メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

海老蔵事件における警察の標的とは

緒方健二

緒方健二 元朝日新聞編集委員(警察、事件、反社会勢力担当)

 被害に遭った人には申し訳ありませんが、傷害事件はありふれた事件です。警察庁のまとめでは、今年は1月から11月までに全国で約2万5千件ありました。東京では2908件です。全国で毎日70件前後起きている勘定です。そのひとつが歌舞伎俳優の市川海老蔵さんが11月25日未明、東京・西麻布のビル内で殴る蹴るの暴行を受け、商売道具の顔に全治6週間の大けがをした事件です。被害者が著名な人気者であるがゆえに一時は連日、大きく、事細かに報じられました。憶測も交えた報道が飛び交うなか、捜査に当たる警視庁が狙っているのは傷害事件の解明だけではないようです。

 警視庁は12月10日、容疑者として職業不詳の当時26歳の男を逮捕しました。「頭にきて殴った」と認めているものの、動機や経緯は詳しく語っていません。12月7日に退院した海老蔵さんは会見で、一緒に酒を飲んでいた自称暴走族元リーダーを介抱していたら殴られたと話し、相手方に暴行したことは「一切ない」と主張しています。一方、逮捕された男は取り調べに「自分が一方的に因縁をつけたわけではない」と、海老蔵さん側にも原因があったことを示唆する供述をしています。この手の事件の常で、被害者と加害者の言い分が食い違うものです。

 「こんな事件、いわば酔っぱらい同士のもめ事。どっちがどれほど悪いかなんてことを突き詰めても詮無いこと」と捜査幹部の一人は言います。では警察署だけで十分に捜査可能な事件に、本部の捜査1課を投入したのはなぜなのか。この幹部によれば、暴力団など反社会勢力を標的にする組織犯罪対策部も捜査に加えているようです。逮捕された男と関係の深いグループの実態解明に挑むためです。

・・・ログインして読む
(残り:約1592文字/本文:約2298文字)