野呂雅之
2011年02月03日
実験に使われたのは、伝統構法で最も重要な特徴の「石場建て」による民家だ。石の基盤の上に柱脚を置くだけの建て方だが、この実験にこぎつけるまで実に3年近くもかかったのだった。
伝統構法をめぐっては、国土交通省が2008年度から設計法づくりに乗り出した。設計法の検討委員会が設けられ、大学の研究者のほか、大工棟梁(とうりょう)や建築士も加わって実務者の意見を反映させるはずだった。
ところが、その委員会の委員長は伝統構法に批判的な学者が務め、石場建てに後ろ向きな研究者らが委員会を主導して、肝心の石場建てによる設計法が見送られそうになった。
そうした問題は国会で取り上げられ、当時の馬淵澄夫国土交通副大臣が「構成メンバーに問題があり、中立的なバランスをもってすべきだ。検討委員会をしっかり見直す必要がある」と明言。昨春にメンバーを入れ替え、新たな委員会で臨んだのが今回の振動台実験だった。
その実験に触れる前に、伝統構法とはどんな家づくりなのか見てみよう。
木造の家を建てる際、住宅メーカーの大半が採っている在来軸組構法は合板や筋交いを使って壁の耐力を増やし、揺らさないように造る。壁量計算という手法で容易に建築基準法をクリアできる。
そんな現代構法の根底にあるのは、人間の技術で自然を征服しよう、地震力を技術で押さえ込もうという発想だ。
一方、伝統構法は自然には勝てないとの考えに立ち、地震力をやりすごす柔構造に工夫が凝らされている。
柱と横材でジャングルジムのような立体格子をつくり、地震の力をその構造の中に受け入れて、揺れながら地震力を分散し吸収する。土壁は揺れを抑えるが、限界を超えたら壊れて衝撃力をそぐ。
激震に襲われたら、石の基礎の上に置くだけの柱脚がずれたり浮き上がったりして、地震の揺れが地盤から建物に伝わるのを遮る。これが石場建ての構法だ。
匠(たくみ)の知恵を生かして、住む人の命を守ろうというのが伝統構法である。
だが、
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