武田徹(たけだ・とおる) 評論家
評論家。1958年生まれ。国際基督教大大学院比較文化専攻博士課程修了。ジャーナリストとして活動し、東大先端科学技術研究センター特任教授、恵泉女学園大人文学部教授を経て、17年4月から専修大文学部ジャーナリズム学科教授。専門はメディア社会論、共同体論、産業社会論。著書に『偽満州国論』、『流行人類学クロニクル』(サントリー学芸賞)、『「核」論――鉄腕アトムと原発事故のあいだ』『戦争報道』、『NHK問題』など。
武田徹
ただ統計を見る限り、都心部での消費上向き傾向は確かな手応えを感じさせる。東京・大阪では11月も前年同月比プラスを継続させた。もっとも、この数字をみて老舗百貨店で高級外国ブランド品を買い漁る中国人旅行者の姿を思い浮かべてしまうのは筆者だけか。
彼らの積極的な消費行動が目立つのは、それだけ日本人の、特に若い世代の消費に勢いがないからだろう。決して消費欲が枯れているということではない。大学で教えていてブランド品に夢中になりがちな年齢層の女性に触れる多少機会があるが、商品知識は相当に豊富だ。欲しがってもいる。それなのになかなか購買に至らない。それは家計に余裕がなくなり、扶養家族の身である彼女たちの可処分所得も減ってしまった事情もあるが、一方で情報化社会の必然というべき側面もあるように思う。
●消耗と消費の違いから消費社会を考える
かつて山崎正和は古典的名著『柔らかい個人主義の誕生』で「消費」と「消耗」を分けてみせた。消耗とは食材を咀嚼して消化するような、文字通り物理的な消費行為である。それに対して、彼がいう「消費」は「目的」に到る時間、過程、手段を重視する行為だとされ、
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