2010年10月の百貨店売り上げは久しぶりの前年同月比プラスだったと聞いた。本当かと思って日本百貨店協会の全国百貨店売上高概況をネットで見ていたら、翌11月にはまたマイナスに戻っている。もちろんこれまでの経緯を思えば、一度プラスに転じただけでも相当の吉兆だとは言えるが、消費動向はいまだ不安定であり、回復基調に本格的に転じたとはまだ断定できない。
ただ統計を見る限り、都心部での消費上向き傾向は確かな手応えを感じさせる。東京・大阪では11月も前年同月比プラスを継続させた。もっとも、この数字をみて老舗百貨店で高級外国ブランド品を買い漁る中国人旅行者の姿を思い浮かべてしまうのは筆者だけか。
彼らの積極的な消費行動が目立つのは、それだけ日本人の、特に若い世代の消費に勢いがないからだろう。決して消費欲が枯れているということではない。大学で教えていてブランド品に夢中になりがちな年齢層の女性に触れる多少機会があるが、商品知識は相当に豊富だ。欲しがってもいる。それなのになかなか購買に至らない。それは家計に余裕がなくなり、扶養家族の身である彼女たちの可処分所得も減ってしまった事情もあるが、一方で情報化社会の必然というべき側面もあるように思う。
●消耗と消費の違いから消費社会を考える
かつて山崎正和は古典的名著『柔らかい個人主義の誕生』で「消費」と「消耗」を分けてみせた。消耗とは食材を咀嚼して消化するような、文字通り物理的な消費行為である。それに対して、彼がいう「消費」は「目的」に到る時間、過程、手段を重視する行為だとされ、
・・・
ログインして読む
(残り:約1123文字/本文:約1784文字)