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上場はメディア企業の幸福にはならない

倉沢鉄也

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

 幻冬舎の自社株TOBに、謎のファンドが「介入」し経営に物言う可能性まで示しているという。細かい売買や情報発信の状況はAERAの2010年12月27日号に詳しく載っているが、少なくともこの謎のファンドの実質的な意思決定者が、純投資以外の目的、すなわち好調なメディア企業と自社経営のシナジー効果を目的にしているとは到底思えない。

 振り返れば、ライブドア騒動もライブドア自身の活動目的は、インターネットメディア企業としての経営判断ではなく、金融企業としての純投資目的だったこと、ホリエモンのメディア事業に関わる挑発的な言動は、一部スタッフの「にわか家庭教師」による後付けの知恵だったことが、内部関係者の発言から明らかになっている。

 そもそも書籍出版社とは、ファンドの投資対象になるべき業界なのか。

 いくら幻冬舎が業績好調と言っても、個人消費低迷の中で広告収入の直撃を受けて低迷するメディア業界の中にあり、しかも緩やかな死に向かっていると言っても差し支えない出版業界で、ニッチマーケットを狙って相対的成功を収めているに過ぎない企業である。

 書籍売上がそこそこ横ばいであることや電子書籍への転換などは「焼け石に水」であることは、拙稿「電子雑誌なくして電子書籍の未来なし」(2010.07.08)に記した。出版インフラを支えていたのは週刊誌の広告収入であり、書籍事業は相対的にとても高コストな事業である。それはマンガやテレビドラマなどに出てくるような、作家先生の執筆を促し、「原稿をいただくまで帰れません!」と居座る担当編集者のイメージからも明らかであろう。

 ここでポイントになるのは、出版社を典型とするマスメディア企業特有の財務体質である。

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