沢鉄也

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

記録誕生の瞬間に立ち会うのは確かに心地よい。白鵬と双葉山との比較は9月場所終了時点から多く報道されているところである。しかしそれはイチローがいくつかの米国野球の記録を塗り替えていったときと同様、100年近く前とは勝負の条件が違いすぎ、もはや比較自体に重要な意味のない、100年後も伝説に残る偉業の実現だと捉えたほうがよい。

 本場所年6回15日制という同じ条件において、すでに白鵬の連勝は22年前の千代の富士の53連勝を抜いて頂点に立った。8度の全勝優勝も年間86勝も史上1位だ。一方双葉山は年2回の本場所で69連勝だったが当時は大阪準場所や名古屋準場所が開催されており、これらを含めた年5~7場所では87連勝、9連覇、優勝30回(全勝21回)を記録している。それらの比較と関係なく、白鵬の実績はすでに相撲の歴史の最高峰の一角にある。

 そもそも連勝とは、圧倒的な実力に加えて、プレイスタイルの安定性、ライバルの不在、怪我や病気を含めたコンディションの維持、プライベートの身辺を含めた集中力の持続、勝負上のいくつかの運、があってできるものだ。連勝記録で過去の競技者と比べて強いか弱いかは論じられない。とくに刹那の機微が勝敗を決する相撲において、連勝とは最もあやうくはかない記録である。双葉山の69連勝も、詳細を見るとこれらの要素が複数重なって実現し、またこれらの要素が複数重なって途切れたものである。白鵬の連勝は、本稿を書いているたった今、63で途切れた。69に届かなかったことは、もはや白鵬の評価において重要なことではない。

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