メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「厄介者」に渋面の警察の判断は慎重

緒方健二

緒方健二 元朝日新聞編集委員(警察、事件、反社会勢力担当)

「厄介なモノを持ち込んでくれた」と複数の警察幹部が嘆いています。沖縄・尖閣諸島沖であった中国漁船と海上保安部巡視艇の衝突事件をめぐる映像流出の捜査を、海上保安庁が警視庁と東京地検に委ねたことを指しています。

 インターネットに映像が流出してから4日後の11月8日、これを内部犯行とみる海上保安庁が国家公務員法の守秘義務違反などの容疑で、警視庁と東京地検に告発しました。当時は被疑者不詳です。それから2日後の11月10日、神戸海上保安部の海上保安官が「自分がやった」と名乗り出ました。「それにしても」と警察幹部たちの嘆きは続きます。なぜか。

●嘆きの理由

 第一に、国際テロ捜査に関する警察の内部情報とみられる114件がインターネット上に流出した問題を抱えているからです。10月末に発覚し、内部調査の真っ最中です。身内の不祥事のカタが付いてもいないのに、他機関の情報漏洩を調べる資格や余裕があるのかというためらいがまずあります。

 次に、衝突事件に対する社会の関心の高さです。9月7日に起きた事件は、単なる公務執行妨害事件では収まらなかった。中国人船長を石垣海上保安部が逮捕し、起訴する前提でこう留していたのに突然那覇地検が処分保留で釈放しました。船長はすぐに帰国しました。この間、中国政府は船長の釈放をずっと求めていました。さらに中国の軍事管理区域に侵入したとして日本人4人を拘束した。日本政府が中国の圧力に屈して釈放したと見られても仕方がないのに、「釈放は検察の判断」というだけで詳しい説明を避けました。海保が撮影した衝突映像は、一部の国会議員に見せただけでした。日本国内で、政府の弱腰と説明不足への不満に加えて反中国の感情が高まるのも道理です。そこへ海上保安官が「私がやりました」と名乗り出た。流出の動機を「一人でも多くの人に遠く離れた日本の海で起こっていることを見てもらい、判断して行動してほしかっただけ」と語っている。私が聞いた周囲の反応の多くは、保安官の動機と行動に理解を示したものでした。

・・・ログインして読む
(残り:約3551文字/本文:約4397文字)