2010年12月29日
もしかすると、この記事を読まれた方は最高検が一連の事件の問題点を真摯に反省し、再発防止に取り組んでいるという印象を持たれたかもしれない。だが、私の受け止め方はまるで違う。100ページに及ぶ報告書を読んでの感想を率直に言わせてもらうなら、この報告書をまとめた検事たちはひどく頭が悪い。でなければ、ひ どく不誠実だ。
なぜなら、彼らは3カ月もかけて内部検証したのに、村木事件の捜査の根本的な問題点をまったく理解していない、もしくは理解していないふりをしているからだ。
検察側が組み立てた村木事件の構図をもう一度思い起こしてみよう。自称障害者団体「凛の会」が厚労省から公的証明書を発行してもらうため民主党の石井一議員に働きかけた。石井議員は知り合いの厚労省の部長に発行を要請し、部長の指示を受けた村木課長(当時)が部下の上村勉係長(同)に命じてニセの証明書を作らせた というものだった。
役所が政治家の意を受けて特定の団体に便宜を図るのはままあることだから、検察側が組み立てた構図は一見不自然ではない。だが、村木課長が証明書発行の最終決裁権者だったことをあわせて考えると、この構図には明らかな矛盾があることが分かってくる。
最終決裁権者には、自分の意思で本物の証明書を発行する権限がある。本件で「凛の会」が受け取った証明書がニセ物と判定されたのは、正規の発行手続きに必要な「凛の会」側の資料(団体規約や会員名簿など)が提出されておらず、村木課長以下(課長補佐ら数人)のハンコを押した決裁書がなかったためだ。
裏返せば、それらの必要条件さえクリアしていれば、発行された証明書は本物になっていた。後に裁判で明らかになった事実によると、「凛の会」側は厚労省に提出する資料を持っていて、いつでも出せる状態だった(大阪特捜もその事実を把握していた)。この資料の提出を受けて、村木課長が決裁書の作成を指示さえすれば、 いくらでも正規の証明書を発行できたのである。
彼女の主任弁護人・弘中惇一郎氏によると、彼女も当初から「私がもし『凛の会』に証明書発行をせざるを得ない状況になっていたとしたら、ニセ物の証明書を作らせたりせず、正規の手続きを経た証明書を出させていたはず」と語っていたという。
お金をくれると言っている人の家にわざわざ法を犯して盗みに入る人間はいない。それと同じように正規の証明書を発行できるのに
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