まとめ:J-School ゲイ・ギョウブン、須賀裕一、シュ・セイイチ、ゼン・イ、寺嶋美香、毛受祐輔
2010年11月24日
郵便不正事件に端を発した大阪地検特捜部の証拠改ざん事件は、特捜検察のあり方をめぐり大きな議論を巻き起こした。同時に、メディアと検察の関係もあらためて問題視されている。シンポジウムでは元検事の郷原信郎氏、元共同通信・検察担当記者の魚住昭氏、そしてWEBRONZA編集長で報道ステーション・コメンテーターの一色清氏の3者を招いて、これからの「メディアと検察」の在り方を議論した。
シンポジウム(1)では、郷原氏と魚住氏がそれぞれ「検察」と「メディア」の視点で、日本の司法とその報道が抱える問題についての講演を紹介する。
■郷原信郎氏講演 「特捜検察の功罪」
図1の円が日本の社会全体だとします。日本の司法というのは、この社会の中心部分で日常的に起きる揉め事やトラブルを解決する上で機能してきたのではなく、むしろその周辺部分で滅多に起きない特殊な争いごとの後始末を付ける、という機能を果たしてきました。それゆえ日本においては司法の場で最終的に使われる法令が、あまり社会や経済の日常的な活動と馴染みのあるものではなかったわけです。そういう社会の周辺部分で滅多に起きない特殊な揉め事を解決する上で、絶対的な信頼と権威を保ってきたのが検察でした。
日本の検察の特徴というのは、刑事司法という領域において、基本的に全てを検察の正義のもとに解決させてしまうところにあります。それをそもそも刑事 事件として取り上げるのか、処分はどうするのかといった判断を、検察組織の内部で全て完結させてしまうのです。それが一口で言えば、「検察が刑事司法の正義を独占してきた」ということです。
それはいくつかの制度によって支えられてきました。例えば、最近「検察審査会」という制度によって大きな例外が設けられるようになりましたが、犯罪について起訴を行う権限、つまり公訴権は検察が独占してきました。そして、検察が行う処分について、部内で全ての判断を行うことができます。捜査資料を開示する義 務は基本的にありませんし、処分の理由について対外的に説明する必要も検察にはありません。そういう意味で、刑事司法の正義を独占してきたわけです。
このような検察による正義の独占というのは、先ほど言った社会の周辺部分で起きる滅多にない犯罪行為、つまり殺人、放火、強盗のような典型的な犯罪行為については、これはそのまま妥当します。なぜかというと、そういう犯罪行為は、元々悪いことは分かっているからです。殺人や強盗や放火というのは、それを処罰すべきかどうかという価値判断が基本的に必要ありません。要するに、証拠があり事実だと検察が判断すれば、処罰に向かって進んで行けばよいという存在なわけです。
しかし、問題は、最近では刑事司法の領域において、必ずしもそのように処罰の対象であることが明白な犯罪だけが検察の処分の対象になっているわけではないということです。私はそのことを、A型犯罪、B型犯罪という二つに分けて考えています。
A型犯罪というのは伝統的な犯罪。つまり処罰の対象であることが明らかな行為のことです。それに対して、B型犯罪は新たなタイプの犯罪です。経済犯罪や、医療過誤といった問題は、それに類する同じ様な行為が世の中にたくさん存在しているわけです。その中で何を刑事司法の対象にしていくのかということについて、一定の価値判断が必要になります。それはある意味で、検察の考え方や検察の判断の仕方が、本当に社会の実態に則したものであるかどうかの検証が必要であるということです。それが、A型の犯罪と異なるところです。伝統的な犯罪については先ほども言いましたように、証拠があるかどうか、またはその事実が認められるかどうか、ということを検察の組織の中で考えていればいい。つまり、特殊な領域の後始末 という考え方で十分にやって行けるのです。
検察の説明責任が昨年3月の「西松事件」辺りから問題になりましたが、私はこの説明責任という議論に関して、先ほど言った二つ犯罪タイプを分けて考えなければならないのに、それをしてこなかったことが混乱を招いていると考えています。
A型の犯罪に対しては、検察に説明責任はありません。証拠があり、事実が認められれば処罰の方向に突き進めばいいだけです。まさに「検察道」の世界です。しかし、B型の犯罪については、そういう行為を処罰する理由は何なのか、という説明責任がまさに問題になるわけです。
そしてもうひとつ重要なことは、B型の犯罪についてはひとつの事件を処罰するということが社会全体に大きな影響を与えるということです。例えばライブドア事件がそうです。ライブドア事件の強制捜査が行われた翌日、日本の東京証券取引所がどういう状況になったか。全銘柄がシステムダウンするという大変な影響を被りました。
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