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阿久根市長選の結果が示すもの

大久保真紀

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

専決処分を繰り返してきて竹原信一氏(51)の市長解職(リコール)運動を推進してきた西平良将氏(37)が、竹原氏を破って新市長に選ばれました。議会を無視した強引な手法を繰り返してきた竹原氏が引き起こした市政の混乱を収束させたいという市民の意志だと受け止めることができます。

 8509票の西平氏に対し、竹原氏は7645票。有権者数1万9715人で、票差はわずか864票でした。12月に行われたリコールを求める住民投票での398票よりは差は広がりました。

 しかし、阿久根から遠く離れた地にいる我々には、民主主義のルールを守らないような竹原氏は圧倒的な差で負けてもおかしくないのではないかと思うのがふつうかもしれません。しかし、2008年の初当選以来、出直し選挙も含め2回選ばれ、今回の3回目で敗れましたが、それでもこの差です。半数近い市民があれだけ強引な手法をとった竹原氏をそれでも支持しているということは、何を示しているのでしょうか。

 そこに阿久根市の抱えた、あるいは日本の地方の抱える問題があるように思えます。

 昨年10月に10年ぶりに訪れた阿久根市は本当にさびれていました。かつてはJRの特急が止まっていた駅は、新幹線の開通で第3セクターの駅になり、ひっそりと列車が止まる駅になっていました。駅前の商店街はシャッター通りで人影もまばらでした。

 それまでに目にしていた報道から、議会を無視して専決処分を繰り返す竹原氏のやり方は民主主義のルールを破っており、「けしからん」というのが私の率直な印象でした。しかし、実際に現地に行き、議会を傍聴するなどすると、竹原氏のやり方も悪いが、議会も議会だと率直に感じました。大半の市議は竹原氏のやることにはすべて反対という姿勢で、非常にむなしさを感じました。

 議会を傍聴していた男性(75)は「議会は竹原氏にとにかく反対。政策の内容じゃないんだよね。でも竹原氏もやり方がへただよ。ただ彼が専決処分したことは、市役所の窓口の手数料を下げたり、ごみ袋の料金を下げたり、我々にはいいことばかりなんだけどな」と話してくれました。

 竹原氏は、職員給与の削減などを訴えて初当選しましたが、以来、議員定数16を6に減らす提案をして否決されるなど、議会とはことごとく対立しました。もともと、竹原氏は市長になる前の市議時代から議会からは煙たがられた存在でした。常任委員会の北海道調査を「観光目的」とみて参加しなかった竹原氏に対し、議会は問責決議をしたこともあります。

 阿久根市では農業や漁業など地元産業が疲弊し、彼らの年収は200万~300万円といわれます。約700万円といわれる市職員とは「官民格差」があります。議会や市職員への仕事ぶりや厚遇への不満が募っていた市民たちの心を「行政改革」を訴える竹原氏の主張と行動がつかんだとみられます。

 しかし、実際に政策を実行しようとすると、議会に反対され、否決されることが続き、竹原氏は専決処分を連発するという形で対抗したのでした。竹原氏は大半の市職員と議員と対立関係にあり、そのためにやり方が先鋭化していったようです。竹原氏に、あまりにも強引な手法ではないかと問うと、「私は市民のために、社会公正のために行動するのみ。私がどうなろうと構わない」と譲る気配は全くありませんでした。

 ある元職員は「竹原氏は手続きや過激な言葉を使いすぎるなど表現はおかしいが、やっていることは間違っていない。彼をモンスターに育てたのは、議会ではないか。市長の出す案はことごとく否決、否決を繰り返しながら、一方で不信任決議は出さない。だから竹原氏は専決処分を出すという態度になったのだと思う」と話してくれました。

 以前はぼろぼろだった市営住宅に網戸やサッシが入るなど、竹原氏が市長になってから市営住宅が改善されたと話してくれた市民もいました。低所得者層には竹原氏を支持する人が多かったようです。

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筆者

大久保真紀

大久保真紀(おおくぼ・まき) 朝日新聞編集委員(社会担当)

1963年生まれ。盛岡、静岡支局、東京本社社会部などを経て現職。著書に『買われる子どもたち』、『こどもの権利を買わないで――プンとミーチャのものがたり』、『明日がある――虐待を受けた子どもたち』、『ああ わが祖国よ――国を訴えた中国残留日本人孤児たち』、『中国残留日本人』など。

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