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不可解さに満ちたNHK会長選びの内幕

川本裕司 朝日新聞社会部記者

不可解さに満ちた選考劇だった。1月24日に任期満了を迎える福地茂雄NHK会長(76)の後任選びである。経営委員会で意中の人物を絞り込み、大任である公共放送トップ就任の了解を得るのがいつもの習わしだが、これほど躓きっぱなしの会長人事は聞いたことがない。

 経緯を簡単にまとめてみよう。福地会長は当初から1期3年限りで退任する意向を表明していた。

 このため、関係者によると、会長の水面下での後任選びは早々と着手され、09年末には西室泰三・東芝相談役(75)が最有力候補となっていた。元財界トップの推薦を受け、西室氏擁立の中心になったのは原口一博総務相(当時)で、総務省官僚も承知していたという。ただ、西室氏は米IBM社外取締役(10年7月に退任)だったため、「過去1年間に放送機器メーカーの役員だった場合はNHK会長になれない」という放送法の規定に抵触する。これをクリアするため、抜本的な放送法改正案で、この規定を緩和する項目も盛り込むことにした。

 ところが、ねじれ国会となった昨年11月19日、放送法改正案からこの欠格事由の緩和などを削除することが与野党で合意された。

 インサイダー株取引などの不祥事からNHK改革を軌道に乗せた福地会長の続投を望む声が経営委で強まっていたが、福地会長は退任を明言した。朝日新聞の取材に、福地会長は「1期のつもりで走ってきたので、あと3年といわれても精神的に持たない。また、慣れてくるとどうしても傲慢になってしまう」と、続投拒否の理由を語った。そして、会長選びは振り出しに戻った。

 退任の可能性が高いため次期会長選びをと進言する経営委員に、小丸成洋経営委員長は「まだ時間がある」と拒んできた。ようやく経営委で人選に着手したのは、西室氏の目がなくなった12月7日の経営委からだった。

 12月21日午後の経営委で委員が推薦する候補の名前をあげることになっていた。推薦候補のいる委員は、20日までに小丸委員長とNHK経営委員会事務局に伝えることになっていた。

 経営委当日の21日午前、ある経営委員は総務省幹部から電話を受ける。「委員会が真っ二つになるようなことは避けてください」。委員はこの日の日経新聞朝刊に載っていた「NHK次期会長に松本正之JR東海副会長浮上」という記事について尋ねると、「あれは冗談です」と言われたという。委員は「総務省からどうして電話がかかってくるのか、なぜ情報が漏れているのか」と憤る。

 名指しされた総務省幹部に「電話を委員にかけたか」と聞くと、「間違いじゃないでしょうか」ととぼけながら否定された。

 結局、21日の経営委で4人の候補者が推薦された。安西祐一郎・前慶応義塾塾長、白井克彦・前早稲田大総長、草刈隆郎・日本郵船相談役の外部3人と、今井義典NHK副会長だった。今井氏は外部3候補が不調の場合という位置づけだった。

 支持者が最も多かった安西氏は27日に就任を受諾する意向を伝えた。しかし、その際、「都内に部屋を用意してほしい」「交際費はいくらまで使えるか」「副会長を外部から連れて行きたい」という3条件を出したとされること(安西氏は「横浜で遠いから住居についてうかがったし、交際費についてもそういうものがあるのか、私は大学勤めなので全く知らずに、そう言う意味で伺ったけれども、条件を付けたということではまったくない。副会長については私の記憶では副会長とか理事の任期は何年かとうかがった覚えはある」と、条件ではなく仕事の環境についての質問と説明している)が尾を引く。ある経営委員は「不況のなか視聴者から反発され、受信料不払いが起きかねない」と批判した。

 さらに、年明けの1月5日に経営委員の非公式会合で、事態はさらにこじれていく。安西氏を推薦した小丸委員長が安西氏本人と面識がないことが明らかになった(小丸氏は11日の記者会見で「資料とネットで調べた」と発言)。女性の経営委員を中心に「安西氏個人の資質うんぬん以上に、経営委員の誰もがよく知らない人物を選んでいいのか」という根本的な懸念が噴出した。 ・・・ログインして読む
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筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞社会部記者

朝日新聞社会部員。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員。10年、論説委員兼務。17年4月から東京社会部。著書に『ニューメディア「誤算」の構造』。共著に『テレビジャーナリズムの現在』『被告席のメディア』『新聞をひらく』。

 

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